ぼっちはぼっち
「まず、昨日、桑田にボコられた時からおかしいと思っていたんだ。桑田が自分に起こっていた理由ってのが、自分が水上の家に行ったからだってことだった。それは事実だから、桑田が起こる訳も分かるが、なぜ今頃になって、桑田が気付いたのか?
自分が水上の家に行ったのは、九月の話だ。なぜ、一月の終わりに差し掛かった今頃になってばれたのか。水上が今頃になって、口を滑らせた可能性もあるが、桑田は噂でそのことを知ったと言っていた。つまり、誰かが九月に起こったことを桑田に吹き込んだってことだ。
次に、今日の朝、自分の教科書が切り刻まれていたことだ。切り刻まれた教科書は深く、たくさん切り刻まれていた。あそこまで強くカッターナイフを使ったのなら、誤って指を切りつけてしまうことがあるかもしれないな。その傷の上に絆創膏を貼っているのかもしれないな。」
自分はちらりと皆見の絆創膏を貼った指を見た。皆見は反対の手を絆創膏が付いた指の上に重ねた。
「ところで、皆見、靴が汚れているな。」
自分は皆見の靴を見た。皆見の靴は白い靴だったが底の部分に乾きかけの土が付着していた。
「今日は晴れていて、ここ数日雨は降っていない。そんな泥をどうやって付けたんだろうな?」
「……。」
「実はさっき自分は誰かにトイレの個室に閉じ込められて、水をかけられたんだ。そうしたらトイレの床がびしょ濡れになっていたよ。そして、その濡れた床で靴を濡らして、グラウンドの土を踏んだとしたら、皆見の靴みたいな感じに泥が付くんだよ。」
自分は泥のついた靴を皆見に見せた。皆見はにやりと不敵な笑みを浮かべながら、口を開いた。
「この絆創膏は昨日プリントで指を切ったもので、この靴の泥は昼休みに校舎裏にある花壇の水やりの時に、誤って靴を濡らしてしまって、付いたものって言ったら信じてもらえるかな。
それにしても、発地君にそんなひどいことをする人がいるんだね。良かったら相談に乗るよ。」
皆見は笑顔で自分の方に近づいてくる。
「お前は昼休みに花壇で水やりをしていた。それ以外のことはしていないってことか?」
「そう、昼を食べて、花壇の水やりをして、教室に帰ってきた。それだけだ。」
「そうなのか。じゃあ、この動画に映っている奴は皆見じゃないんだな。」
自分はポケットからスマホを取り出して、ある動画を流した。そこにはトイレの個室にデッキブラシを使って、閉じ込め、バケツの水をかける皆見の姿が映っていた。その後、トイレのドアをよじ登ってくる自分の姿が映る。
「皆見は双子だったっけ?よく似てるどころか瓜二つだよ。
自分はこうなることを分かっていたから、トイレに隠しカメラを仕掛けていたんだ。この学校のあのトイレのいたずらは、みんな知っている。
もし、いじめたい相手がその噂のトイレに入っていたことが分かり、その相手が今にもそのトイレを出ようとして、ドアを開けようとしている。それなんとなく押さえてしまった。そしたら、不自然にデッキブラシが目の前に立てかけられている。
そのデッキブラシを疑う暇もなく、使って、閉じ込める。そんなことをするんじゃないかなと思って、スマホを取り付けて置いたら、ばっちり引っ掛かってくれたよ。なあ、皆見。」
皆見の顔からだんだんと笑顔が失われていき、怒りが湧き上がっているのが分かった。
「ついでにお前が何でこんなことをしているのかも言い当ててやろうか。
お前はちょっと前までクラスの中で友達もいなかった奴が気付けば、いつの間にかクラスの中心になってきている状況に怯えているんだ。
勉強もスポーツもできて、生徒会長までやっている。やや設定を盛り過ぎなくらいの優等生だ。そんな人間がクラスの人間が好かれないわけもない。実際、このクラスの中心にはお前がいた。
だが、最近その中心が変わってきているように感じた。赤神が不登校を辞め、桑田カップルの仲が良くなり、体育祭では優勝した。そして、修学旅行が終わってからクラス内での告白ラッシュ。この一連の出来事はクラスの雰囲気を大きく変えた。
だから、お前はこのクラスの中心であることを脅かされていると感じたんだ。それもクラスの溢れ者と思っていた奴にだ。
怖かったんだろう。だから、桑田に噂を吹き込んだり、教科書を切り刻んだり、トイレに閉じ込めて、水をかけてみたりしたんだろ。自分がお前に泣きつくことを想像していたんだろう。クラスの中心はこんないじめに屈する弱い奴じゃなく、俺なんだと証明したかったんだ。
だから、お前は放課後の教室にわざわざ残っていたんだろう?」
皆見は自分の言うことを聞き終わると、急に手を叩いて笑い出した。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ
完璧だよ、発地君。俺は君の予想通りの人間だよ。いやー、まさか、そこまでばれていて、スマホでトイレの動画が撮られて、こちらが騙されているなんて思わなかった。
じゃあ、その動画を教師に提出するのか?クラス中にばらまくか?
俺はどうやってこの地位にいると思う。俺はお前の言う通り、何でもできる優等生さ。でもな、俺は何より人を掌握する力があるんだよ。お前がそんな動画をばらまいたところで、言葉巧みに、同情を買って、お前を悪者にしてやることだってできるんだ。」
「そうかそうか、別にこの動画はそこら中にばらまいてやることはしないさ。そんなことをしたって、お前は何も変わらないようだからな。
お前は随分人を掌握する力とやらに自信があるようだな。もし、それさえも負けてしまったら、お前はどうなるだろうな?」
「負けるはずがないだろう。お前は一人ずつしか掌握する力がないんだよ。今までもずっと偶然掌握した一人がクラスの雰囲気を変えたように見せかけただけだ。勘違いするな。俺はこのクラスだけじゃない、この学校の全てを掌握している。
だから、学校中に信頼されている生徒会長になっているんだ。」
「じゃあ、勝負しよう。次の生徒会長選挙はどうせ、お前の信任選挙になるんだろう。自分が出た所でお前の言うようなら、結果は変わらないだろう。
まさか、怖気づいて、この勝負を受けないなんてことはないよな。」
皆見は再び手を叩いて、笑い出した。
「ハハハハハハハハハハ
誰が誰に言っているんだ。俺はスポーツも、勉強もできて、皆に慕われる優等生、お前は友達もいない上に、突然人を殴ったり、いじめられている劣等生。学校のみんながどちらに投票するかは明白だろう。
いいよ、受けてやる。それといじめはやめてやるよ。俺は選挙の時にボロ負けしたお前の信頼が下がっていく所だけが見たいからな。」
「自分は勝つよ。確かにお前を支持する友達はたくさんいるのかもしれないが、お前のような下劣なやり方に負けやしない。支持する友達が少なくても、自分のやり方で正々堂々やる。
ぼっちはぼっちなりのやり方で勝ってやる。」




