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百六話 剣の継承

作戦を軽く打ち合わせた四人の魔法使いは、古い屋敷から外に出ると、建物の屋根に立つ。


「まだ耐えてるけど、操られた従士隊はともかく炎獣は貴族の護衛には荷が重い」

「全滅してないだけマシだな」


「トリスタン、索敵して」

「もうやってる、傀儡大公は逃げも隠れもしていないな」

「見つけたのか?」


「ああ、私の魔法を使えばこの程度はな」


先ほどヒルダ自らの口から説明してくれた魔法の名前は”千里眼(アイズ)”、文字通り千里を見通すことができる魔法であり、様々な応用が可能な視覚強化魔法だ。


特定の人物を探すのはお手の物らしい。


屋根から飛び降りたヒルダを追って、クロードたちも飛び降りる。


屋敷にはギャラハッドの魔法の結界が張られており、彼女曰くたとえ魔女だろうと簡単には破れないそうなので、その言葉を信用して眠るフェイとシャクスを残してきた。


「ヒルダ、この際だから魔法を使いこなす方法を教えろよ」

「確かにな、いいだろう、魔法を使いこなす方法は簡単だ、魔法を使い続けることだ」

「簡単…?」

「お前の魔法は標的が必要だから、簡単ではないかもしれないが、道のりとしては容易いだろ」


「それには同意する」


山の奥地に引きこもるような修行を想像していたクロードは、認識を改める。


「魔法を使いこなす道のりの先には、奥義のような技が三つある」

「奥義?」


具現フェノム統合コンバージェンス改変オルタレーションの三つ、ちなみにフェイは具現フェノムを使ってた」

「その具現フェノムってのは?」


「魔法の具現化、魔法を物質として生成する技を具現フェノムと呼ぶ」

「魔法を物質として生成…」


「クロードの魔法がクソほど燃費が悪いのは、お前の魔法が具現フェノムを前提とする技だからだ」

「どうして俺の魔法のことを知ってるんだよ」


クロードは自分の魔法についての詳細をヒルダに話したことはなかったはずだ。


「”弓剣ノ矢(ソードアロー)”の使い手が昔存在したんだ」

「なに?」


「お前と私の使う弓と剣での戦い方を編み出した初代様だ」

「同じ魔法の使い手がいるってあり得るのか?」


「普通ならあり得ない、でも血縁が近い者たちや同じ流派を修めた者たちが似た魔法を発露させた例はある」

「初代様と俺に血の繋がりはさすがにないだろうし、流派の線か」


初代様がどこの誰かは知らないが、孤児のクロードがその血を引き、さらにそれを修めたろくでなしの師匠に拾われるなんて、あり得ないので、流派の線だろうと考えた。


「ーーー」

「な、なんだよ」


じろりとギャラハッドに凝視されたクロードは、思わず怯む。


「何でもない」

「何でもないって感じじゃなかったけど」

「うるさい」

「ええ?」


初対面のギャラハッドに罵倒されるほど、いつの間にかヘイトを稼いでしまったらしい。


「気にするな、ギャラハッドはイグノートの男に思うところがあるんだよ」

「師匠がなんかやらかしたのか?」


「その程度だったら、簡単な話だったんだけどな」


ヒルダは、それ以上語らなかった、自分が話すことではないと考えたのかもしれない。


♦♦♦♦


傀儡大公マリオデューク》ユーゲル・ロベニールにとって、貴族とは唾棄すべき存在だ。


高々生まれの違いで生まれる優劣、貴族というだけで全てが許される理不尽、平民を虫けら同然としか思っていない、あんな連中が、魔法も使えない劣等種の分際で、我が物顔で王国を支配するのが、許せなかった。


幼い頃から、不思議な力が使えた、指先から伸ばした糸を繋げた生き物を自在に操ることができた。


それを誰にも言わなかったが、暇な時は家を出て、その不思議な力で、生き物を操って遊んでいた。


ある日、家に帰ると、家が燃やされ、家族は殺されていた。


家族を殺し、家を燃やした豪華な鎧を着た男は呆然とするユーゲルに告げた。


曰く、みすぼらしい家が目障りだったので、燃やしたと、抵抗したので、家に住むものは殺したと言った。


男が何を言っているかよく分からなかったが、ただ一つ家族が理不尽に殺されたことだけは分かった。


怒りに任せて、拳を振るい、殴り飛ばされたユーゲルが、己に振り下ろされる剣を見つめた時、彼を救ったのは、英雄ではなく、魔女だった。


「人間は面白い、本当に面白い、同族を娯楽感覚で殺すのは人間くらいだろうね」


その魔女は、燃える家の屋根に立っていた、常識では有り得ない光景に全身の毛が総毛立った。


「なんだ貴様!」

罪の魔女(クライムウィッチ)モルガン、人間を観察し、研究する魔女だ、君たちは自分が殺される側になった時、どんな反応をするのだろうね?」


その時モルガンが見せた笑顔は、邪悪と表現しようがないものだったが、ユーゲルには女神の笑みに見えた。


♦♦♦♦


「魔女様こそ、王国を支配するに相応しい存在だ、魔女様が支配する国に貴族は邪魔だ、一人残らず消えてもらう」


クロードたちが潜伏していた屋敷の庭に、佇んでいたユーゲルの急所を狙って、二本の矢が飛来する。


ユーゲルは反応できなかったが、護衛に配置していた二人の暗殺者が、矢を斬り落とす。


「来たか、貴族の犬共が」


「失礼」

「私は犬じゃない狼」


現れたギャラハッドと、レレイが、護衛の暗殺者を切り捨てる。


「おしまい」

「それはどうかな?」


ユーゲルから爆発的な魔力が膨れ上がり、ギャラハッドは距離を置く。


「貴族を駆逐できるなら、人の姿など必要ない!」

「ギャラハッド!」


「ダメ!、今近づいたら一瞬で精神を支配される!、私の傍に来て」

「あいつは何をしようとしてるの?」

「おそらく具現フェノム統合コンバージェンスの合わせ技」


ユーゲルの全身が、人の形から変質し、人ではない異形のものへと変わっていく。


四肢が分裂し、顔が分裂し、それらの分裂に合わせるように、その肉体を巨大化させていく。


さらに切り捨てたはずの暗殺者たちも、その姿を変形させていく。


「自分だけではなく、支配した存在も変形させていく。最初から自分が支配した存在を貴族街中に散らばらせるのが目的」

「止められないの!?」

「無理、支配の魔法が込められた魔力を弾くので精一杯」


ユーゲルの変化は、クロードとヒルダの二人にも見えていた。


「戦闘者としての実力は並みでも、魔法使いの実力は”グラシャラボラス”の大幹部に名を連ねるだけはある、クロード、こうなった以上、支配された連中を放置はできない」

「ああ、でもギャラハッドとレレイだけを傀儡大公と戦わせるのか?」


「それしかない、それともお前は虐殺される人間たちを無視するか?」

「嫌な質問をするな、そんなことしない」


クロードは、眼下のレレイに目を向け、大声を張り上げる。


「レレイ!」

「っ、クロード?」

「絶対に死ぬな!、まだお前をフェイに会わせてないし、勝手に死なれたら苦労して助けた意味がないだろ!、分かったか!?」

「うん!、絶対にフェイ姉とクロードの元に帰るから!」


「行くぞ」

「なんだ、存外気に入ってるんだな」

「うるせぇな、さっさと行くぞ」


ヒルダの茶化しに悪態を返しつつも、否定はしなかった。


「レレイ、準備はいい?」

「うん、いつでもいける」

「戦う前にレレイに渡すものがある」


そう言ってギャラハッドが差し出したのは、腰に差していた刃折れの剣だった。


「刃折れの剣?」

「ただの刃折れの剣じゃない、多くの魔と悪を切り捨てた魔剣、銘は"エンドグラム"」


「"エンドグラム"」

「この剣は魔女との戦いで折れたけど死んだわけじゃない、新たな持ち主が握れば復活する」


「どうして私に?」

「レレイには勇者の資質がある」


「勇者の資質?」

「エンドグラムは勇者の剣、かつてこの剣を振るった勇者は悪を破壊し、この世から魔を駆逐することを目指した」


「復讐だった、故郷を滅ぼした魔獣への、大事な人の国を奪った魔女への、復讐。そのために勇者は戦った」


「レレイ、君はこの剣を振るった勇者と同じ理由で戦うと言った」

「勇者の資質は復讐心ってこと?」


「違う」

「え?」

「復讐したいと思うほど誰かを、何かを大切にできる心、それこそが勇者の資質」

「大切にできる心」


レレイは刃折れの剣をじっと見つめる。


美しい刀身、折れる前はさぞかし美しい剣だったことが、剣士であるレレイには分かった。


「その勇者は復讐を果たせたの?」

「この剣と同じように半ば」

「そう、それならその勇者の復讐も私が背負う」


レレイは鞘に納められたエンドグラムを、ギャラハッドから受け取った。


その瞬間、鞘に納まったエンドグラムは、鞘ごと淡い光に包まれ、その形をほのかに変える。


その鞘は僅かに反り返り、レレイが柄を握り、刃を引き抜くと、金色の直刃が刻まれた美しい白銀の刀身の刀が現れた。


「私、セレスティア・ギャラハッド・ノヴァクレストが、レレイ・ソニンク・ルーを新たな勇者として認める」


新しい勇者の誕生を、かつての初代勇者が祝福するのだった。


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