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ぼっちの存在証明

「……と言う訳で、私はこの学校をより良い方向に導くことができると思います。


 以上で私の選挙演説を終わります。」

 全校生徒の拍手とともに、皆見は壇上の上で頭を下げて、演台の前を離れて、壇上の座椅子に座った。


「それでは、発地一さんの応援演説に移ります。有明正さんよろしくお願いします。」

 隣に座っている有明が立ち上がり、演台の前に立った。


「今回、発地一の応援演説をさせていただきます有明正です。


 しかし、私から言うことはあまりありません。どうやら、この発地君はこの後ものすごい演説をしてくれるそうです。計画通りなら、この体育館は拍手と歓声でいっぱいになるらしいです。私は今の皆さんと同じく、全くそのことについて信じていません。


 しかし、彼は自信満々にそのようなことを言うので、万が一にも皆さんがスタンディングオベーションをするようなことがあれば、少しくらい発地の悪口を言ってもいいだろうと思いました。


 なので、悪口を言っていきましょう。


 まず、勉強ができないです。国語はそれなりにできるようですが、他の教科はからきしです。ギリギリ学年は上がることはできるようですが、生徒会長になろうとしている人間とは思えない成績の悪さですね。


 その成績の低さの理由は、授業中に居眠り、置き勉など様々あります。とても人の上に立つ者とは思えませんし、人の下にいても迷惑な人間だと思います。


 次に、スポーツができません。体力や筋力は普通の人より高いようですが、それを使う能力がありません。今、帰宅部で部活動をやっていませんが、中学時代にはバスケ部をやっていたようです。


 そのバスケ部では、発地は三年間ベンチすら温めることもできず、ベンチの横の床でレギュラーメンバーの水筒にスポーツドリンクを入れ続けていたようです。


 最後に、友達がいません。皆さんの中で、この選挙の前からこの発地と言う人間を知っていた人はどれだけいるでしょうか。手を挙げてみてください。見ての通り、今すぐに数えることが可能な人数しか手を挙げていないですね。


 ここまで知っている少ないことが、人望のなさ、知名度のなさを示していると思います。生徒会長として最悪ですね。


 それでは、発地の悪口はここまでにして、発地の世紀の大演説に移りたいと思います。ありがとうございました。」


 有明は演台の前で、一礼して自分の隣に座った。応援演説は自由にしてくれとは言ったが、自由過ぎないか。ちょっとへこむ。


 でも、インパクトは残せたようで、少し笑い声や話し声が聞こえてきて、ざわざわしていることが分かる。場は温まり、自分のする演説のハードルがぐびぐび伸びて言っていることが分かった。


「それでは、発地一さんの演説をお願いします。」


 自分は座椅子から立ち上がり、演台の前に立った。全校生徒がこちらに注目している。今までこれほどの人の前で何かをするということはなかったので、途方もない緊張が段々と湧き上がってくる。自分は一つ深呼吸して、心を落ち着かせた。


「どうも、今から世紀の大演説をします。発地一でーす。」

 体育館がしんと静かになる。自分は全校生徒から浴びせられる視線を受けて、爆発しそうなくらいに恥ずかしかった。自分は咳払いをして、演説を続けた。


「えー、応援演説の有明から聞いていただいた通り、勉強もスポーツも交友関係も終わっているでお馴染みの発地一でございます。


 それでは、皆さんはそのような人間は、生徒会長にふさわしくないと考えるでしょうか。


 確かにこのような自分の短所を言われてしまうと、自分を信頼することは難しいかもしれません。しかし、自分は今言った短所は、生徒会長になる上で、必要な要素と考えていません。


 では、生徒会長になる上で、一番必要な要素とは何なのでしょうか?


 生徒会長とは、この学校の代表として、全生徒の上に立つ存在です。と言うことは、上に立つ者として、人を動かすことが重要なのではないかと思います。なので、自分は生徒会長になる上で一番必要な要素として、人を動かすことができる能力が必要なのではないかと考えます。


 ところで、皆さん、少し、後ろを向いてくれますか?」

 自分は後ろのバスケットゴールを指さした。すると、体育館に座っていた生徒や先生までもが、一斉に後ろを向いて、自分が指さす方向を見つめた。


「と、このように、皆さんは自分の指さす方向を見てしまったので、自分に大勢の人を動かす能力があることは分かって頂いたと思います。」

 自分がそう言うと、生徒達が一斉に笑い出した。これはうけたようだ。さっきのような静寂になってしまったらどうしようかと思っていたから、良かった。自分は笑いが少し引いたところで、話を続けた。


「すいません。少し冗談が過ぎてしまいました。


 今のような意味での人を動かすでは、ありませんでしたね。では、生徒会長としての人を動かす能力とはどういうことなのかと言うことですが、人の心を動かすということではないでしょうか。


 指を差せば、皆が指さした場所を見てしまうように、工夫をすれば、簡単に人は動かすことができてしまいます。しかし、人の心と言うものは、どれだけ工夫をしても、どれだけ働きかけても、簡単に動かすことはできないことが多いです。


 では、人の心を動かそうとするためにはどうしたら良いのでしょうか?


 その答えは、この人の言うことならと思われる自分の心を強さです。


 他人の心を動かそうとする時、自分の心が大事になってきます。自分の心が弱ければ、人の心を変えることができるはずがないんです。自分は少ない交友関係の中でそんなことを思い続けてきました。


 しかし、他人の心を変えるくらいの自分の心の強さをどのように見せようかと思っていたのですが、先ほど、指さした方に良いものがあることに気が付きました。


 先ほど有明に言われた通り、自分はバスケ部に所属しておりまして、マネージャーまがいのことをしていたのです。ですが、自分には、その時のレギュラーメンバーにも負けない特技がありまして、それがロングシュートなんです。


 これには自信があるんです。ところで、演台の下にちょうどいいものがありました。」

 自分は演台の中に手を入れて、バスケットボールを取り出した。


「挑戦は一回だけです。もし、入らなかったら、自分には投票しないでください。」

 そう言って、自分はいつものようにシュートの準備を始めた。


 自分はなぜ、心の強さの証明にこのロングシュートを選んだのかは分からない。これを見ている生徒たちも言葉だけを読み取れば、このシュートの意味が分からないだろう。


 それでも自分はこのシュートが入った時、意味が生まれる気がした。そしてそこで生まれた意味は、この体育館にいる全員に伝わり、全員の心を動かすことができると信じていた。


 自分は助走をつけて、ボールを投げるタイミングを見計らった。右肩を大きく下げ、右手に持ったバスケットボールに力を入れ、上に放り投げた。


 ボールはいつもよりも高く上がった。しかし、自分はシュートが外れることはないと思っていた。それは過去のことのように、分かり切ったことのように思えた。


 上に放り投げられたボールは体育館の天井に当たりそうになるところで、ゆっくりと下降していった。落ちながら、前に進むボールは、段々とバスケットゴールに近づいていった。体育館にいる全員が落ちていくボールの行方を見守っていた。皆、静かになっていた。





 パシュ


 落ちてきたボールは、リングに吸い込まれるようにそのまま入り、ゴールネットとボールの擦れる音が体育館に響いた。


「これで、発地一の演説を終わります。」


 ボールが体育館の床に弾む音が聞こえるほどの静寂の後、体育館は拍手と歓声が響き渡った。

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