第14話 偉大なる発明家の誕生
どうやって仕返しするかを考えていたカイの唇に、
邪悪な笑みが浮かんだ。
「人間を見下したな?」
彼は低くつぶやいた。
「何千年も生きてるお前たちには
想像もできない発展ってやつを」
「人間がどこまでやれるのか、
見せてやる」
カイは再びピコをつかんだ。
そしてポケットに押し込むと、
すぐに走り出した。
次元に保管してある
自分の本体がある場所へ。
それほど進まないうちに、
カイは何の目印もない場所で
足を止めた。
(ここだな)
見たところ、
ただの平凡な森の中だった。
だがカイにはわかった。
(天神や魔神でも、
この場所を見つけるのは難しい)
彼は左手を上げた。
「開け、結界」
カイの声が、
空間へ染み込んでいく。
「次元の扉を開き、
俺を迎えろ!」
その瞬間。
空間が歪んだ。
宙がねじれ、
球体の中に収められた
もう一人のカイが姿を現した。
分身体のカイは、
近くの切り株に腰を下ろした。
今まで使っていた肉体を
その場に座らせたまま、
すぐに精神同調へ入る。
ぱあっ!
ばちばちっ。
どさっ。
光とともに、
電気の火花が散った。
精神同調が始まると、
これまでカイが使っていた分身体は
意識を失い、
木にもたれるように倒れた。
しばらくして。
宙に浮かぶ球体の中。
本体の指が、
ぴくりと動いた。
やがて目を開けた本体は、
軽く地上へ降り立った。
ごきっ。
体をひとつひねると、
固まっていた骨のあちこちから
音が鳴った。
「体、固まりすぎだな」
カイは肩を回しながらつぶやいた。
「たまには本体に
戻ってやらないとだめか」
そして口元をつり上げた。
「よし。
それじゃあ本格的に作業開始だ」
カイは少し前に頭に浮かんだ案を、
すぐに実行へ移すことにした。
もともとは、
ここまで人間の世界に介入するつもりはなかった。
だが。
あのナイサードという
生意気なドラゴンに会ってから、
気が変わった。
人間。
いや、人類を
一気に発展させる。
(ふふ。
楽しみにしてろよ)
カイは意味ありげな笑みを浮かべ、
両手の指を組み合わせた。
そしてゆっくりと、
頭の中に描いていたものを
ひとつずつ創造し始めた。
世界を揺るがす発明品。
それを人間が自力で作ったように
見せかけておけば、
おせっかいなドラゴンたちも
文句はつけられないはずだ。
もちろん、もっと簡単な方法もあった。
ドラゴンロードを訪ねる。
何発か殴る。
そして、自分が作った新しい品々が
人間世界で流通することを認めろと迫る。
それで終わりだ。
だが。
それでは面白くない。
わざわざ創造神としてこの世界を作り、
退屈を紛らわせるために
自分で降りてきた意味が
すべて消えてしまう。
あまりにも順調に進む物語は、
面白くないものだ。
むしろこの機会に、
ドラゴンたちを一度きっちり困らせてやるのも
なかなか楽しそうだった。
(トカゲめ。
見てろよ)
(腰を抜かすほど驚かせてやる)
しばらくして。
カイの目の前で、
何かがまばゆく光りながら姿を現した。
ピコはカイの背後に隠れ、
その光景を息を潜めて見守っていた。
カイは口元を上げた。
「ついに完成か?」
驚くべきことに、
その場に姿を現したのは
人間だった。
イーストンの村のネオよりも
少し年上に見える、
ファイダル人に見える老人。
手の甲には、
長年荒仕事をしてきた痕のように
深いしわが刻まれていた。
まだ意識を取り戻していないのか、
両目は固く閉じられている。
偉大なる発明家の誕生だった。
「ふう」
カイは満足げに息を吐いた。
「よし。
それじゃあ、いったん分身体に戻って
残りの仕事を片づけるか」
そこでふと、
手を打った。
「あ、そうだ」
そして商人のような顔で、
小さく笑った。
「ついでに、
売りつける品も作っておかないとな」
どうせやるなら、
一度に済ませたほうがいい。
カイが再び手を上げると、
強い光が降り注いだ。
すると今度は、
木箱が次々と積み上がり始めた。
一つ。
二つ。
三つ。
三十ほどの箱が
人の背より高く積み上がると、
カイはようやく創造を止めた。
「このくらいでいいだろう」
彼は目の前の木箱を見て、
満足げにうなずいた。
「まずは価値を見せてから、
だんだん高く売ればいい」
完全に商人の計算だった。
カイはゆっくりと
木箱の前へ歩いていった。
ぎいっ。
箱のひとつを開ける。
箱の中には、品を守るための
藁のようなものと一緒に、
光を反射する金属の品々が
何十本も入っていた。
カイはその光景を
しばらく見下ろした。
物質界に降りてから、
初めて作った商品だった。
そして満足げな声で言った。
「よし」
彼は一本を手に取った。
「いい出来だな」
日差しにかざすと、
表面がきらりと光った。
それを見つめるカイの顔も、
明るくなる。
「形は少し古いが……」
彼は手にした物を
あちこち眺めた。
「それでも俺の力で作った物だ。
普通の品とは違う」
カイは満足そうに笑った。
「ああ。
特別製だ」
彼はほかの箱も、
ゆっくりと見て回った。
今作ったものは、
火縄銃だった。
仕様だけで言えば、
初期型に近い。
だが、この時代の基準では
十分に驚くべき品だった。
カイはひとつひとつ確認し、
準備がすべて整ったことを確かめた。
「よし」
彼は指で、
箱をひとつずつ示した。
「火薬も三樽ほど用意したし、
弾も十分ある……」
そのときカイは、
ちらりと顔を向けた。
眠っているように目を閉じている
ファイダル人に見える老人が見える。
いよいよショーの始まりだ。
人間が作っていく、
人間の歴史。
カイは笑った。
その笑みは、
少し前よりもさらに邪悪だった。




