勘違いでした?
泣いて、お祝いの練習をして、泣いてを繰り返すこと数日。
「ティファーナ、ちょっといいかい。アルベリック君がお見舞いにきてくれたよ」
ぼろぼろの顔は見せたくないけど、お父様に呼ばれ、お母様に無理矢理引っ張り出されて応接室に放り込まれてしまった。
すぐに俯いて顔を隠したものの、真っ赤な目と鼻はすでに見られてしまったし、泣いていたのはばればれだ。
「どうされたんですか、そんなに泣いてしまって」
慌てて駆け寄って心配してくれたことが嬉しくて、でも婚約者が出来てしまうことが悲しくて、泣かないように歯を食いしばるけれど、ここ数日で壊れてしまった涙腺は、持ち主の言うことなんか聞いてくれない。
「悪いけれど、娘のこと宜しくお願いしますわね」
お母様とお父様はメイドを残してさっさと出ていってしまったし、何を話せばいいのかも分からないし、話せる状態でもない。
ゆっくりソファに座らせてくれたアルベリック様は、自分も横に座って、優しく涙を拭いてくれる。
婚約者でも恋人でもない私は、そんなことしてもらう資格ないのに。
私が落ち着くまで、辛抱強く待ってくれて、話を聞き出そうとしてくれている。その優しさに、また涙が込み上げるけど、迷惑をかけたくなくて、なんとか声を絞り出す。
「っぅえ、あの、アルベリック、様が、っふぐっ」
「はい」
口を開こうとすれば、嗚咽が漏れ、中々うまく言葉にならないけれど、優しく相槌を打ってくれるアルベリック様を早く解放してあげたい。泣いている理由を話しても困らせるだけなのに、誤魔化すことも出来ずに馬鹿正直に伝えてしまう。
「お見合いを、されたと聞いてっ、ずびっ」
「お見合い?」
「お"お"お"なじ職場の」
「ああ!」
「っうぇぐぇっ」
肯定の返事が辛すぎて、涙が溢れ嘔吐きそうになる。
「待ってください、ティファーナ様、聞いて」
背中を優しく擦ってくれる手が心地良い、こんなことして貰うの間違っているのに。
「私ではないですよ、飼い犬です」
「っぅぇ?ずび」
「実家で飼っている犬です」
「っひっく、いぬ?」
「そうですよ、犬です。犬がお見合いをしたんです」
いぬ?犬と犬がお見合い?アルベリック様はお見合いしていない?
「今度見に来ませんか」
「っんぐ、行きます、ずび」
「ア"ルベリック様は、おお、お見合いしてないですかっ?」
「してませんよ」
「よ"がったぁ〜」
「涙を拭いて、お鼻かみましょう」
えぐえぐ、ずびずび、ちーん
鼻をかませてくれたり、メイドが手渡した濡れたハンカチで、私の腫れた目元を優しく押さえてくれたり、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる優しさに胸がぎゅっとなる。
「すみません、出張に行く前にきちんとお話していれば良かったですね。私の母がそんな誤解をさせてしまうなんて」
「いえ、多分私と、ずび、母の早とちりだと思います、ずび」
「一つ聞いても良いですか?」
散々出した水分補給のためにちびちびと紅茶を啜っていると、いつもより、真剣な声で尋ねられる。
「はい、ずび」
「私のお見合いの話が、貴女をそんなに傷付けてしまったんですよね。私がお見合いをしたら、悲しいですか?」
そんなの悲しいに決まっている。今回は違ったけれど、これからだってその可能性はある。想像したらまた涙がでてきた。
「うぐ、がなしいです」
「すみません、良くない質問でしたね」
紅茶を零しそうになる震える手から、カップを抜き取りテーブルに戻し、涙を拭ってくれる。
「しません、絶対に。貴女を悲しませることは」
滲んだ視界から見えたアルベリック様の目は、いつもと違った気がした。
出張帰りにそのまま寄ってくれたというアルベリック様を両親とお見送りした。
「また改めてご挨拶に伺いたいと思います」
アルベリック様のお見合いはなかった。
好きでいて良いんだ。
安心したら、急にぼうっとしてきた。頭も痛いし、泣きすぎたのかもしれない。
「顔赤いわよ、ふふ、アルベリック様とどうだった?泣きやんだってことはお見合いの話聞いたのね、ご挨拶ですって、ふふ」
「…」
「え、貴女本当に赤いわよ、熱?熱なのね?」
ぷすぷすぷす、ぱたん
「きゃーお嬢様!」
お医者様の話では、ろくに食べていなかったことや、夜通し泣き通して睡眠不足なのもあり、気が抜けて熱が出たのでしょう、とのことだった。
「出張から戻ってきて早々悪いんだけどね、これから時間ある?ちょっとうちの娘がね」
「ティファーナ嬢が何か」
「うーん、とても落ち込んでいてね、食事もしてくれないし、何やら新しい変な儀式も始めだして。妻も暫く放っておけと取り合ってくれなくて困っているんだ」




