英雄
白根婆の家内は古民家のような感じで、全体がほぼ杉床で
みんなで囲炉裏を囲むように食事をとることにした。
時間的には少し遅いお昼ご飯。
仙達みんなが課題に困っている間、奇士や白根、琴美が急いで用意してくれてたようだった。
7人が座布団に座って、いただきます。
美味しいご飯と同じ鍋をつついた所為も相まって自然とみんな笑顔になっていった。
大人しそうで真面目な猛も、クールで物静かで何を考えてるか分からない奏も。
仙と紫苑は最初からぺらぺら喋って相変わらず騒いでた。
琴美はいたずらっ子みたいで仙が気に入ったのか、横にちょこんて座ってツンツン仙をつついたり、仙は琴美に食べさせてあげたりしてた。
それを見て紫苑は笑って仙を言葉で弄る弄る。
それを見た猛と奏はプッと吹き出して、また笑いが起きる。
奇士もニコニコしていたけれど、口数は少なかった。でも箸のペースは人一倍早かった。
みんなのお腹がだんだんと膨らんできて、箸のペースも落ちてくると
他愛のない話から、真面目な話になっていった。
奇士と白根は、彼らにどうして龍騎士団に入ろうと思ったのかを聞いた。
奏は…ユーベルメンシュとなったことで、普通の生活を送るのが難しいと感じたため、それと自分の力が通用する場があるならば、と答えた。
本当にそれだけか、と白根は尋ねたがそれ以上のことは言わなかった。
それに深く探ることも出来ないから。
猛はその話が始まってから俯いていたけど、尋ねられると一呼吸置いて理由を語った。
ノーカリウドに住んでいたこと。
ノーカリウドは八年前の大規模な陥没故により大半の住民が犠牲となっている。
そしてこの陥没事故を意図的に引き起こしたのはサダムの人員だった。
それを分かっていること、それから最愛の姉を亡くしてしまったことが引き金となっていた。
それに加えて陥没事故から生き残ったノーカリウドの住民はサダムの国、ガウラ帝国の支配下にあった。
大天災により弱った警備を潜り抜け、猛は単独で今回の行動を起こした。
その話で驚いていたのは紫苑だった。
紫苑もその事故まではノーカリウドに住んでいたからだった。
でも猛のことは知らないようだった。
続いて仙は、悩んでいるような表情をした。
アルリシヤが故郷だと言うと、皆いたたまれない顔をした。
未だアルリシヤの火災は原因不明であり、消えてもいなかったから。
あの時、ペーペルトが突然現れたこと、大天災を引き金に起こった大火災はサダムが関わっているのではという見解が妥当なのではないかということだった。
仙は気づいていたかは分からないが勿論、仙にも多少疑いの目は向けられた。
でも奇士のアウトプット能力によりその疑いは晴れた。
「そう、そういえば後で色々と教えてくれるって言ったよね?色々聞きたいことがあるんだよ。勿体ぶってないでさ」
紫苑は奇士にそう訪ねると奇士は顔を上げる。
勿体ぶっていたわけではないが説明が長くなることと色々とタイミングを逃したせいもあるようだった。
まずは波動のこと。我々の住む世界にある物質や人間の形を定義付ける時、全てはその物の波数や波動レベルによって観測している我々が形を定義付けているに過ぎないこと。
そして波動にも色んな種類や呼び名があり、物質の場合はそのままの物質波。
人における場合は想念波動と光明波動になると伝えた。
でも、説明の仕方もあるかもしれないが勿論彼らにいきなり説明しても分からないようで分かりやすくと数秒考える奇士。
それで出た言葉は、大天災前の人間は「想念波動」、大天災後生き残った人々、ユーベルメンシュ達は「光明波動」と考えていいということと
想念波動はネガティブな部分もあるエネルギーに対し、光明波動はポジティブなエネルギーでありより良いエネルギーだとも伝えた。
そして波動自体も意識、思考、感情ものに非常に大きく作用されるもののため場合によっての変化もあるということと想念波動を持った人が光明波動に変化することもあれば、その逆もあるということだった。
「……さっぱり分からないんだけど。ね、仙とか分かった?」
紫苑は分からないようで仙達に訪ねたら仙は首を傾げて、猛は考えてるようだった。
「えっと要するに、考えようによっては波動は変化して。……波動は心みたいなものってことですよね」
「そうそう、その通り。奇士は頭が固すぎるんじゃ」
猛が要約してくれるとやっと何となく分かったようだった。
続いて光子エネルギーのこと。光子エネルギーは大天災後によって呼ばれるようになったものであり大天災以前からあったものかどうかは定かにはされていない。
大天災の発生原因も、空から降ってきたエネルギー、人工兵器の類いなど憶測が飛び交うばかりで分かっていないということだった。
ユーベルメンシュの体内にある光子エネルギーの蓄積量を数値化した時に使用する呼び名として光子量という言葉があり
体内に蓄積された光子エネルギーは波動と一緒に空気に乗せて放出出来る能力を持つのがユーベルメンシュ達である。
光子エネルギーはいつまでも放出し続けることが出来るわけではなく、いつかは無くなることもあり。
体内の光子エネルギーが無くなるような使い方は絶対にするなと白根は念を押した。
少なくなったとしても数時間経てば光子エネルギーは回復することと光子が体内に蓄積することが出来る理由として、光は質量を持たないため質量を持とうとした意思と人の意思により体の細胞を侵食していると言ってもいいと言った。
侵食と聞いたら怖がりそうだと思ったみたいだけど意外とそうでもないようだった。
それから奇士の能力アウトプットについての説明もあった。毎回白根の視線を感じながら喋る軟弱極まりない印象の奇士は一番悩んだような顔をして白根の顔を見る。
「好きなようにしな」
白根は一言そう言うと奇士は自らの手を見てから話を始める。
以前に話をしたかつてのノーカリウドの大事故はサダムによるもので、必死の抵抗も虚しく大規模な損害と犠牲を与えた。
その陥没事故が起こった原因は地下研究所をサダムが爆破した事によるもので、その研究所で何が行われていたのか庶民は愚か、ノーカリウドの人々すら誰も知らなかった。
研究所の爆破からの大規模な陥没。それでサダムは撤退するかと思われたが何を思ったか全ての民を粛清するつもりで更に人々を殺めようとしていたところで当時騎士団にも属さず、一般庶民の青年であった奇士は駆け付けその惨状に激昂し、サダムの一人であるポルックスと対峙することとなった。
「その時の怪我じゃよ」
言葉が止まった奇士に代わって白根が言う。
「ええ」
「当時のポルックスにただのヒヨっこが挑むとは、とんでもないことだった。瞬殺されてもおかしくはなかったよ」
白根はそう言う。
「瞬殺……」
「それなのに奇士は、奴と互角の闘いを繰り広げおった」
「白根さんも、闘いを見てたの?」
紫苑は白根に訪ねた。みんな白根のほうを向く。
「見てはいないさ、奇士の攻撃でポルックスはボロボロになり撤退したんじゃ。
勿論、奇士も酷いもんじゃったな」
「その時に助けてくれたのが白根さんなんです。両手をほとんど失った僕は手が欲しいと願いました。そしたら日に日に再生はしてきましたが、このように黒くなり人の体に触れた途端に構造や記憶といった生体情報といいましょうか。そういうものが強制的に頭に流れ込んでくるようになったんです」
「うむ、手の怪我とだけ言ってるがそれ以外の怪我も酷いもんだったよ。もう駄目かと思ったからの」
「ちょっとだけ聞きたいことがあって」
紫苑は何か気になるようで
「お母さんから聞いた話なんだけど、陥没はほとんどの区画が巻き込まれたんだけど、私の住む場所は巻き込まれなくて、でもサダムはこっちにまで攻撃を向けたときに助けてくれた……英雄がいたって」
「そこじゃろうな。のう、奇士」
「そ、それは僕と決まったわけじゃ……それに、そんなに英雄視されるほどの闘いぶりはしてませんよ」
「そうかのー」
「ま、今となっては不思議じゃな。守りたい一心で今の弱気な奇士がサダムと互角なんて」
「どうしてそんな危険を犯してまでノーカリウドを守ろうとしてくれたの?当時はただの一般人だったんでしょ?」
「それが人の自然な姿ですよ。……例えば、人が助けを求めている時には、みんなどうしようかって迷うことは一緒だと思うんです。僕はたまたまそれが行動に出た。ただそれだけのことです」
「それだけのことって……死ぬかもしれなかったんでしょ?」
「……それは此所にいるあなた方の存在が、それを証明している。僕はそう思いますよ」
奇士はみんなの顔を見てそう言った。だが白根だけは一人深刻そうな難しい顔をしていたが口は開かなかった。
するといきなり、ばちーん!と琴美がいたずらで思いきり奇士の頭を叩く。奇士の反応が可笑しくて琴美はケラケラと笑う。
「びっくりしたー……」
「みんなこわい顔ばっかり」
琴美が一言そう言う。真剣な話をしていたせいで深刻な表情が子供の目には怖いと映ったようだ。
奇士は微笑んで体を琴美に向ける。
「いたずらっ子にはこうだ!」
奇士は琴美の小さな体をぎゅっと優しくつかんで高く上げては揺すったりする。それに合わせて琴美も手足をバタつかせてケラケラと笑う。
「こうなったらどっちかが体力的に弱るまで終わらんぞー」
白根がそう言うと仙達みんながクスッと笑う。
「琴美ちゃんって婆さんの孫か何かか?」
「ちょっと、婆さんって失礼な言い方!」
仙が口を開くとすぐに紫苑が注意すると仙はお前に言われたくない的な顔でチラチラと見る。
「まぁよいよい。琴は孫とかではないんだがな……実は大天災後、気づいたら外におったらしくてな」
「ええ!?ちょっ、それってまずくないですか?迷子とか両親とはぐれたとか、それにもしかしたら琴ちゃんのこと探してるかもしれないし!」
「うむ、まずいと思って色々と捜索してはいるんじゃが全く音沙汰が無くての、それにあまり街へ出すと此所に帰りたいって言っては泣きわめいて大変なんじゃ。だから今はこうするしかないって状況だ」
「……本当の家に帰りたいとか両親の話をすることもないの?」
「それも勿論試したがな、全然じゃ」
「そうなんだ……なんか、可哀想だね」
紫苑は敢えてか仙のほうを見る。
「そうか?……いって!」
仙の愛想ない言葉に紫苑は頭にきたのか仙の手の甲をつねって捻る。
「いってぇよ!」
「あんたね、ほんっっとに馬鹿なんだね」
「いや、楽しそうだからいいかなってさ……」
「そうかもしれないけどそんな無愛想な返し方ある?久しぶりに喋ったかと思ったら失礼な言い方してさ」
「だからってつねって捻ることないだろ……」
その二人を見て猛と奏の表情が強張り何故か二人とも姿勢を正す。奇士と琴美は気にしてないのか相変わらず。
「はっはっは、若い証拠じゃな。健康な証拠」
「だからってもくそもないっての!」
「ほんとお前口悪いなぁ、ちょっと良くなったか?と思ったのにまた始まりやがった……」
色々と一段落着いてから、白根の家に剣陣が顔を出した。
龍騎士団候補に選ばれなかった他の者達は一対一で戦わせ、更に勝ち残った者の上位三名を騎士団として育てていくように決めたようで、その報告に立ちよったらしい。
剣陣は家庭もあるからという理由で、報告を済ませると足早に白根宅を後にした。
琴美は奇士とのじゃれ合いに疲れたようで寝てしまい、奇士が琴美を抱き抱え布団をかけて寝かせてあげた。その奇士も今日は一日相当疲れたようで目を擦りながら今にも寝てしまいそうな顔で戻る。
皆が思っていたよりもずっと時間が過ぎるのは早かったようで外はもう夜になり。
「さて、寝床はどうするんじゃ?……無いであろう?無いのなら、泊まっていけ」
後片付けを済ませ、お茶をすすっていた白根が顔を上げると皆にそう聞く。
口調は無愛想だけど心配をして気にかけているというのは皆も感じていた。
「ここに泊めてくれるのか?まじかよ!」
「すみません……お言葉に甘えて」
「わたしは近くに一応自宅があるから」
仙、猛、紫苑がそう答えると奏だけが口を開かないので、見兼ねた紫苑が奏に近づき不機嫌そうに脚を叩いて返事を催促する。
「よ、よろしく頼む」
「なに緊張してんのあんた……そんなタマじゃないでしょうが」
奏が答えるとすかさず紫苑は突っ込むが、奏と出会って数時間しかたっていないのに紫苑は奏の何が分かるというのか。
皆の返事を聞いた白根はウンウンと頷いた。
「ところで紫苑、家に帰るそうだがまた海を渡らねばならんぞ?そのところはいいのか?」
「あっ!そうだった…」
「また奇士に手伝ってもらうか?」
その白根の言葉に皆は「?」という顔をするが奇士は何かやましいことがあるのか「ぶふっ!」と吹き出した。
「どうしたの?」
「い、いえ……お家に用事があるのなら送っていきますよ」
「用事って言ってもそんなないんだけどね。強いて言うならお風呂とか、着替えとか」
「それくらいならば問題ない。お前さんらの服くらいは用意してある。気に入ればの話だけどな」
そして、紫苑は男に囲まれて寝るのが嫌だなど、駄々を捏ねたが「嫌なことに逃げていたら強くなれん。心を鍛えるのも一つの修行になる」と言われ、泊まっていくことに決めた。一日だけではなく、暮らす感じになるわけである。
実は奇士も白根宅に暮らしているようで、皆驚いていた。
服は着物のような物が与えられ、渡された時は驚いていたようだが着てみると意外としっくりきたようで結局皆笑顔で喜んでいた。
一日のやることも済ませ、夜が更けてくると皆は同じ寝室で寝ることになり、ようやく寝静まる。
「賑やかになりそうですね」
奇士と白根だけは残っていて、二人きりになり。奇士が話掛ける。
白根は何も言わずに相槌を打つ。
「ずっと、こんな時間が続けばいいのに」
「そう思うのか……奇士、お前さんは彼らをどう見る?」
そう言われて何か言おうとしていた奇士も言葉に詰まり、目を大きくして白根を見る。
「どう見る……と、いいますと」
「彼らの扱い方だよ。人としてではなく、龍騎士団としてな。……まさかサダムと戦わせる気じゃあるまいな」
サダムと口にした時、白根の語気は強くなる。
「いえ、そんなつもりは……。ガウラ帝国に対し、攻めの形ではなく、守りの形としてでありますので それは陣さんも納得してくれています。相当な此方の目立った動きでもない限りはサダムも動かないはずです。現に8年前からサダムの動きは静寂しつつあります。」
「うむ、確かにな。だが、これだけは言っておくがあやつらがいくら修行しようがまともにでは勝てないだろうの。ハッキリ言って、わしは期待しとらん」
「……!?」
「経過を見守り、判断するんだ。それと一人独特な想念波動を持ったものがいるな。本人は気づいていないようだが、扱いようによっては危険にもなりかねん……。問題ないのか?」
「光明波動に囲まれ生活すれば、彼も光明波動に変換されるのではと思っています。おかしな波動も見当たりませんから、変換されるのも時間の問題かと」
「そうさな、考え過ぎか……」
奇士はゆっくりと頷く。
「よし、明日も課題を出すが難しいぞ。くれぐれも余計な真似はせぬように」
「やっぱり、バレてましたか……手伝ったこと」
「当たり前であろう。彼らのような力の使い方も知らぬ子供が、どうやってこの海を跳ねて渡れようか」
「ですよね……。無理だって分かっててそんな課題を出すなんて、白根さんも人が悪いなぁ」
「奇士がどうするのかを見たくてな」
そう言うと白根も寝るのか立ち上がると奇士も同時に立ち上がり。
「……なら僕は合格ですか?」
「不合格に決まっておる」
そう言われると奇士は笑いながら寝室へ行った。
同じ一室で布団を並べ皆は床に着く。
夜も更けて聞こえるのは鼾と風の音のみ。
その中で紫苑は大きく寝返りをうつと体を起こし、そっとした足取りで襖まで歩いていく。
「紫苑…?眠れないのか?」
仙が紫苑に気づき心配そうに尋ねる。
「あ、起こしちゃった?ごめん。ちょっと、トイレに行くだけだから」
紫苑は仙に背中を向けたまま小さな声でそう言うと寝室を出る。
部屋を出た瞬間に異様な雰囲気が紫苑を襲う。
まるでこの家に何か得体の知れないものが潜んでいるような、初めて感じるその感覚に体はガチガチに固まってしまう。
部屋を見渡すと障子の向こう側から光が漏れてるのを発見し、そこへ近づく。
電灯のような天井から照らすような光り方ではなく、まるで発光体がこの襖の向こう側に置いてあるような光り方をしていて紫苑は怖れよりもどうしてもその中が気になって仕方なく襖をそっと開いて片目でその部屋の中を覗き込む。
そこに居たのは異様な空気を纏った奇士の姿だった。
奇士は目を閉じ、落ち着いたように座禅しているが全身は炎が燃えるように光っていて奇士の真理状態を表しているかのように見えた。
すると、襖がガタガタと音をたてて小刻みに揺れ出す。
奇士の力だと咄嗟に気づいた紫苑は後退りし、その場を離れようとするが突然電灯の電源を切ったかのようにプツリと光は無くなる。
奇士は薄暗い部屋の中から少しだけ開いた襖の隙間へ目をやり紫苑を見つめる。
「紫苑さん…。お恥ずかしいところを、見られてしまいましたね」
「…奇士?」
紫苑は震えたような細い声で別人のように感じてしまった奇士を確かめるかのように言う。
奇士は立ち上がると襖を開けて優しくも少し恥ずかしそうでもある笑顔で紫苑を見る。
「もう遅いですから、お休みください。僕もこれで眠りますので」
「…何をしていたの?」
奇士の言葉を切ってでもそれは気になって仕方がない。
「瞑想と言えば難しいですが、自分への確認と全ての迷いを絶とうとしていました」
「ど、どういうこと?」
「簡単に言えば、修業みたいなものです。それじゃ」
そう言うと奇士は紫苑から離れたが背中を向けると立ち止まり。
「あなた達を危ない目に会わせるつもりはありません。危ない時は、あの時のように僕があなた達を守りますから」
紫苑はじっと立ったまま奇士の背中を見て。
「ありがとう」




