第2話 創造神、世界を作る
海斗は、
光と闇を分けた。
海と大陸の形を作り、
空と星の位置を定めた。
地球に似ていて、
けれど地球とは違う世界。
異なる文明がぶつかり合い、
そう簡単にはひとつにならないように。
海の流れや、
大陸同士の距離まで調整した。
北半球には、
巨大な大陸を横たえるように配置した。
のちに、
グランド・マテドニアと呼ばれることになる大地だった。
そして、その大陸の東には、
ファイダルという大きな島を作った。
続いて、西の海の向こうには、
ブリカニタという島を置いた。
南半球には、
セスタニカという巨大な大陸と、
ヤリオンという島を並べて配置した。
(よし)
今度は、
神話の骨格も作った。
天神アクアリス。
魔神テアノリノン。
彼らと人間たちが、
互いに関わり合いながら生きていく世界。
最後に、
時間と度量衡も、
海斗が生きていた世界と同じになるよう整えた。
ぱあっ。
光が弾け、
大地の上に人間たちが現れた。
さまざまな肌の色。
多様な髪色と瞳の色。
どこか似ていて、
けれど少しずつ違う人々。
海斗は彼らを見下ろし、
すぐに眉をひそめた。
「でかすぎるだろ」
最初に現れた人間たちは、
何もかもが整いすぎていた。
二メートルを超える長身。
端正で、
美しい顔立ち。
まるで神話の楽園にでも暮らしていそうな
人間たちだった。
(ほかはともかく、
これは気に入らないな)
だから、たったひとつだけ調整した。
(小さくなれ)
人間たちの背丈が、
少しずつ縮み始めた。
全体のバランスは崩さない。
その代わり、
平均身長は百五十センチ。
ほとんどの人間が、
その平均に近くなるよう設計した。
「よし。
育て、増え、栄えろ」
人間たちの始まりは小さかった。
部族ごとに散らばって暮らし、
ゆっくりと道具を作り、
火を扱うようになった。
そうして人間たちが、
少しずつ文明を積み上げ、
発展していこうとした、そのとき。
天神と魔神が問題を起こした。
彼らにも自由意志を与えたところ、
思った以上に勝手に動き始めたのだ。
天神と魔神は、
人間界に手を出した。
戦火は広がった。
人間は、
滅亡寸前まで追い込まれた。
創造神は歯噛みした。
「俺が手間をかけて作った世界を、
お前らが勝手に壊してるんじゃないか」
創造神が切った札は、
ドラゴンだった。
ドラゴンの一族を作り、
天神と魔神を牽制させた。
結果は成功だった。
ドラゴンが均衡を保ち、
天神と魔神は
人間界の外へと押し戻された。
結局、人間は生き残った。
そして再び、
繁栄し始めた。
三千年が過ぎるころには、
人間は北半球と南半球の各地へ広がっていった。
今では、どの大陸でも、
人の足が及んでいない場所のほうが
珍しくなりつつあった。
(よし。
ようやく見ていて面白くなってきたな)
自分が作った世界が動いていく様子を
見下ろすのは、
それなりに悪くなかった。
だが。
だんだん退屈になってきた。
(直接、見てみたい)
(俺が作った世界を、
自分の足で歩いてみたい)
結局、海斗は決めた。
創造の次元には、
ゼノンがいた。
創造神が席を外している間、
権限を預けるための補佐役である。
「そろそろ下りる」
――ついに決心なさいましたか。
「ああ。
ただ、天神や魔神の連中に気づかれるのは嫌だ」
下位神である彼らに、
自分の存在を悟られるのも嫌だった。
それに、創造神の姿のまま降りれば、
世界のほうが耐えられないかもしれない。
だから海斗は、
権能を幾重にも封印した。
その上から、
人間の肉体をまとわせた。
かつて、人間だったころの姿。
その記憶と感覚までも、
半神の肉体に同期させていく。
息。
重さ。
心臓の鼓動。
肌をかすめる空気。
かつては当たり前で、
創造神になってからは失われていた感覚が、
ひとつずつ戻ってきた。
海斗は目を開けた。
今の彼は創造神であり、
同時に、自分が作った世界を旅する
ひとりの男でもあった。
「よし。
本当に行ってみるか」
ゼノンの声が、
最後に追いかけてきた。
――創造神よ。
――どうか、
楽しい夢となりますように。




