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百話 病魔の魔女討伐戦

その地下室には病に汚染された空気が満ちていた。


死体の数は通路に倒れていたものを含めれば、三十に届く。


バラックに占拠された地下室であっても、その魔女の気配を見つけるのは簡単だった。


病気というのは、人間が本能的に拒絶するものであり、ギャラハッドが語った魔法使いの直感が無くとも、フェイにはその女が魔女であると分かった。


バラックの上にぽつりと立つ長髪の女、その髪は長すぎて足元までに伸びている。


それだけなら髪が異常に長い女というだけで済んだが、彼女が垂れ流す()()はこの世の汚物の頂点に立つと思えるほど、強烈な匂いを放っていた。


「人?」


フェイとギャラハッドに気付いた魔女が振り返る。


「どうして生きてるの?」

「他人に聞く前に自分で考えたら?」


嫌味をたっぷりと載せた言葉を、ギャラハッドは魔女に進呈する。


「苦しいよね、私の病を受け入れれば苦しまなくて済む」


魔女はその嫌味を感じ取る会話力すらないのか、好きなように話す。


「私は病魔の魔女(イルネスウィッチ)デラシア、病魔を運ぶ風を浴びるといい」


デラシアが名乗りを上げ、彼女の周囲に風が渦巻く。


逆巻く病風は、バラックを吹き飛ばし、吹き飛んだバラックの残骸が、二人に襲いかかる。


フェイは、地を駆けて飛んでくるバラックの残骸を避ける。


ギャラハッドは、回避ではなく迎撃を選ぶ。


ギャラハッドの周囲に四本の光り輝く剣が出現し、飛来した残骸を切り裂く。


それを横目で見ていたフェイは、自分のことに集中する。


デラシアは最初の場所から動いてない、それどころかフェイやギャラハッドのことすら見ていない。


戦い慣れていない?、否、彼女に戦うという概念が存在しないのだろう、自分以外の生物は、病に犯されて死に果てるだけの存在だ。


「ー」


大剣に冷炎を纏わせる、頭の中で思い浮かべるのは魔女デラシアを倒すイメージと、冷炎を纏うエルフリーデの姿だ。


彼女であれば、目の前の魔女とどう戦うのか。


冷炎フロストフレアの特性は凍結と燃焼、対して相手の魔法は魔法の防御がなければ即死する病魔の風。


(エルフリーデは冷炎の凍結を拘束に使って、燃焼を攻撃に使ってた)


風には凍結も燃焼も通用するイメージが湧かない、この場合はギャラハッドの動きを待つしかない。


「"光り輝く剣(オレオール)"」


ギャラハッドの周囲に浮かぶ四本の光剣が、病風を纏うデラシア目掛けて飛んでいく。


デラシアは、防御する仕草すら見せない。


飛来する光剣は、突き刺さる直前にデラシアを包む病風の壁に触れた瞬間、その輝きを失い消え去った。


「!!」

「なるほど、この程度では痛痒すら与えられないか」


呟いたギャラハッドは、刃折れの剣を抜く。


「病魔の風、その病は魔法の造物にも及ぶか。フェイの助けが必要だね」


ギャラハッドは、こちらを見るフェイと目が合った。


「フェイ、忘れるな、あれは殺せる。殺せば死ぬ存在だ」

「ん!」


フェイは、大剣に纏う冷炎を見る。


風には凍結も燃焼も通用するイメージが湧かない?、それは怠慢だ、貰い物とはいえこの炎は、リベルタを幾度の脅威から救った英雄の炎だ。


英雄エルフリーデはこの程度の困難で、剣を下げるのか。


否、断じて否だ。


「私はエルフリーデにはなれない、けれども彼女に無様な姿は見せるわけにはいかない」


冷炎フロストフレア、魔法というものはフェイにとって、異物に近かった。


フェイにとって戦いとは自分の肉体で、行なうもので、剣や鎧は肉体の延長だと考えている。


そのため体外で魔法を操ることがとても苦手で、身体に纏うか、得物に付与エンチャントすることで、行使していた。


クロードの矢への付与エンチャントの経験で、冷炎フロストフレアそのものへの理解は深まったが、その苦手意識は消えていない。


それでも魔女を倒すには、その苦手意識を打破しなければならない。


「"《冷炎陣フレアサークル》"」


フェイの足元から同心円状に、青色の炎が広がり、地下室の地面を、燃やす。


それにより、病魔の風の一部が燃える。


フェイの魔法が燃やしているのは、風そのものではなく、風に含まれた魔法で作られた病原体そのもので、見えなくとも、そこにあると分かれば燃やすことができる。


「?」


魔女デラシアは首を傾げる、己の病魔(魔法)()()()という経験は生まれ落ちて、初めてのことだった。


好奇、自分の魔法を燃やすフェイにデラシアは興味を持った。


「面白い」

「お前の病魔は私が燃やし尽くす」


大剣の冷炎を消したフェイは、病魔の風を燃やすことに注力する。


魔女と魔法のぶつけ合いを始めたフェイ、ギャラハッドは険しい表情を隠さない。


(デラシアを討つには病魔の風をどうにかするしかないから、方針は間違ってない、でも方法が良くない)


魔法を使うにはその者が所有する神秘ミステリオ、いわゆる魔力を消費する。


その点においては魔術と同じだが、魔法も魔術と同じように、規模スケールが大きければ魔力の消費量が上昇するという性質がある。


フェイは、今地下室全体に、広がる炎陣を展開している。


魔力消費量はかなりのものであることが予想できる、ギャラハッドは、フェイの魔力総量を知っているわけではないが、魔女は神秘の塊だ。


莫大な魔力総量を誇る魔女に持久戦を挑むのは得策とは言えない。


(もしフェイが負けたら、使()()しかないけど…)


ギャラハッドが思考する最中、状況が変化する。


地下室の床で燃え盛る青色の炎の火力が、加速度的に増し、幾つもの炎柱が立ち上る。


それに伴い、地下室の気温が急激に下がっていく。


「"冷炎爆発フロストエクスプロージョン"」


着火された炎柱が激しく吹き上がり、一斉に大爆発を起こす。


凍てつく爆風が、デラシアを襲い、魔女は呑み込まれた。


その瞬間、デラシアを守る病魔の風の守りが破壊される。


その隙を見逃すフェイとギャラハッドではない。


二人の踏み込みは、瞬きの間。


デラシアを間合いに捉えた二人は、それぞれの得物をデラシアへ振り下ろす。


戦闘を経験したことの無いデラシアに、その攻撃を視認することはできないが、凍てつく爆風を受けた時点で、魔女の本能が警鐘を鳴らす。


生まれて初めての生命の危機を訴える本能に、デラシアは戸惑いながらも迷うことはしなかった。


「「!?」」

「"黒死風ゲイルペスト"」


世界が改変され、地下室を支配する冷たい炎が消え去る。


僅かに地下室を照らす光苔すらも、黒く染めてしまう暗黒の風が、フェイとギャラハッドを、壁面まで吹き飛ばす。


本来であれば地下室を暗闇が包むはずだったが、光り輝くギャラハッドが、それを許さない。


「適当にばらまくだけだった魔法の性質を偏重させたか」


デラシアがやったことは全方位にばらまいていたものを一方向に集中させただけだ。


やったことは単純でも、今までその程度の単純なことすらやっていなかったデラシアが、それを行なった意味は大きい。


「ゲホッ」

「"光り輝く祝福(オレルブレス)"」


魔法の防御を貫かれて、病魔に犯されたフェイに、光が降り注ぐ。


黒く斑に染まっていたフェイの顔色が、元の肌色の戻り、口元を拭ったフェイは立ち上がる。


「あ、ありがとう、ギャラは?」

「私は大丈夫。病気とか毒みたいな状態異常にはフェイより耐性がある魔法だから」

「そう」


二人は、デラシアを守るように逆巻く暗黒の風に視線を向ける。


「あれはさっきの守りとは全くの別種、不意打ちの魔法程度じゃビクともしない」

「どうすればいい?」

「方法はある」


ギャラハッドは、刃折れの剣から光の刃を生やす。


「魔法はその者の力量次第で色んなことができる、その中でも奥の手とされる妙技は三つ、これはそのうちの一つ」


ギャラハッドの周囲に幾つもの光り輝く剣が顕現し、刃折れの剣の刃に集まっていく。


「"統合コンバージェンス光輝なる煌めく剣(オレリオール)"」


見た目はさほど変わっていない、しかしフェイの目にはギャラハッドの持つ光の剣が全くの別のものに見えた。


魔女の本能があの剣は危険であると訴える、その訴えを認めたデラシアは、自身の周囲で渦巻く"黒死風ゲイルペスト"をギャラハッドに放つ。


触れただけで即死する風が、ギャラハッドに殺到し、対するギャラハッドは、光の剣を真一文字に振るう。


たったそれだけで、暗黒の風は吹き散らされる。


「魔法使いの先輩として無様な姿を見せられないから」

「!」


不敵に笑うギャラハッドに対して、デラシアの肉体に生まれて初めての緊張が走るのだった。

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