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第27話 少しだけ増えた猶予

バンは両手を強く握りしめたまま、

一語ずつはっきりと言葉を続けた。


「帝都でそのような事件が起き、

全国規模で組織員の逮捕が始まったのなら」


彼は部屋の中の者たちを見回した。


「帝国の上層部にとっては、

この程度の農奴反乱などに

構っている余裕はないはずです」


誰かが聞き返した。


「イーストンに構う余裕がないと?」


「はい」


バンはうなずいた。


「帝国にとって、

優先順位が変わるのです」


そして、はっきりと言った。


「時間を稼げます」


「お前、

よくそんなことを……」


冷たい視線が、

バンへ一斉に注がれた。


だがバンは、

その視線を無視して

言葉を続けた。


「たとえイーストンが単なる反乱ではなく、

組織員が関与した事件だという情報が

帝国側へ渡ったとしても」


バンの声は

揺らがなかった。


「まずは遠く離れた我々ではなく、

周辺から掃き清めるように

粛清していくはずです」


そして。


「鼠を追い込むように、

最後に我々を処理しに来るでしょう」


「だから何だ!」


一人のレクターが、

怒りを抑えきれずに叫んだ。


「座して死ねというのか?

今死ぬのも、あとで死ぬのも

同じじゃないか!」


別の者も歯ぎしりしながら言った。


「今この瞬間にも帝都で

公安に捕らえられ、苦しめられている同志たちを思うと

腸が煮えくり返る」


「今からでも帝都へ攻め込み、

同志たちを救い出すべきではないのか?」


ほかの者たちも、

大半は帝都から来た者たちだった。


その言葉に、

揺れる表情も多かった。


だがバンは断固としていた。


「それは現実的に不可能です」


その声が、

部屋の空気を押さえ込んだ。


「今やこのイーストンこそが、

組織に残された最後の希望です」


その言葉に、

何人かが息を呑んだ。


バンは続けた。


「我々はこれまで、

帝国軍が一か月以内に来るものと考え、

それに合わせて焦りながら訓練を進めてきました」


だが。


「先ほど申し上げたように、

我々に最も必要だったものは時間でした」


その目が、

少しずつ強さを帯びていく。


「そして、その問題は

解決されました」


「帝国は少なくとも二か月は、

この地へ来られないはずです」


部屋の中が

ざわめいた。


バンはそのざわめきの上から、

さらに言葉を重ねた。


「だからこそ、キャノン峡谷を崩して塞ぐという

受け身の発想は、

もう必要ありません」


その目が、

鋭く光った。


「当初考えていた遊撃戦ではなく、

正面からの戦いによって

敵を撃退できます」


「どうやって?」


ファレンスカ長老が、

皮肉るように聞き返した。


「バードガンを信じるのか?」


彼は冷たく言った。


「たとえ遊撃隊として用意していた五百名のレンジャー兵を

バードガン兵に切り替えて戦わせたとしても、

帝国の数には到底及ばないだろう」


その言葉に、

皆がうなずいた。


バードガンはたしかに

強力な武器だった。


しかし欠点もある。


弓のように素早く連射できない。


再装填にも時間がかかる。


そのため、

帝国騎士団の突撃を

正面から受けることになれば。


突破されたあと、

散り散りになって死ぬには

ちょうどいい武器でもあった。


だがバンは、

首を横に振った。


「いいえ」


彼はファレンスカをまっすぐ見た。


「そうではありません」


そして力を込めて言った。


「その前提は間違っています」


ファレンスカの眉が

ぴくりと動いた。


「私が間違っていると?」


「我々の兵力は、

二千五百ではありません」


バンははっきりと言った。


「八千になります」


「八千?」


部屋の中に、

驚きの声が広がった。


「戦える者を、

老若男女問わずすべて動員すれば

可能です」


バンは息を吸い込んだ。


「そしてその数があれば、

キャノン峡谷で

討伐軍を叩き潰せます」


「だが、それなら

バードガンを八千丁も買わなければならないということではないか」


ネオは計算が追いつかないという顔だった。


「いったい、いくらになるのだ?」


一方ファレンスカは、

バンの言葉を噛みしめながら

黙って考え込んでいた。


バンはまた言った。


「二か月あれば、

八千名を育てるには十分です」


彼は部屋の中の者たちを

一人ひとり見た。


「ここにいる我々が

力を合わせれば可能です」


そして宣言するように言った。


「我々が、帝国の歴史を」


しばしの沈黙。


「いいえ」


バンの声が、

さらに硬くなる。


「大陸の歴史を

塗り替えるのです」


手足を動かせる者は、

すべて動員する。


総力戦の始まりだった。


◆◆◆


「そういうことになったわけか」


カイは草の葉を一本くわえたまま、

ごろごろと寝転がっていた。


ピコが持ち帰った情報を、

頭の中で映像のように再生していた。


「すぐ金持ちになれそうだな」


彼はゆっくりと体を起こした。


「世の中が危うくなるほど、

よく売れる商品か……」


カイの口元が、

すっと上がった。


「商品をもう少し作っておくか」


彼はしばらく考え込んだ。


「ファイダルの船が

いつの間にか来て、いつの間にか消えたことにするには……」


そして首をかしげた。


「いや。

いっそ船を一隻作ってしまうか?」


だが、すぐに

首を横に振った。


「違うな。

それだと船員まで作らないといけないじゃないか」


カイは面倒くさそうに

手を振った。


「面倒だ」


しばらくして、

結論は簡単に出た。


「適当にごまかせばいいか」


彼はまた草の葉を口にくわえた。


「次にファイダルへ行ったら、

本当にバシュ商会をちゃんと作らないとな」


カイはピコをつかんだ。


そしてポケットへ

押し込んだ。


「ぴっ?」


ピコが短く鳴いたが、

カイは気にしなかった。


彼は遠く、

キャノン峡谷の見える谷のほうを見た。


雲に隠れ、

白くかすんで見える峡谷。


あそこに、やがて

大勢の人間が集まることになる。


カイは満足そうに笑った。


「いいね、いいね」


その目が

細くなった。


「だんだん面白くなってきた」


そして低くつぶやいた。


「さて、どうなるかな」


その声には、

期待がにじんでいた。


「やっぱり、火事と喧嘩は

見物に限るからな」


まるで、自分が鍛えたボクサーの試合を前にして

期待に胸を膨らませるトレーナーのような顔だった。


ほどなくして、

カイは反乱軍が望むだけの武器を

追加で供給することになるだろう。


きらめく火縄銃を前に、

カイは満足げに笑うはずだ。


そして彼らへ向かって、

こう言うだろう。


「思う存分、戦ってください」


そうして、

あの深い峡谷には

血の風が吹くことになる。


(この地の秩序を守ると言っているドラゴンどもは、

この戦いを知ったら

いったいどんな反応をするだろうな)


ここの反乱軍は、

帝国軍を防ぐことで頭がいっぱいだった。


だがカイの視線は、

その先。


さらに遠くを見ていた。



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