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第4話 旅人カイ・バシュ

(先頭の二人がリーダーか?

みんな緊張してるな。

まあ、無理もないか)


近くで見た人間たちは、

海斗が設計した

平均的な体格そのものだった。


その間に、

ピコが言語解析を終えた。


聞き慣れない言葉が、

海斗の頭の中で

意味を持ち始める。


先頭の男が口を開いた。


「お前は何者だ?」


海斗は、

すぐには答えなかった。


しばらく相手を観察する。


ぼろ布に近い服装。


体に合っていない武器。


だが、目だけは死んでいなかった。


正規の兵士というより、

急いで武器を取って出てきた

農民たちに近い。


「羽柴海斗だ」


「カイ……バサ?」


「カイト・ハシバ」


「カイ・バシュ?」


海斗は少し考え、

肩をすくめた。


どうやら発音を合わせるのは

簡単ではないらしい。


「もういい。

カイ・バシュ。

旅人ってことにしておいてくれ」


適当に変えて名乗ることにした。


この世界で、彼は

カイと名乗ることにした。


◆◆◆


「数日前、夜空を焼いた火。

あれは、カイ。

あなたの仕業でしょう」


「食事の準備をしていたら、そうなった」


その瞬間。


周囲の空気が凍りついた。


カイが指を鳴らす。


近くの木の枝の先に、

小さな炎がひとつ灯った。


それだけで十分だった。


その場に座り込む者。


槍を取り落とす者。


後ずさる者。


「魔法使いだ!」


カイは肩をすくめた。


(この世界の人間にとって、

魔法は恐怖の対象ってことか)


たしかに彼らにとっては、

相手にすることさえ不可能な存在なのだろう。


先頭にいた二人の男が、

なんとか人々を落ち着かせた。


そして少しの間、

相談するように目配せを交わしてから、

態度を改めた。


「失礼いたしました。

私はバン。

こちらはハキです」


急に丁寧になった口調に、

カイは内心で笑った。


「それで?」


「お姿からすると、

ファイダルから来られた方のようですね」


「私たちの村へお越しになりませんか。

客人としてもてなします」


露骨に怪しい。


だが、カイは断らなかった。


どうせ人の住む場所へ

行くつもりだったのだ。


「いいだろう」


カイは残った骨を炎で焼き払い、

その場から立ち上がった。


「骨まで燃やしたのか?」


「やっぱり魔法使いはすごいな……」


人々のささやきを聞きながら、

カイはバンの後について歩いた。


(あれが村か?)


急ごしらえの木柵。


ところどころ傷んだ家々。


飢えと緊張が混じった視線。


カイは村の中心部へ案内された。


「二階に、湯浴みと着替えの用意を

整えてあります」


「助かる」


カイは遠慮しなかった。


ただの旅人に対する扱いにしては

やけに丁寧だったが、

そこを深く考えることはしなかった。


一方。


階下では、

緊急の話し合いが開かれていた。


バンとハキ。


そして彼らの師であり、

村長でもあるネオ。


三人は、

カイの正体について話し合った。


「魔法使いが突然現れるはずはない。

私はそう考えています」


「ああ。

その通りだ。

あの男の正体を、早く見極めなければならん」


そして同じころ。


帝国側では、

この地の運命を分ける決定が

下されようとしていた。


◆◆◆


グランド・マテドニア大陸。


その西部には、

広大な領土を持つ

カシュイール帝国があった。


そして、その帝国に対抗する

四王国連合があった。


さらに、

二つの勢力の間で中継貿易を行い、

利益を得ている

ウェルフォン公国も存在していた。


帝国建国以来、

百年近く、

大きな戦争は起きていなかった。


国境には緊張が走っていたが、

表向きは平穏だった。


だが、帝国の旗を掲げた伝令が

皇城へ駆け込んだとき。


この百年の平穏は、

破られることになった。


「帝国東部の駅逓より急報です!」


報せはすぐに、

騎士団長室へ届けられた。


レイノン・フォン・カシュイール。


帝国三大公爵のひとりであり、

騎士団を掌握する男だった。


彼が急報を読み終えた瞬間、

執務室の空気が冷たく沈んだ。


「反乱だと?」


低く抑えた声だった。


だが、その一言だけで、

周囲の貴族たちは息をのんだ。


報告は簡潔だった。


帝国東部。


イーストン地方。


ハイノル侯爵の領地で、

農奴の反乱が起きた。


領内の兵力は崩壊。


ハイノル侯爵は、

反乱軍の奇襲により死亡した。


レイノンの手の甲に、

血管が浮き上がった。


「卑しい農奴どもが……!」


百年前。


帝国との戦争に敗れ、

農奴となった者たちの子孫。


その者たちが、

帝国に反旗を翻したのだ。


「ハイノルは本当に死んだのか」


「はい。

巡察中に奇襲を受け、

真っ先に討たれたとのことです」


「あの男は普段から、

領地に興味などなかった。

金と女にしか頭がなかったからな」


騎士団長レイノンは、

勢いよく席を立った。


「第三騎士団長、

ホサイト伯爵を呼べ」


ホサイト伯爵は、

次期騎士団長の有力候補とされる男だった。


レイノンは、

矢継ぎ早に命令を下した。


「この件は早急に片づける。

東部の火種がこれ以上広がる前に、

奴らを踏み潰す」


彼は歯ぎしりするように続けた。


「ハイノルめ。

搾取するにしても限度というものがある。

それができないなら、

反乱が起きた時点で即座に叩き潰すべきだった」


そのどちらもできなかった。


そして結局、

命で代償を払った。


しばらくして、

ホサイト伯爵が到着した。


「君に任せたい仕事がある」


見せしめとして、

徹底的に処理する必要があった。


「反乱軍を皆殺しにしろ。

そしてその土地を、

人の住めない廃墟に変えろ」


「承知しました。

お任せください」


ホサイトが勢い込んで答えた。


その目には、

この機会を利用して

次期騎士団長の座を必ず手に入れるという野心が

はっきりと宿っていた。


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