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仙人天  作者: 天内君保
第一章「第二波」
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課題

彼らに背を向けていた白根が正面を向き口を開く。


「名前を呼ばれたからといって入団が決定したわけじゃないから勘違いしないようにな。それで早速だが、お前達に課題を出そう」


仙達は真剣な眼差しで頷く。


「先ほど申し上げたようにあそこの小島に私の住み処がある。ここからあそこまで何も使わず、己の力だけで渡ってみなさい。課題は以上だ」


何も使わずという言葉に仙達は不思議そうにしている。


「制限時間は3時間。それと、この地帯にだけ何故か大型の肉食魚がゴロゴロいてだな、水の中に入ればたちまち食いつかれるから注意するようにな」


「えええええ……」


仙は泳ごうかと思っていたのかその言葉でがくりと肩を落とす。


「じゃ、待っているぞ」


そう言うと白根は突如凄まじいジャンプを見せて一瞬にして向こうの小島まで渡ってしまった。

仙達は驚きを隠せなくてしばらく呆然としていた。


「あ、あんな身軽なお婆ちゃん初めて見た……」



黙って後ろで控えていた奇士は何故かドヤ顔をしている。

別に奇士がやったわけじゃないのに。


「あぁ、そうだ。……これをお持ちください」


奇士は紙切れを一枚取りだし、何故か紫苑に渡した。


「なに、これ?」


「勇気を持っていただくための説明書とでも言っておきましょうか。困った時には目を通してみてください」


「さて、僕もそろそろあちら側へ行かなければならないのですが何かご質問あります?」


皆が頭を傾げているが紫苑が顔を上げる。


「あの、絶対飛ばなきゃ渡れないってこと?」


「うーん……絶対というわけではないですよ。ただ、"物を使わない""泳がない"であればいいわけです」


紫苑は目をパチパチさせてやっぱり分からない様子。


「難しく考えないでくださいね。前向きに考えればすごく簡単なことです。……それでは、冷たいようで申し訳ありませんが僕はこれで。くれぐれもお気をつけて」


タンッ!!と地面を蹴った音が聞こえたかと思えば、奇士も向こうの島へ渡ってしまった。


「はぁ……物理的に考えておかしいでしょ」


「なぁ、とりあえずさっきの紙切れに何か書いてあるんだろ?読んでみてくれよ」


「僕も気になります」


仙と猛は紫苑に言った。


「あ、うん。

……強さは心(想い)に比例する。光明波動は応えてくれる。だがその逆もまた然り。

……森羅万象の全てを操ることは到底不可能だが、光子エネルギーで作り出せる物であればそれは武器となり盾となる。だって」


「………」


「分かるような……分かんないような」


仙は苦笑いをした。


「えーと、最初の文で言いたいのは飛べると思えば飛べるってことじゃないでしょうか」


と、一番最年少の猛が要約してくれた。


「逆に言えば落ちると思えば落ちるってことか」



「お前達では無理だ。俺が手本を見せてやろう」


ずっと黙ってた奏がそう言うと先頭に立った。


「大丈夫なの?自信満々にそんなこと言っちゃって」


紫苑の言葉に奏も流石にイラッときたのか、横目で睨む


「見ていろ」


すると、何故かちょっと離れて、離れた所で後ろへ下がる奏。みんなはたぶん助走をつけるためだと思っているのだろう。

それから数秒後。


「見てろよ……」

「分かったって」


紫苑は奏が二回も言った言葉の後すぐに一刀両断した。

すると奏はついに、一歩二歩と歩みドンドン速度が上がっていき海まですんでの所で飛び立った。


「おおおーっ」


みんなはその姿をまじまじと見つめ顔で追う。

小島に無事に着地した奏。でも、降り立った場所は何だか違う気がする。


「ねぇ、小島の場所ってあそこだっけ?あたしが勘違いしてるのかな」

「たぶん、違う……よな」

「違うと思います」



そしたら、小島の方から声が聞こえてきた。


「おーい、違うぞー!こっちじゃこっちー!」


おそらくは先ほどの白根婆の声だろう。どうやら奏は素で渡る場所を間違えたらしい。


「ぷっ」


その出来事に吹き出す紫苑。自信満々に駆け出したのに格好悪い姿を晒したのが面白かったらしい。



「さて、僕も行かないといけないですよね」


次にその気になったのは最年少の猛だった。


「大丈夫?猛くんはどうやって渡るの?」

「うーん…。とりあえず、飛んでみます」

「とりあえず飛んでみるって……。ねぇ、失敗したら取り返しのつかないことになるかもしれないんだよ?」

「……それしか方法が見当たらないので。それにさっきの紙に出来ると思えば出来るって書いてありましたし、不安になったら駄目だと思うんです。……大丈夫です。僕はやってみせます」

「うん。きっと、大丈夫」



「あれ、紫苑さんと仙さんでしたっけ…… 渡りますよね?」

「う、うん。もちろん!」

「じゃ、お先に行ってお待ちしてます。それじゃ」



猛は手を上げると、奏のように助走をつけて飛び立った。

高さは十分で無事にそこへ着地することが出来たようだ。


「はぁ、良かった……」

「すごいな。何ていうか、奏より安定してたんじゃないか?」

「隣に居たから分かったけど、あの子あんな強気なこと言ってたけど足はガタガタ震えてた」

「そうだったのか」

「だから心配だったけど。良かった」


確かに猛は素晴らしかった。でもこの残された二人は感激している場合ではないのだ。

何故なら次はこの二人の番なのだから。


「ここまで来ちゃったけど、なんだかやっぱり……」


「やっぱり、なんだ?……まさか帰りたいとか言うんじゃないだろうな」


「ううん、そんなんじゃないんだ」


「……俺だって不安がないわけじゃないよ。誰だって不安になるだろ」




「…………」


「…………」


そんな話をしていたのにも関わらず、5分くらい沈黙が続いた。

紫苑は胸に手をあてて心を落ち着かせようとしているのか静かに息を吐く。


「はぁ……心拍数がやばい」


「俺思ったんだけど、最初から奥のほうに飛ぼうとしないで一度ほんのちょっとだけ前に飛んでみたらどうだ?」


「そうだそれだ!」


境地に立たされると人は冷静な考え方が出来なくなるのか、二人の頭が悪いのか

紫苑はやってみようと身構え、一応小島のほうを向いた。


ピョンッ


するとジャンプした紫宛の足が地面に着く直前、突然別の力が働いたみたいにバビューンと飛んでいった。


「…!!え、ええええぇぇぇ――……!」


紫苑の意思じゃなかったのか明らかに驚いたような叫び声を上げ手足をばたつかせながら。

やばいんじゃないかと一瞬焦ったが、小島に無事着地したようなので安心した。


「え……はぁ!? お、おかしくないか?」


確かに紫苑の飛び方はおかしかったけど、あんなことを言っておきながら一緒に飛ぼうとしなかった仙、あなたも似たようなものだよ。


「あんな飛び方でもいけるってことは俺もいけるってことだよな。よし!俺はもっとかっこ良く決めてやろう」


何故か屈伸を始めた。

何度かやると距離を置いて助走をつけて飛び立った。


「俺、飛べてるー!」


紫苑のように手足をばたつかせて飛んではいないものの、奏や猛のようにスピードはない。

すると突然空中にいる仙の体目掛けて光る短い光線みたいなのが猛スピードで向かっていき。仙はギリギリでそれをかわした。


「いてええええええ!」


そう叫びながら小島に着地、いや着地というよりドン!と墜落する仙。


「あぁ、何だよ今の!」


大したことはないのか、咄嗟に起き上がり辺りをキョロキョロ見渡す。

先に小島に渡った3人も心配そうに仙を見つめている。


「いやぁ、すいませんでした。危ない目にあわせてしまって……」


「なんなんだよ今のは」


仙に謝りながら近づいてくる奇士の後ろ側で課題を出した白根がいた。

そしてその隣には見たことがない小さな女の子がいて何やら白根と話をしていたかと思うと、仙に向かってタッタッタッと小走りで近づいてくる。


「ごめんなさい」


「え、どういうことだ?」


突然なんか飛んできてケガしたかと思えば、10歳くらいに見える女の子が謝ってくる。

女の子は頭を下げて仙の顔を見た。


「おにいちゃん。ごめんなさい」


「……なんで謝ってんだ?」


「いやーすまんすまん。仙、だったか?お前が凄い顔して近づいてくるもんだから悪い奴かと思ってこの、琴が攻撃してしまったんじゃ」


白根婆が苦笑いしながら近づいてくる。

琴の隣にまで来ると、頭を優しくトントンと撫でてやる。


「琴、だけどね。琴美なの」


「琴美? あぁ、この子の名前か。……それより、さ、凄い顔して近づいてくるって酷いぞそれ。俺だってこんな見た目になりたくてなったんじゃねぇってのに!」


白根と琴は顔を見合わせた。


「以外とこう見えて繊細……」


「なりたくてなったんじゃない。……奇士の口癖じゃな」


言われて奇士の方を見ると自分の顔をぐっぐって指さして笑った。


「僕も同じですから」


「あぁ、そうだったな。お前も」


内心孤独を感じていた仙だったけど、奇士の存在は仙に少しだけ希望を与えてくれた。


「それよりも、ご無事でなによりです」


「いや、……ケガしちゃったんだけどさ」


「あ、それなら……。琴ちゃん」


「はーい」


琴は嬉しそうな顔をして仙を見てる。琴の後ろに奇士がしゃがんで後ろから琴の手をぎゅっと握る。


「いいね。琴ちゃん……掌一点に集中させるんだ。治れって」


琴は奇士の言葉にコクンと大きく頷いた。

その頷きが合図となり琴と奇士の手が眩く輝いた。

そしてその光は仙の傷へ移動し環を描いて回りだす。


「え、……な。何が起こって……」


仙はビックリしてあたふたしてる。数秒その時間が続いて、その光は消えた。


「……ふぅ。終わりだ、琴ちゃん」


奇士は立ち上がって一息つく。でもその表情は少々浮かない。


「傷は塞がったし、今すぐきれいにとはいきませんが、普通の治癒力よりは遥かに早く治りますよ」


「何したんだ?今の」


「ヒーリングという能力です。……いや本来ならね、きれいさっぱりに治せるんですよ。僕達のエネルギーが万全でなかった所為です。申し訳ありません」


「いや……ありがとう」


仙は凄く優しい表情でそう言った。


「どうじゃ?おそらく初めてであろう、ユーベルメンシュの力を直に身体に受けた気分は」


「何ていうか……凄くあったたかったよ。こんなにされていいのかってくらい、凄く優しくて……」


仙は照れくさそうに笑った。


「うむ。良かったな。

それで奇士、お前は今日は能力を使いすぎたであろう。休んでいい」


奇士は深々と頭を下げた。

どこかとても疲れた表情をしていた。


「それから一つだけ、仙。違いするでないぞ。お前達二人が特別というわけでなく、

そこに居る、…奏、猛だって少量ではあるが顔にも光子エネルギーの黒い模様がある。

顔にない者とて例外ではなく、必ず身体の何処かには模様がある」


「あぁ、……うん」


「それは、すぐに僕からお話しますから、何でも聞いてください」


「これから…ご飯にする。お前達も来なさい。詳しくはその時にでも聞いたら良い」



「め……し……?」


仙の目が一気にギラついた。そんな話どうだっていいってくらいに。


「やったー!!」


紫苑も大喜びでガッツポーズしたかと思えば、うぇーい!とか頭悪そうな掛け声で仙とハイタッチ。

それを見てる奏と猛もいい表情で笑ってる。


「お前達……、勘違いするでないぞ。ご飯と言っただけじゃ、入団が決定したなどとは言っておらん!」


「まさか……ま、まだやるのか?」


「当たり前じゃ、一つしか終わっとらんわ。まだまだ続くんじゃ」


「え、………ええええええええええええ」





みんなが落胆してる中、白根が静かに奇士の横につく。


「ところで奇士……。余計な真似をしてくれたようじゃな」


「は、はい……?余計な、真似……ですか?」


奇士は、はて?って顔をしてわざとらしく首を傾げる。


「隠そうとしても無駄じゃよ。何でもお見通しだ」


白根は捨て台詞っぽくそう言うと家へと向かって歩きだす。


「ははは……何でもお見通し、かぁ」

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