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第21話 では、交渉しましょうか

「レイチェル……

何をしているんだ?」


ネオが眉をひそめた。


カイは軽く手を上げた。


「大したことではありません」


そして平然と言った。


「もう少し実演をお見せしようと思って、

あらかじめレイチェルに頼んでおいたんです」


ポケットの中のピコが、

スマホのバイブのように

ぶるぶる震えている気がした。


だがカイは、

大して気にしなかった。


ラモンは再び

姿勢を整えた。


銃口が、

レイチェルの立てた木の板のほうへ向けられると、

人々の視線も

自然とそちらへ集まった。


かなりの距離があった。


木柵の向こう側には、

およそ十枚ほどの木の板が

並べて立てられていた。


ラモンは銃を構えた。


もう一方の手では、

腰のあたりの紐を触りながら、

何かを準備しているようだった。


カイが叫んだ。


「発射!」


ズドンッ!


もう一度、

先ほどと同じ

雷のような音が響いた。


人々はまた身をすくめた。


だが今回は、

先ほどのように倒れ込む者はいなかった。


むしろ興味深そうに見守る者のほうが

多かった。


ばきっ!


轟音と同時に、

木柵の向こう側のいちばん左に立てられていた木の板が

一瞬で砕け散った。


「うわあ!」


「すごい!」


ズドンッ!


ばきっ!


ラモンは一発目を撃った直後、

腰のあたりから道具を取り出した。


そしてあっという間に

再装填した。


すぐさま再び発射。


二枚目の木の板が

粉々に砕けた。


ズドンッ!


ばきんっ!


ドンッ!


ばきっ!


一発撃つごとに、

およそ三十秒。


ラモンはためらうことなく、

木柵の向こう側の木の板を

次々と砕いていった。


(連続で……?)


ファレンスカは、

いつもの冷静さを完全に失っていた。


(いったい……

あれほどの性能を見せるとは……)


その顔は、

魂が抜けたようだった。


約五分後。


射撃が終わった。


銃口からは、

鼻をつく火薬の煙が立ちのぼっていた。


そこでようやく、

静まり返っていた周囲の人々が

再び声を上げた。


「うわあ!」


「すごいぞ!」


「ひゅう!」


木柵の近くにいた農奴たちは、

とんでもない見世物を見たかのように

帽子をぐるぐる回しながら歓声を上げた。


子どもたちも、

早くもあの不思議なおじさんの後をついて回る気にでもなったのか、

きらきらした目を向けていた。


「うわあ!」


「かっこいい!」


「また見せて!」


木柵の周囲は、

一気に騒がしくなった。


カイは人々に向かって

軽く手を振った。


ラモンは火縄銃を

慎重に下ろした。


そして深く頭を下げる。


「ありがとうございます!」


「うおおお!」


まるで見事な曲芸を見たあとのように、

歓声はさらに大きくなった。


一方、ファレンスカは

口の中がからからに乾いていくのを感じていた。


(あれを売るというなら……

いったい、いくらを提示してくるつもりだ?)


そのとき、

カイが片目を細めて

ファレンスカへ言った。


「では、きちんと交渉しましょうか」


得意満面の顔だった。


その表情を見て、

ファレンスカもすぐに気を取り直した。


(空気で負けるわけにはいかん)


彼はすぐに、

いつもの豪快な笑みに戻った。


「はは。

これほど見事な品があるとは、

驚いたものだ」


ファレンスカは笑って言った。


「まずはネオの家へ行って話そう」


そして箱のほうを見た。


「それで、残りの箱は……」


「心配いりません」


カイが言葉を受けた。


「箱を積んでおく場所は、

もう確認してありますから」


カイは顔を上げ、

バンを見た。


交渉の席に、

頭の回る者を置いておくのは

あまり都合がよくない。


「少し頼む」


カイはバンに言った。


「レイチェルが案内する場所へ、

あの箱を運んでおいてくれ」


そして付け加えた。


「外には見張りも三、四人立ててくれ。

子どもが近づかないようにもしておいてほしい」


彼はもう一言添えた。


「危険な物だからな」


バンがすぐにうなずこうとした瞬間、

カイはさらに続けた。


「それと倉庫の中には、

ラモンが箱と一緒にいる」


カイはラモンのほうを示した。


「食事と飲み物を用意して、

厠の場所も教えておいてくれ」


彼は軽く笑った。


「それじゃあ、頼んだ」


早朝にカイがレイチェルへ頼んでおいたことの中には、

箱を一時的に積んでおける場所を

探しておいてほしいというものもあった。


その情報をすでに受け取っていたカイは、

そこへ荷物を移させるつもりだった。


(いつの間にカイ様は

レイチェルとあんなに親しくなったんだ?)


バンは一瞬、不思議に思った。


だが、すぐに考えを切り替えた。


(いずれにせよ、あの品を

こんな場所に長く置いておくのは危険だ)


バンはすぐに人々を呼んだ。


「箱を運ぶ!

急げ!」


向こう側では、

レイチェルが手を振って

バンを呼んでいた。


(近くの空き倉庫へ案内するつもりか)


バンはそちらを見た。


(あそこなら、

この品を置いておくにはちょうどいい)


人々がわっと集まり、

箱を持ち上げ始めた。


するといつの間にか、

薄汚れた子どもたちも集まってきた。


「こら!

あっちへ行け!」


「わああん!」


ハキが前へ出て

険しい顔でにらみつけると、

子どもたちはわっと散っていった。


その様子を見て、

カイはゆっくりと体の向きを変えた。


ネオの家へ向かう番だった。


カイが歩き出すと、

近くにいた数人が

すぐに後ろへついた。


その中でも、

代表のように見える男が

カイの横へ近づいてきた。


(バンとハキが離れている間、

このあたりの人間をまとめているのは

こいつか?)


カイはその男をちらりと見た。


(この地の人間にしては、

なかなか背が高いな)


それでも。


(俺の顎の下くらいまではあるか)


男が丁寧に言った。


「ネオ様の家まで

護衛いたします、

カイ様」


カイは軽くうなずいた。


そのとき、男が言葉を続けた。


「弟と、

よくご存じのようですね」


「弟?」


カイはその男を

もう少し詳しく見た。


(ゴリラみたいなやつだな)


手の甲には毛がふさふさしている。


顔は四角い。


どこか見覚えのある顔だった。


(誰に似てるのかと思ったら……)


いや。


似ているというより、

すでに見慣れた顔だった。


(ああ、そうだ。

ハキか)


男は言った。


「私はハキの兄、

ヤンキと申します」


彼は胸を張った。


「ファレンスカ様の直属の部下です」


そして、そこから始まったヤンキの話は、

終わりがなかった。


(面倒だな)


カイは心の中でため息をついた。


(同じ話を何度も何度も。

うるさい)


なぜファレンスカが

組織の若い人材について話すとき、

この男の名をわざわざ出さなかったのか、

理由がわかった気がした。


ハキは猛々しいほうではあるが、

少なくともわずかな冷静さはあった。


だが、この男は違った。


実直ではある。


だが、愚かだった。


知識の不足を、

知ったかぶりで埋めようとするタイプ。


ファレンスカの下で聞きかじった言葉を

ずっと引っぱり出している。


(弾除けか、

単純な命令を繰り返し実行させるには

ちょうどいいタイプだな)


カイは内心でうなずいた。


(もちろん、こういう人間も必要ではあるが、

相手をするのは疲れる)


カイはネオの家に到着するとすぐに、

ヤンキを切り離した。


そしてそのまま中へ入った。


そこにはネオとファレンスカ、

そしてドリアンが座っていた。


「まずは茶でも飲みながら話そう」


ネオが口を開くと、

ドリアンがすぐに立ち上がった。


そして茶を用意した。


「どうぞ」


カイはドリアンが持ってきた

ハーブティーの香りを嗅いだ。


香りは悪くなかった。


だが、誰も

すぐには口を開かなかった。


しばらく沈黙が続いた。


ファレンスカが

ネオへちらりと目配せした。


するとネオも、

茶を置き終えて席についたドリアンへ

また目配せした。


ちらり。


ドリアンは周囲を見回し、

困ったような顔をした。


そして結局、

仕方がないという顔で

慎重に口を開いた。


「カイ様……」


ドリアンはカイの表情をうかがいながら

言葉を続けた。


「品物の性能は、

よく確認いたしました」


彼は少し言葉を選んだ。


「我々へ投資するとおっしゃいましたし、

こちらの事情もある程度ご存じだと思います」


そして慎重に

本題を切り出した。


「それで、その……」


ドリアンの声が、

少し低くなった。


「お見せいただいた武器の価格は、

どの程度をお考えでしょうか……」



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