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健康診断の話

 注射が嫌いだ。

 採血、ワクチン、点滴、全てが例外ではなく嫌いの対象である。ちなみに注射嫌いの私でも献血カードは持っている。「献血で社会貢献したい」という逸りすぎた自己犠牲と偽善の賜物である。おかげでこの世に回数ゼロの、生まれた意味があまりない献血カードが生まれてしまった。こんな持ち主でごめんね。


 さてそんな注射嫌いの私でも年に一回最低限の注射を打たねばならない日がある。そう、健康診断の日だ。大学時代は採血のあった一年生の頃以外、非日常感にわくわくしながら受けていた行事が一気に地獄と化した。仕事を合法的にサボれるとしても嫌なもんは嫌である。しかも健康診断の分で消費できなかった仕事で残業になるし。大人というのは思ったより、つらい。


 しかしそんなことを思いながらも健康診断というのは無視できないのだ。雇用主は職場のスタッフ全員に健診を受けさせる義務があるし、何より健康診断の総元締めである総務課を怒らせたら後が怖い。事務局で最大手の総務課の機嫌を損ねれば後に待つのは、非協力的な態度と総務課内で日夜繰り広げられるであろう愚痴である。

 流石に退職が四十年も先になる中、社会人二年目でそんな立場には置かれたくない。


 仕方がなしに腹を括って採血室で死の宣告を待つ。結論から言うと看護師さんは優しかった。超優しかった。総務課なんて目じゃないくらい優しかった。「横になって注射して頂いてもいいですか?」と、できるだけすまなそうに申し出た私に「なんもだよ〜」と言いながら注射を打ってくれた。しかもちゃんとノルマの三本分を採ってくれたし、ルートも一発で採ってたし、その上で注射を打った腕の掌をさすってくれた。冷たくてガサガサの手で本当にすみません。ありがとうございます。


 うちの採血室のスタッフさん超優秀じゃない?

 注射が嫌なのは変わらないが、信頼度がまるっきり変わったのは言うまでもない。やっぱり採血室所属は一味違う。


 さて、そんな私だが、実は血と付くものでもう一つ相性が悪いものがある。血圧だ。

 言っておくが高いのではない。逆だ。低いのだ。上は下手すると一〇〇を切る。そして分かってるはずなのに毎回ビビる。人類の叡智(インターネッツ)で血圧の範囲を調べては一人で落ち込んでいるのが、私だ。


 だが四の五の言ってはいられない。健康診断の期間は限られているのだ。測りにくるスタッフが少ないであろう時間を狙って自分も測りに行く。

 Yシャツの袖を捲って、いざスタート!


上の血圧:108

下の血圧:78

脈拍:101


 うっそーんそんな低いの?

 出てきた値は側にあったチラシを切っただけのメモに取る。ちなみに経費削減で血圧計からシートは出ない。世知辛い世の中である。

 何かの間違いだと思ってもう一度測ってみる。腕は奥に差し込んだ。ちゃんと採血していない左腕で取っている。ちなみに注意書きをちゃんと読んだところ、袖は捲らない方がいいらしい。注意書きはちゃんと読みましょう。さあ今回は袖を捲らず準備は万端だ。いざスタート!


上の血圧:100

下の血圧:68

脈拍:100


 ……なんかさっきより悪化してないか?

 おいこらドリフのコントじゃないんだぞ。と思いながら私は健康診断表に一回目の記録を書き込んだ。三回目を取る気力はないし嘘は書いていない。二回測っただけで、ちゃんと出た値は詐称せずに書いてある。産業医の先生からありがたいコメントが頂けるであろう未来に想いを馳せつつ、私は封筒の封を閉めた。

 ちなみにこの後、駄菓子屋やコンビニで三十円くらいで売ってる、親指くらいの大きさの菱餅みたいなチョコレートを食べたら下の血圧だけ上がった。まじか。封筒をバリバリして開けたくなったが後の祭りである。


 そんなこんなで、身長が一センチ縮んで採血以上にショックを受けた今年の健康診断も幕を閉じたのである。さて、ちゃんと一センチが戻ってきているか。二十代半ばで成長期なんてとうに過ぎているが、来年に乞うご期待である。

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