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第8話 五サークル・マスター

「おい。

どこにいる?

早く出てこい」


カイはあたりを見回しながら、

声を上げた。


だが、いくら呼んでも

ピコは答えなかった。


「あいつ、

どこに隠れたんだ?」


カイは家の周囲を

ぐるりと回り始めた。


ちょうど裏手へ

足を向けようとした、そのときだった。


「あの……

もしかして、これをお探しですか?」


カイは足を止めた。


顔を向ける。


だが最初は、

誰も見えなかった。


(どこだ?)


視線を下へ向けて、

ようやく見えた。


ずっと下のほうで、

金髪の小さな女の子が

青い目をきょろきょろと動かしながら、

こちらを見上げていた。


少女はおずおずと

両手を差し出した。


「これです。

さっき急に飛んできて……

私が受け止めました」


その手のひらの上には、

ピコが大の字になって

ぐったりと横たわっていた。


短い足も。


両腕も。


すべて力なく垂れている。


カイはピコを持ち上げた。


「こいつ、

気絶してるな」


彼はピコを

再びポケットに入れた。


そして目の前の少女を見下ろす。


金色の髪が、

ふわりと揺れた。


ふと好奇心が湧いた。


「君、名前は?」


少女の目がきらりと光った。


少しだけためらったあと、

彼女は小さな声で言った。


「レイチェルといいます」


カイが返事をしようとした瞬間、

背後から人の気配がした。


振り返ると、

バンとネオが立っていた。


「おじいちゃん!」


レイチェルがぴょんと跳ねるようにして、

ネオのもとへ駆けていった。


バンが説明した。


「レイチェルはネオ様のお孫さんです。

今年で十七になります」


カイはぎょっとした。


「じゅ、十七?」


バンが不思議そうに尋ねる。


「どうかしましたか?」


カイは一瞬、戸惑った。


「はは、いえ。

ただ……」


彼は曖昧に笑った。


「子どもかと思ったら、

思ったより年上だったので」


そしてすぐに話題を変えた。


「では、バンは?」


「私は二十五です。

ハキも同じ年です」


バンは落ち着いて付け加えた。


「ネオ様は六十になられました」


カイはゆっくりとうなずいた。


「これはまた……

みなさん、思っていたより年上なんですね」


幼く見える、という言葉を

遠回しに言った。


一行は再び、

家の中へ向かった。


扉の前に立つと、

ネオが尋ねた。


「そういえば。

君はいくつなのだ?」


低い扉をくぐろうと

体をかがめていたカイが答えた。


「二十九です」


その言葉に、

バンとハキが目を見開いた。


ネオが尋ねる。


「その姿は本来のものなのか?

二十代半ばほどに見えるが。

魔法で変えているのか?」


カイは手を振った。


「いえ。

これが元の姿です」


そして何でもないことのように付け加えた。


「必要なら、

この地の人間に合わせて姿を変えることもできますが」


「姿をそう簡単に変えられるのか?」


ネオの目つきが変わった。


探るような目だった。


「もしよければ聞かせてほしい。

君は、魔法使いとして

どの程度のサークルなのだ?」


カイは少し迷った。


「この地の体系は、サークルなんですか?」


「そうだ」


ネオが説明した。


「一サークル、二サークル。

そうして段階が上がっていき、

各サークルにはランナー、ミディアム、エキスパート、マスターの等級がある」


彼はカイを見た。


「ファイダルの魔法使いたちも、

我々と同じ体系を使うと聞いているが?」


「ああ。

はい」


カイは軽くうなずいた。


「確認しただけです」


そして言った。


「俺は五サークル・マスターです」


実のところ、

特に深い意図があったわけではない。


五サークルなら、

それなりに高いほうだろう。


その程度に考えただけだった。


だが、その一言で、

部屋の空気は一瞬にして凍りついた。


ネオの口が、

ぽかんと開く。


「五サークル……

マスター?」


ハキも息を止めた。


バンの目も、

一瞬揺れた。


この地では、

四サークル・マスターでさえ

大魔法使いと呼ばれる。


現在のカシュイール帝国でも、

五サークル・エキスパートが

最高位とされていた。


それなのに二十九歳のファイダルの魔法使いが、

何でもないように

五サークル・マスターだと言ったのだ。


ネオとハキが固まるのも、

無理はなかった。


だが当のカイは、

目の前の反応がなぜそうなっているのかわからず、

逆に尋ねた。


「どうしてそんなに驚くんですか?」


そしてネオをちらりと見た。


「ネオ様からもマナを感じますが……

三サークル・ランナーくらいに見えますね」


カイは首をかしげた。


「合っていますか?」


ネオの表情が、

微妙に変わった。


「そうだ。

少し前に三サークル・ランナーへ上がった」


彼はゆっくりと息を吐いた。


「道理で、君の魔法の力が

よく見えないわけだ」


ネオは低くつぶやいた。


「私より高い境地にいたからか」


その瞬間、

ネオの顔には

感嘆と歓喜が同時に浮かんだ。


「よし……!」


彼はテーブルを叩いた。


「これで帝国各地にいる同志たちが、

情報と資金、

そして熱意を携えてこの地に集まれば、

すべてが解決する!」


よほど気分が高ぶったのか、

大きな声で笑いさえした。


ハキもつられるように、

にこにことしていた。


だが、バンだけは違った。


いつもどおり、

無表情に近い顔。


彼は師の興奮が

おさまる前に口を開いた。


「先生。

だからこそ、お尋ねします」


ネオが顔を向けた。


バンは落ち着いて言った。


「デモクラシゲンの構成員たちは、

いつごろこちらに到着するのですか?」


カイはその名前を、

心の中で繰り返した。


(デモクラシゲン)


それが彼らの組織の名前らしい。


(ずいぶん大げさな名前だな)


ネオは短く答えた。


「すぐに到着する」


しかしバンは、

表情を緩めなかった。


「前にも、

すぐに到着するとおっしゃっていました」


結局、悩んでいたバンは、

深刻な訓練不足について

口にせざるを得なかった。


「人手が足りません」


バンの声は落ち着いていた。


「今のこの地域の民衆は、

まったく訓練されていません」


短い時間で彼らを兵士にするには、

人員が必要だった。


「私とハキだけでは足りません」


バンははっきりと言った。


「現場で兵たちの訓練を担当する

初級教官級の幹部、

レクターがもっと必要です」


ネオの顔がこわばった。


バンへ向ける目が、

冷たく沈んだ。


なぜ、わざわざ今そんな話をする。


そう言っているようだった。


ネオは低い声で言った。


「今日か明日には、

組織から連絡が来るはずだ」


彼は話を終わらせるように付け加えた。


「人の問題は、

すぐに解決するだろう」


バンはそれ以上言わなかった。


ネオはすぐに、

カイのほうへ体を向けた。


「これで君と我々は同じ側だ」


彼は穏やかな顔で言った。


「互いに率直に話し合いながら、

これからを乗り越えていかねばならん」


カイは笑ってうなずいた。


「もちろんです。

もう同じ船に乗ったようなものですからね」


そう言ってから、

さりげなく続けた。


「そういう意味では、

さっきの誤解をひとつ解いておいたほうがよさそうです」


その言葉が出た瞬間、

部屋の中が静かになった。


ネオ、バン、ハキは同時に

カイを見た。


ネオが慎重に尋ねる。


「誤解とは?

何の誤解だ?」


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