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第17話 財布で学ばせるのが一番だった

「私はファレンスカと申します」


ネオよりも

少し年上に見える老人。


彼からはどこか、

商人のような雰囲気が漂っていた。


「この地の言葉を、

ずいぶんお上手に話されますな」


ファレンスカはカイを見ながら、

感心したようにうなずいた。


「やはり魔法使いだからか、

覚えるのも早いのでしょう」


そしてすぐに、

さらに言葉を続けた。


「しかも、その若さで

魔法使いとしての修行と

商会の運営を両立させるのは、

簡単なことではありますまい」


彼は一度、

ひげをなでた。


「相当な統率力も

お持ちの方とお見受けします」


カイは軽く頭を下げた。


「ありがとうございます」


そして笑みを浮かべて付け加えた。


「これからは、

どうぞ気楽に話してください」


「ほほう、そうか」


ファレンスカは満足そうに笑った。


「実年齢は二十九と聞いたが、

その年でそれほどの力を身につけているとは

驚きだ」


彼はカイをじっくりと見た。


「ここまで自ら足を運んだ決断力も含めて、

実に大した若者だ」


しばらくカイを褒めていたファレンスカは、

もう一度ひげをなでた。


そして今度は、

自分のことを語り始めた。


「私は組織の創設期からの一員であり、

七人の長老の一人でもある」


その口調には余裕があった。


「私が属する長老会が、

組織の各部門を統括している」


そして低く付け加えた。


「もちろん、最終的な決定権は

総帥にあるがな」


ファレンスカは

自然な流れで説明を続けた。


「私は先遣隊の責任者だ」


彼は部屋の中の者たちを

軽く見回した。


「先にこの地へ入り、

現地の状況を見ている」


ファレンスカの目には、

自信がにじんでいた。


「遅くとも一週間以内には、

組織の中枢にいる者たちが

全員この地へ集まるだろう」


そしてカイへ向けて、

意味ありげに笑った。


「そのとき詳しい説明は改めてするが、

物事がうまく運べば、

君の商売もこの大陸で

大きく羽ばたくことになるだろう」


ファレンスカは片手を上げ、

隣に座っている者たちを示した。


「右から紹介しよう」


その指が、

順に動いた。


「こちらがカマレイ。

その隣がハシュラン」


そして最後に、

一番若い青年を指した。


「そして、あの若者がドリアンだ。

二十五歳で、

バンやハキと同じ年だ」


紹介された三人が、

順に頭を下げた。


ファレンスカは再び口を開いた。


「バンとハキは、

すでに知っているな?」


カイはうなずいた。


「はい」


そのとき、

ハキが茶を持って入ってきた。


その姿を見たカイは、

すぐに意地の悪い冗談を口にした。


いかつい顔つきのハキが、

器を鳴らすこともなく

手慣れた様子で茶を置いていく姿が、

なかなかおかしかったのだ。


「へえ」


カイはハキを見て、

口元を上げた。


「茶を淹れて運ぶの、

ずいぶん手慣れてるじゃないか」


ハキの手が、

ほんの少し止まった。


カイはその隙を逃さなかった。


「いっそ、そっちを

本業にしたらどうだ?」


ハキの顔が、

一瞬で赤くなったり青くなったりした。


彼は憎らしいカイを

鋭くにらみつけた。


だが、彼にできることは

何もなかった。


結局ハキは、

残りの茶を慌てて置いた。


そして急いで

その場を離れた。


その様子を見ていたドリアンが、

面白そうに口を開いた。


「普通はハキに、

あんなふうに気軽に話しかける人はいないんですが」


ドリアンは笑いをこらえるような顔で、

カイを見た。


「カイ様はハキの扱いが

お上手ですね」


そして付け加えた。


「まるでバンみたいです」


カイはドリアンを見た。


バンとハキから感じるものが

緊張感と深刻さだとすれば、

ドリアンからは

悪戯っぽさと余裕が感じられた。


丸みのある顔。


強い印象ではない。


だが、どこか

人を安心させるところがあった。


バンが知略型。


ハキが戦士型。


だとすればドリアンは、

交渉家型に近く見えた。


そのとき、

ファレンスカがゆっくりと口を開いた。


「バンが来る前に、

いくつか先に確認しておくべきだろうな」


部屋の空気が、

少し変わった。


ファレンスカはカイを見て

言葉を続けた。


「先ほど聞いたのだが、

君は黒い土について知っているそうだな」


そして。


「それを改良した武器も

持っていると言ったとか」


ファレンスカはわざと

一度息を置いた。


「それほど貴重な品なら、

ファイダルでも相当な値がつくだろう」


彼はほっほっと笑った。


「少し話が長くなったな」


そしてすぐに、

本題へ入った。


「では単刀直入に聞こう」


その瞬間、

カイは直感した。


目の前のファレンスカは、

ネオより一枚上手だ。


そしてこれから

自分の交渉相手になるのも、

この食えない老人なのだと。


「どうぞ」


カイは最初の取引を成立させるため、

気持ちを整えた。


ファレンスカが尋ねた。


「どの程度の価格を考えているのかね?」


彼はカイの表情を探りながら、

言葉を続けた。


「ここまで来て販売を提案したということは、

売る気はあるのだろう?」


ファレンスカはちらりと笑った。


「ほかの者たちはまだ懐疑的だが、

バンと私は興味がある」


彼はゆったりとした声で

また言った。


「反対する者たちも説得しなければならん。

あまり無茶な価格では困るのだよ」


カイは黙って

彼を見つめた。


ファレンスカは再び尋ねた。


「それで品物は、

いつ確認できるのかね?」


その声は相変わらず穏やかだった。


「時間が迫っていてな」


「今すぐ性能を確認できないとなると、

君を信用している私としても

少し困る」


その声には、

やわらかな圧が込められていた。


だが、カイが急ぐ理由はない。


(どうしても買いたい。

けど、値段は下げたいってことか)


カイの口元が、

ほんの少し上がった。


(なら、いくら吹っかけるかな)


カイが内心で計算を整えていた、

そのとき。


彼の集中を崩す声が割り込んだ。


「まだ購入すると決めたわけでもない。

判断は品物を直接確認してからでも

遅くはないでしょう」


ネオが交渉に割り込んできた。


(いや)


カイは心の中で眉をひそめた。


(何を商談ぶち壊すようなこと言ってるんだ)


(この爺さん、正気か?)


この武器がなければ

困るのは彼らのほうだ。


カイは少し苛立ち始めた。


(学者肌だからか、

現実感覚がないな)


その点では、

目の前のファレンスカのほうが

ずっとましだった。


そんなカイの内心など知らないまま、

ネオはもっともらしい顔で

話し始めた。


「まずカイ君は

五サークル・マスターであり、

その存在だけでも我々にとって大きな戦力になる」


ネオは少し言葉を引っぱった。


「もちろん……」


そしてカイを見た。


「この地まで商圏を広げるつもりなら、

我々と手を組むほうが

君にとっても利益になるだろう」


「我々がこの地に拠点をしっかり築けば、

君の商会もこの地から

大陸へ思う存分伸びていけるはずだ」


そして結論のように言った。


「だから当然、

我々に協力してくれるのだろう?」


(学者ならともかく、

交渉役としてはまるで駄目だな)


カイの表情が、

少し固くなった。


正直に言って、

気分はよくなかった。


(投資という名目で、

俺を縛るつもりか?)


世間知らずな老人だ。


(俺は、別に手を引いても困らない)


カイの目が、

少し冷たくなった。


(困るのはそっちだ)


カイは心の中でぶつぶつ言いながら、

ネオを存分に罵った。


だがネオは、

それにまったく気づかず話を続けた。


「品物も見ずに

購入を決めることなどあるまい」


ネオは穏やかに笑った。


「あまり気を悪くしないでくれ」


(ファレンスカが今、

どうして焦ってるのかわからないのか?)


カイは心の中で舌打ちした。


(今のお前たちには、

選択肢なんてないんだよ)


カイの表情が、

次第にこわばっていった。


どうやらカイが提示した武器の有用性を

理解しているのは、

バンとファレンスカだけらしい。


カイは決めた。


(この無知な連中には、

百の言葉を並べるより

火縄銃の威力を直接見せたほうが早そうだ)


(そのあとで、

目に涙が浮かぶくらい

高い値段を払わせればいい)


話のわからない相手には、

財布で学ばせるのが一番だった。


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