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(終)

まともな身体に戻すのに少し時間がかかってしまい、漸く外出許可がおりた日はなんと公爵家主催の夜会だった。


王子妃はまだ発表されていないが、本日王子殿下がエスコートしているのは、公爵家のサラ様。

ほぼ公表されたようなものであるけど、私はまだ王子妃候補なのと、元より誘ってくれる殿方なんていないので、お父様と夜会へ参加した。


お母様には、王子妃候補でいる最後の夜会よ、と50回くらい念押しをされたけど、どうせ婚約の打診なんて来ないんだから、何も肩書がないただのオタクに戻るだけ。


アルベリック様とは、こ、こ、恋人になれたらいいなとは思っているけど、恋愛対象になんて入っていない気がして、まだ告白する勇気がでない。

泣き喚いたり、自業自得で寝込んだり、お見舞いが嬉しくてベッドから転がり落ちたり、恥ずかしいところを見られてばかりだ。こんなんじゃ、大人なアルベリック様に好きになってもらえる筈がない。


お父様が挨拶周りをしているので、いつものように壁の花どころか壁になって正装のアルベリック様を遠くから眺めようとすると、何故か今日だけやたら声をかけられる。


「ティファーナ様ご無沙汰しております」

「相変わらず美しいですね、ティファーナ様」

「ぜひダンスを一緒に」

「あちらに美味しそうなデザートが」


名前呼びだなんて、彼らは昔からの知人のように凄い仲良しの感じで来てくれているのに、私の方が全く覚えていない。え、違うティファーナさんのことですよね、どなたかとお間違えでは?とは言えない私のチキンハート。

しかもダンスとか無理寄りの無理なのでぜひ辞退させていただきたい。デザートは食べたいけど、先に今日のアルベリック様を拝みたいですし。


なんとかという家の息子さんと、なんとかという家の息子さんやら複数人に囲まれて、終いには手を掴んで強制的にShall we danceさせられそうになったところを、颯爽と現れたアルベリック様に、手を取られてその場から連れ出してもらった。


実は壊滅的にダンスが苦手な上に、あの人たちのことを誰だか覚えていないぽんこつな私がバレないようにという配慮だとは思うけど、それが物語の王子様の様で、さっきとは違う意味で、心臓がどきどきとしてしまった。


デートでは、歩幅を合わせて隣を歩いてくれていたのに、今は先を歩く大きな背中と綺麗な横顔が見える。

エスコートではなく、掴まれた手は、私より二周りくらい大きい男の人の手。


以前だったら、無課金で握手会なんて畏れ多いから貢がせて欲しいくらいは思ったのに、繋いだ手をこのまま離して欲しくないな、なんて思ってしまった。


綺羅びやかな会場を抜けて、開放されている公爵家の中庭に出る。この世界は前世で暮らしていた日本とは異なり外灯がそんなに多くはない。その分、夜空には落ちそうなくらいの星が瞬いている。


夜会の喧騒から外れたこの場所では、アルベリック様の小さな溜息も、呟きも鮮明に聞こえる。 


「貴女のことが心配です」

「えと、え?どういう…」


私がぽんこつすぎるあまり、そんなに心配をかけてしまっていたのだろうか。


いつもの夜会でも、遠くに見えるアルベリック様しか見ていなくて足元を見ていないとか、ご友人と歓談されているアルベリック様のお顔に見惚れて口の位置を誤ってシャンパンをドレスに飲ませたりなど、心当たりしかありません。恐らく先日、家の祭壇とかも見られただろうし、頭のことも心配してくれているのだろうか。面目ないです。


なんて見当外れのことを思っていたら、振り返ったアルベリック様の綺麗なそのお顔は苦しそうに歪められていた。


「そんなに無防備に、他の男に笑いかけないでください」


言われたことがすぐには理解できなかった。いつもアルベリック様は優しいけれど、上司である父に言われて私に付き添ってくれていると思っていたから。だから、そんなことを言うとは思ってもみなかった。


「一回りも下のお嬢さんに言うことではないのかもしれない。それでも、他の誰にもこの場所を譲りたくない」


真剣な表情のアルベリック様に真っ直ぐに見つめられる。いつもなら恥ずかしくて目を反らしてしまうけれど、何故か今日は目を離したらいけない気がして。


「ティファーナ嬢」


私の大好きな、吸い込まれそうに澄んだ、美しいアイスブルーの瞳。どこまでも魅力的なそれに見惚れていると、


「貴女のことを、愛しています」

「ふぇ」


すこんと膝から力が抜けた。


「危ないっ」


感覚を失って膝から崩れ落ちた私を受け止めて、アルベリック様も芝生に一緒に座り込んでしまった。待って、さっき何を言われたの、え、なに、聞き間違い?幻聴?白昼夢?


「ティファーナ、私と婚約してください」


ティファーナ、ティファーナ、ティファーナ、、

こんやく、婚約、こんにゃく、婚約、こんにゃく、、蒟蒻


名前の呼び捨てと婚約の破壊力が強すぎて、脳が処理するまでにだいぶ時間がかかってしまった。


「こ、こここ、こここんにゃく!!??」

「愛しています、ティファーナ。婚約しましょう」


両手を掴んで、逃がさないとばかりに顔を覗き込まれる。両手に感じる大人の男の人の手の熱と、熱っぽい眼差しと、形の良い薄い唇から目が離せなくて、


「ね、答えて」

「しましゅ」


脊髄反射で答えた私は悪くないと思う。

だって、蕩けるような壮絶な色気が目に毒で、すぐに答えないと色気の暴力で爆ぜると思ったから。


「ふふ、ありがとうございます。あとでご両親に報告に行きましょうね」

「…ひゃぃ」



私は知らなかったけど、既に両家での合意は取れており、貴族として家のための婚姻が珍しくない中、両親は本人たちの気持ちを待っていてくれたこと。

婚約の報告をすると、やっとですかと、侍女やメイド、出入りの商人、粉屋の馬にすら祝福をされたこと。私の想像を遥か超えるくらい、アルベリック様に好いてもらっていたことなど、驚くことばかりだった。



前世の両親、オタク友達各位

私は、この度

何の奇跡か分かりませんが、

私のような、ずっと陰からみていた限界オタクを受け入れてくれた、

満天の星よりも輝いている、

世界で一番大好きな人と婚約しました。


end




ちなみにアルベリックは、婚約後に推しの概念を知り、ティファーナが見てるだけで自分に近寄ってこなかったことに納得。

婚約前から好きだと自覚していたが、その後も推し活は続けていたので、推しじゃなくて愛してほしいとアルベリックに猛アプローチされてたじたじ。


「す、すき!もう好きです!私も愛しています!ギ、ギブアップ!!」

3年以上も間を空けてしまったにも関わらず、暖かいコメントをいただきありがとうございました。

初めて書いた稚拙な作品ですが、おかげさまで完結させることができました。

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