第20話 カイガンの威力
カイはラモンを
自分の隣に立たせた。
人々の視線が、
二人のファイダル人へ集まった。
カイの隣に立つと、
ラモンはまるで小人のように見えた。
だがそれは、
カイがやたらと大きいせいだった。
ネオが気になる様子で
カイに尋ねた。
「こちらの方は……?」
カイは軽くラモンを紹介した。
「うちの商会のマイスターです」
そして付け加える。
「この武器の製作者であり、
これから教官役も務める
ラモンです」
「製作者であり、教官?」
ネオの目が大きくなった。
カイはラモンにも、
周囲の人々を紹介した。
「マイスター・ラモン。
こちらはこの村の村長、ネオです」
続いて、
ファレンスカのほうを示す。
「そしてこちらが、
ファレンスカ様です」
武器の製作者という言葉に、
ファレンスカとその隣の中年男たちの目が
一瞬光った。
カイはその反応を見て、
口元を上げた。
「では、ご紹介しましょう」
彼はわざと一拍置いてから、
堂々と言った。
「バシュ商会の
最高傑作です」
カイが合図すると、
ラモンが手慣れた様子で
箱のひとつを開けた。
そして朝の光の下へ、
細長い品をひとつ取り出す。
火縄銃だった。
細長い銃身。
そして銃口のほうは、
ラッパのように少し広がっていた。
見た目だけなら、
少し頼りなくも見えた。
そのせいか、
人々の顔には
落胆がよぎった。
だがラモンは
気にしなかった。
彼は落ち着いて
説明を始めた。
「これは、
バシュ商会の特製品、
カイガンです」
ラモンはぎこちない帝国語で
一語ずつはっきりと言った。
「この地で初めてお見せできることを
光栄に思います」
彼は銃を掲げ、
装填の手順を説明した。
「まず、ここへ
火薬を詰めます」
そして長い込め棒を手に取った。
「次に、込め棒で
弾を押し込みます」
ラモンはきびきびと
動作を続けた。
「そして……」
周囲では、
ざわめきが大きくなっていた。
「何だ、あれ?」
「トランペットみたいにも見えるが……」
「あんな棒が、何だっていうんだ?」
「あれで突きでもするのか?」
人々の反応など気にせず、
ラモンは装填方法を説明していった。
帝国語はぎこちなかったが、
ひとつひとつの動作は見事だった。
組織側も、
夜のうちに何人か増えたのか、
人数が少し多くなっているようだった。
だが、バンとファレンスカを除いた組織の者たちは、
いまだに冷めた顔をしていた。
そのとき。
装填を終えたラモンが、
大きな声で告げた。
「撃ちます!」
ラモンは銃口を
空へ向けた。
そして迷いなく
引き金を引いた。
ズドンッ!
耳を裂くような轟音が響いた。
銃口からは、
白い煙が立ちのぼる。
そして、少しして。
空から、
一羽の鳥がぽとりと落ちてきた。
落下の衝撃なのか。
それとも弾の威力のせいなのか。
鳥はほとんどばらばらになっていた。
「うわあっ!」
「きゃあっ!」
木柵の周りにいた人々は、
突然の轟音に悲鳴を上げ、
その場に座り込んだ。
頭を抱えて震える者もいた。
ひどい者の中には、
その場で失禁してしまった者さえいた。
「ひいっ。
何だ、今のは……」
「ぐっ……」
組織の者たちの大半も、
驚いて後ずさった。
だが、ファレンスカだけは違った。
彼は落ちてきたものを見つめたまま、
身じろぎもしなかった。
その表情は、
まさに驚愕そのものだった。
(ファレンスカ長老が、
なぜあそこまで……?)
バンは不思議に思いながら、
その視線を追った。
そして地面に落ちたものを確認した瞬間、
バンもまたファレンスカと同じような顔になった。
「あ、あれは……」
バンの声が震えた。
「空を飛んでいた鳥が……」
ファレンスカもまた、
驚いた声で隣にいた組織員へ尋ねた。
「今落ちたのは、鳥だな?」
突然の轟音に
一瞬身を震わせていたその組織員は、
すぐに姿勢を整えて答えた。
「はい、ファレンスカ長老。
間違いなく鳥です」
だが、彼もまた
理解できないという顔をしていた。
「しかし……
なぜ……?」
その組織員は、
丁寧に腰を折った。
彼も驚いていることに変わりはなかった。
だが、とっさに我に返り、
ファレンスカを守るように
ファイダル人たちとの間へ入った男だった。
忠実な側近に見えた。
しかし彼にも、
ファレンスカがなぜそこまで驚いているのかは
わからなかった。
その答えは、
隣のバンが代わりに口にした。
「空を飛ぶ鳥は……」
バンの声が震えた。
「熟練の猟師でも、
弓で射落とすのは難しいんです」
彼は落ちた鳥を見つめた。
「それなのに、あの武器で
飛んでいる鳥を落とすなんて……」
ファレンスカ長老が、
低く言葉を継いだ。
「距離も相当あった」
彼は目を離せないまま
つぶやいた。
「それを、あれほど正確に当てるとは」
しばしの沈黙。
ファレンスカの声が、
さらに低くなった。
「あの武器の性能は、
いったい……」
その言葉を聞いたバンは、
呆然とした顔になった。
自分が想像していた範囲を、
完全に超えた性能だった。
一瞬、
頭の中の思考が止まったようだった。
そのとき。
カイが何食わぬ顔で声を上げた。
「ははは。
どうです?」
彼はわざと軽い調子で言った。
「使えそうでしょう?」
使えそうどころではなかった。
だがカイは、
何でもないように笑っていた。
補足も忘れない。
「飛んでいる鳥も落とせる程度の
性能はあります」
彼はラモンのほうを見た。
「もちろん、ラモンの腕が
いいからでもありますけどね」
カイがラモンを持ち上げると、
ラモンはしわの刻まれた顔に
かすかな笑みを浮かべて頭を下げた。
しばらくして。
地面に座り込んでいた人々も、
一人、また一人と立ち上がり始めた。
組織の者たちもまた、
先ほどとはまったく違う目で
ラモンを見ていた。
「うおお!」
「すげえ!」
「もう一発!」
ほかにも見せてくれという声が、
あちこちから上がった。
空気が少しずつ熱を帯びてくると、
カイはラモンに合図した。
「準備ができたら、お願いします」
ラモンはすぐに、
もう一発を装填した。
そのとき。
木柵のそばにいたレイチェルが、
ぱたぱたと走っていった。
そして木柵の向こう側。
人のいない方向に、
木の板を何枚も立て始めた。




