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第10話 黒い土

だが、バンは

それを見なかったふりをして口を開いた。


「我々には、黒い土があります」


「黒い土?」


「組織の上層部が、

最近開発した物質です」


バンは低い声で続けた。


「少量でも、

広い範囲を吹き飛ばすことができます」


カイは最初、

首をかしげていた。


だが、バンの説明が進むにつれて、

その目つきが変わった。


「正確な製法は、

上層部の一部しか知りません。

生産量も多くありません」


バンの声が、

さらに低くなる。


「ですが、威力は

すでに確認済みです」


彼は落ち着いて言った。


「今回の反乱でも、

黒い土を使って

騎士団を一度に壊滅させ、

証拠も残さずに済ませました」


バンはカイをまっすぐ見た。


「カイ様にも、

この秘密は必ず守っていただきます」


カイはしばらく黙っていた。


やがて、低くつぶやく。


「もう火薬を作れるところまで来てるのか?」


彼は目を細めた。


「さっきの民主主義といい、

まさかお前たちの側に

転生者でもいるのか?」


「火薬?

転生者?」


バンが問い返そうとした瞬間、

カイが先に口を開いた。


「いい」


彼は軽く手を上げて、

話を切った。


「お前たちの言う黒い土で、

キャノン峡谷を塞ぐ作戦」


カイはゆっくりとうなずいた。


「だいたいは理解した」


そして小さく笑う。


「お前たちの組織、

思っていたよりずっと大したものだな」


カイがデモクラシゲンをそう評価すると、

ネオは当然だと言わんばかりに

胸を張った。


「当然だ」


ネオの声には、

誇りがにじんでいた。


「我々の組織は、

帝国の厳しい監視の下でも

粘り強く生き残ってきた」


彼は力を込めて言った。


「その力をもって

我々の理想を実現するために、

この地を選んだのでもある」


ネオがカイを見た。


「これで我々のために、

本格的に投資する気になったかね?」


だがカイは、

その問いにすぐ答えなかった。


人の悪い笑みを浮かべたまま、

再びバンのほうへ顔を向ける。


「キャノン峡谷の件はいいとしよう」


カイの目が、

少し鋭くなった。


「では、森へ入ってくる敵の兵力は

どう処理するつもりだ?」


彼はハキをちらりと見て、

付け加えた。


「ハキはずいぶん自信満々だったが?」


ハキの肩が、

ほんの少し動いた。


カイはそのまま続けた。


「だが、前に見たかぎりでは、

お前たちの武器はかなり粗末だったぞ?」


彼は腕を組んだ。


「あれで相手にする自信があるのか?」


バンはネオをちらりと見た。


言うな、という色が

ネオの顔に浮かんでいた。


だがバンはすぐに

視線を戻し、口を開いた。


「我々には黒い土だけでなく、

最高の鉱石であるミスリウムがあります」


バンは淡々と言った。


「ミスリウム合金で作った武器を使えば、

敵の鎧は一気に貫けます」


ネオは何も言わず、

目を閉じた。


これからのことを

考えている顔だった。


ハキはまだ、

バンの踏み込んだ発言に驚いていた。


バンは再び、

無愛想な顔に戻っていた。


まるで、こう言っているようだった。


こちらの手札はすべて見せた。


次はあなたの番だ。


カイはしばらくバンを見ていた。


そして、ゆっくりと笑った。


「バン」


カイは軽くうなずいた。


「投資する側に本当のことを話してくれるのは、

安心できるな」


彼は平然と続けた。


「一応、俺は投資家なんだ。

中途半端に知らないふりをして誤魔化されたら、

むしろ手を引くつもりだった」


カイはバンを見て言った。


「正直なのは、気に入った」


その言葉に、

バンの表情がほんの少し明るくなった。


だが、ネオとハキは違った。


二人はまだ、

答えを得られていない顔をしていた。


カイは本当に自分たちの側に立つのか。


それとも、すべての秘密だけを知ったうえで

背を向けるのか。


その考えが、

頭から離れないようだった。


カイが二本の指を立てた。


「では、本当に最後に

二つだけ質問しよう」


彼は三人を見た。


「いいか?」


バンが二人に代わって

うなずいた。


「構いません。

何が知りたいのですか?」


カイは指を一本折りながら言った。


「一つ目の質問だ」


部屋の空気が、

再び静かになる。


「もし、お前たちの組織がこの件から手を引いたら、

どうするつもりだ?」


ネオが声を荒らげた。


「それはどういう意味だ!」


その顔には、

怒りが浮かんでいた。


「組織がこの件から手を引く?

これは数十年かけて積み上げてきた

我々の宿願だ!」


ネオは卓に手をついた。


「そんなことはあり得ん!」


ネオは激していた。


だがカイとバンは、

少しも揺れなかった。


二人は黙って、

互いの目だけを見ていた。


しばらくして。


バンは小さく、

「ふう……」と息を吐いた。


彼は静かに言った。


「本当に、最悪の可能性を聞いてくるのですね」


バンは一度目を伏せ、

それからまたカイを見た。


「わかりました。

お答えします」


その声は、

低く落ち着いていた。


「ネオ様とレイチェル、

そしてハキを連れて、

すぐにこの地を離れ、逃亡生活に入ります」


その言葉に、

ネオの表情が凍りついた。


ハキも驚いて

勢いよく立ち上がった。


「バン!」


信じられないというように叫ぶ。


「お前、何を言ってるんだ?

この地を捨てて逃げるっていうのか?」


ハキの声が震えた。


「そうなったら、

この地の人たちがどうなるか

わかってないのか?」


だがバンは、

ハキを見もしなかった。


彼はなおも、

カイだけを見て言った。


「組織が支援してくれないのなら、

敵に勝つことは不可能です」


バンの声は低かった。


だが、揺らぎはなかった。


「蜂起した農奴たちは、

先ほどあなたが言ったとおり、

見せしめとして皆殺しになるでしょう」


部屋の空気が、

重く沈んだ。


バンは続けた。


「私にできることは、

先生とほかの者たちを連れて

この地を離れることだけです」


あまりにも淡々としていた。


むしろ聞いている側のほうが、

戸惑うほどだった。


カイはそんなバンを

じっと見つめた。


そして短く言った。


「いい」


その口元に、

かすかな笑みが浮かんだ。


「無鉄砲に戦うと言い出す

馬鹿ではないわけだ」


カイは小さくうなずいた。


「頭も回るし……」


彼は少し言葉を止め、

また続けた。


「いや、

勇気があると言うべきかもしれないな」


今度は、

二本目の指を立てた。


「では、最後の質問だ」


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