百五話 合流とレレイの自覚
レレイに魔法使いになってもらう、そんなクロードの突飛な発言に、レレイはシンプルな疑問を呈する。
「どうやって?」
「レレイは支配の魔法に抵抗していたよな?」
「う、うん」
「それはおかしいんだ」
「え?」
「魔法に抵抗なんかできない」
魔法に対抗できるのは魔法だけ、それがこの世の法則だ、つまりレレイが支配の魔法に抵抗できたという事実が示すことは一つ。
「レレイは無意識のうちに魔法を使っていたんだ」
「そんなことが?」
「そうとしか考えられない」
驚くシャクスに、クロードは頷く。
レレイはクロードとの戦いで、最後の瞬間の攻防や、先程暗殺者を一撃で斬り殺したことから、単なる戦士としての実力は、フェイに匹敵するとクロードは考えている。
剣だけの実力なら、トウカに勝るとも劣らない。
それほどの実力者であるレレイが、無意識に魔法を使っていた、荒唐無稽な話と一方的に切り捨てることは難しい。
「あんまり思い出したくないだろうけど、どうやって支配の魔法に抗っていたんだ?」
「支配には一つだけ特徴があった、支配の命令には逆らえないけど、その命令をどう実行するかは私が選べた。だから私は反撃を主軸とする剣術に変えた」
できるだけ殺さないように、レレイの思いは言葉にせずとも、クロードとシャクスの二人には理解できた。
「でもクロード、私が無意識に魔法を使っていたとして、どうやって意識的に使えるようになるの?」
「それについては俺より詳しい奴がいるから、まずはそいつと合流しよう」
「呼んだか?」
「!!」
突然降りかかった声に、レレイは剣に手を伸ばすが、クロードが片手を伸ばして制する。
「彼女はお前のことを知らないんだ、斬り殺されても文句は言うなよ」
「それは悪かった、こっちとしても急いでたんだ」
現れたのは、傀儡大公の正体がロベニール子爵であることを確認するために、一度別れたヒルダ・イグノートだった。
「まぁ、状況が状況だもんな」
貴族街の一部が、炎の結界により隔離され、その中では操られた従士隊の人間と、炎で作られた獣共が暴れている、おまけにクロードたちはシャクスを狙う暗殺者から逃げている最中だ。
「ヒルダ、お前は炎の結界を張り、炎の獣を解き放った存在を知ってるんじゃないか?」
「《魅炎の魔女》ヘラ、それがこの状況を作り出した魔女の名前だ」
「ヘラ?」
「お前が名前に疑問を持つのは分かっていたが、あれこれ考えるのはあとにしろ、こうなったからには合流を最優先する」
「合流ですか?」
「私は孤立無援というわけじゃない、仲間がいる、そしてその仲間はこの屋敷にいる」
ヒルダはクロードたちが背にしていた苔むした古い屋敷を指差した。
「ヒルダの仲間がこの屋敷に?」
「ああ、それに彼女はクロードが良く知る人物と一緒にいるぞ」
「俺のよく知る人物?」
「フェイ・バルディア・ルーだ」
◆◆◆◆
「フェイ!!」
クロードは部屋に入った途端、傍にいた人も無視して、簡易的な寝床に横たわるフェイの傍に駆け寄る。
(息を規則正しいし、脈もはっきりしているが防具がかなり消耗してる、何かヤバいのと戦ったんだ)
フェイは意識がなく、眠っていたが命に別条がないことを確認したクロードは安堵の息を吐く。
安心したところでフェイの隣で、同じように横たわる女性の姿が目に入る。
こちらの女性もボロボロだったが、大きな傷は見られなかった。
「それで何が起こったのか説明してくれるか?」
「それは私から説明する」
むくりとフェイの隣で横たわっていた女性が起き上がる。
「あんた、起きてたのか」
「うん、先に自己紹介する、私の名前はギャラハッド」
「俺はクロード・イグノートだ、こっちの獣人の女性がレレイ・ソニンク・ルー、そっちの女性はシャクス・ウィル・ネリザスだ」
「よろしく、それで私とフェイがボロボロになった理由だけど、共闘して病魔の魔女を討伐したから」
「は?」
ギャラハッドと名乗った女性の言葉が衝撃的で、クロードは間抜けな声をあげてしまった。
「今病魔の魔女を討伐したと仰ったのですか?」
「うん、言った。フェイが頑張ってくれたお陰、フェイは魔女殺しになった」
「そいつはまた、頑張ったんだな、フェイ」
アレンはとても優しい手つきで、フェイの前髪を撫でて、彼女を労った。
「フェイ姉」
レレイは、規則正しい寝息を立てて眠るフェイに、じっと眺める。
「病魔の魔女を討伐できたのはめでたいとしてだ。ギャラハッド、外の状況は把握してるか?」
「してる、《魅炎の魔女》と《傀儡大公》が暴れてる」
「ここまでは想定通りだ、魔法使いも四人いる、フェイは戦えるか?」
「無理、私の魔法で治療したけど死にかけだった。戦うのは絶対に無理」
「そうなると戦える魔法使いは三人か」
「ヒルダ、魔法使いに関して話すことがある」
「なんだ?」
「第一に俺は二発の魔法を使ってあと一発しか撃てない、第二に魔法使い候補が一人いる」
クロードは、レレイが傀儡大公の精神支配の魔法を受けていたこと、それを自分が魔法で解除したこと、そしてレレイは精神支配の魔法に抵抗していたことを伝える。
「…なるほど。お前の名前はレレイだったか」
話を聴いたヒルダは、フェイと似た容姿の獣人の戦士に目を向ける。
「レレイ・バルディア・ルー、偉大な姉イリアスとフェイの末妹」
「私も名乗っておこう、ヒルダ・イグノート、苗字が示す通りクロードとは血の繋がりはないが親戚のような間柄だ」
「レレイ、悪いことは言わないから、この戦いには参加するな」
「それは善意の忠告?、それとも足手まといはいらないという意味?」
「両方だ、足手まといとまでは思ってないがな」
「私が魔法使いではないから?」
「違う、逆に聞かせてもらおうか、お前は何のために剣を取る?」
「敵はお前の姉が死にかけ、一国の首都で暴れ回る化け物共だ、生半可な覚悟ではお前の命だけでなく共に戦う者の命すらも危険に晒す、もう一度聞くぞ、お前は何のために戦う、レレイ・バルディア・ルー」
揺るぎない眼が、レレイを貫く。
その眼差しに対し、レレイは憤怒をフェイと同じ青い瞳に宿して答える
「私は私の剣を穢し、大切なものを奪った者共へ復讐する、そのために邪魔なものはなんであろうと斬る。それに…」
レレイは、クロードに目を向ける。
「私はクロードに全てを捧げると決めた、復讐することをクロードが許してくれるかは分からないけど、クロードが戦うのに、私だけ戦わないなんて許せない」
「ヒルダ、私に魔法を教えて」
「いいだろう、魔法を手に入れるのに必要なのは一つだ、己の我を強く自覚することだ、私がより遠くを見たいと思い、千里を見通す魔法を手に入れたようにな」
「我」
「そうだ、お前は何者だ、レレイ・ソニンク・ルー」
「確かソニンクとは獣人の言葉で、"疾い者"という意味の言葉だったはず」
ギャラハッドが己の知識から、レレイの名前に込められた異名を皆に教えてくれる。
「そう、私は森の覇者ルー族最速の戦士、足の疾さだけはイリアス姉やフェイ姉にも負けなかった」
クロードは、僅かに目を見開いて驚く、あのフェイよりも疾いと聞き驚いたのだ。
「私はこの世で最も疾い戦士になりたい」
その時、レレイの青い瞳の奥で、何かが弾けたように見えた。
「レレイ、まさか…」
「うん、多分使えると思う、魔法」
「まじか」
「びっくり」
二人の騎士はさらっと魔法が使えるようになったというレレイに対し、驚きを隠せなかった。
「支配の魔法に抵抗するために無意識に魔法を使っていたのなら、あり得ないことではないのではありませんか?」
「前例を知らないから同意のしようがないな、それより魔法を使えるようになったのならお前を戦力として数えるぞ、レレイ」
「分かった」
「よし、まずは全員で傀儡大公を討つ」
「魔女は?」
「《魅炎の魔女》は探さなくても向こうからやってくる」
ヒルダには何らかの確信があるように思えた。
「傀儡大公を討つにあたり、私とこいつの魔法について話しておく」
傀儡大公を討つための作戦会議が始まった。




