豪散
この顔じゃなんだか恥ずかしいから、受け付けにあったマスクを着用して病院を出る仙。
同時に門へと目を向ける。
そういえば、この場所に来て思い出すことがあった。
(そういや、前に俺に話かけてきた賑やかな女、演習場のこと言ってたな。)
(あいつの目的も俺と一緒なんだろうか。)
ゆっくりと歩みを進めたと思うと立ち止まり、適当に方角を決めた。
商店街の方向だ。
人影はチラホラいて、新鮮な光景とは裏腹に仙はひとり取り残されたような気分になった。
「─い! おい、止まりなさい!」
しばらく歩いていると、後ろから怒鳴り声が聞こえてビクッと足を止める。
(なんだ…?)
恐る恐る振り返ると、こちらへ猛スピードで向かってくる男性と、
少し離れた後ろ側にオバハンが、そいつを追っかけていた。
男の方は若くて明らかにガラが悪そうだ。
(ちょ…!)
逃げているのか走って来た男性が、仙へと近づいてくる。
手に何か持っているが…、そんなこと気にしてられない
ぶつかる!と思った時。
どかんっ!
「っ…!」
避けるのが少し遅れて肩同士がぶつかってしまった。
「あっぶねぇな、何処見てんだぶっ飛ばすぞ!!」
「…ってちょ、離せよ!!」
仙はぶつかられた途端に男性の服を力強く掴んだ。
「お前さ、何か悪いことしたんじゃないのか?」
「ちっ、ちげえから離せよ何なんだよお前は!」
途端に追い掛けてきたおばさんが息をきらして近づいてきた。
おばさん…?
仙はそいつの顔を見て驚いた。
「えっ、おまっ、お前!」
「えっ?」
仙は女の方に見覚えがあった、忘れもしない。
おばさんじゃなかった。
「お前、病院にいたやつだろっ」
そう、病院で男性を吹っ飛ばしてた女だ。
「あっ、あの白髪の?」
(白髪って……
見りゃ分かるだろ。)
それにしても、
「またお前か…。」
病院をやっと出たと思えば、またこいつにバッタリ会ってしまった。
(それにしても、タイミング良すぎるだろ…。)
「えっ、あんた何でこんなとこにいんの?
しかもマスクなんてつけちゃって何それ、だっさ!」
必要以上に大きな声でしゃべる女、ハッキリ言ってうるさい。
しかも顔の模様を隠すためにつけたマスクを見て鼻で笑いやがった。
本当に女なのか、と思うほど女らしさがない。
「お前こそ、何してんだよ。」
ぶっかってきた男を仙は捕まえたままであったことに気づいた。
「あ、悪い。」
そう言って離すと、男はオドオドして一歩二歩と離れようとする。
仙には何故か、どうせこの女が悪いことをしたのだと決めつけてしまったようだ。
「ちょっと、何離してんだよっ」
「何ってお前が悪いことしたんじゃ─」
賑やかな女がその男に飛びつこうとすると
そいつはヒラリと避けて、全速力で再び走り出した。
「あぁっ!ちょっと待って!」
「お前何したんだよっ」
「あたし何もしてないって! 何であたしがしたこと前提なんさ!」
すぐに追いかけようとしたが、諦めたのかその場にペタンと座り込む。
「はぁ…、アイツ足早過ぎ。」
「だから何した…じゃない、何されたんだよ?」
「アイツあたしの家が空き家だと思ったのか入り込んで来てさ。」
「えっ、何か盗まれたのか?やべぇじゃねぇか追いかけないと。」
「もういいんだ。何か盗む前に追いかけたからさ。」
「うー」とだるそうな声を出しながら、女が立ち上がると。
「くぅうー! つっかれたぁー。あたし足に自信あんのに何で追いつけなかったんだろ。」
仙と女は男が走って行った方向を見つめる。
「まぁ良かったじゃねぇか、何も盗まれなかったなら。」
「で、あんたは何でこんなとこにいるわけ?」
まだ二度しか会っていないし、たいした会話もしていない。
馴れ馴れしい、実に馴れ馴れしいぞ。
「お前さ、前に、演習場って何処?って聞いてきたろ?」
「うん
…えっ、もしかして、あんたも?」
「まぁ、そうなるかな」
「やっ…た!」
女は体を小さくして、何故かガッツポーズをして見せた。
(何が嬉しいんだこいつは…)
すると、二人は自然に同じ道を歩き出した。
「思ったんだが、お前地元ここなんだろ?」
「ん? そうだけど何か?」
「何で場所分からなかったんだよ」
「あ、訳あってこっちに引っ越して来たばかりなんだ」
女は真顔になって
何か訳ありのようだった。
(深く探るのはやめておこう)
「ここ真っ直ぐ行ったら元演習場に着くはず」
大天災前から元々こんなに人がいなかったのかは分からないけど
あまり人影のない、廃れた街を歩きながら
女は行く先を指差して言った。
「そうだ、お前名前は? 俺は井山 仙」
「あたしは、軽灘 紫苑」
(何て名前だ…)
歩く歩く。
20分ほど歩いただろうか。
ようやく、丸い変な建物が見えてきた。
「あ、たぶんあれかなぁ」
紫苑はようやく目的地が見えて嬉しいのかニコニコしている。
少し場違いのようにも感じるが、まぁいい。
「ん…?」
入口の方へ近づくと。
大きな人影が見えて、二人の足取りは遅くなった。
「誰か立ってる、よね?入口に」
異常に思うほど体のデカイ男が入口に独り立っている。
遠目からでもそれは分かるだろう。
「とりあえず、行くぞ」
ようやく顔が確認出来るほどまで近づくと。
イメージ通りものすごい険しい表情でこちらを見ていた。
手には特に何も持っていないようで、偉そうに腰に両手をあてている。
警備員とかいうやつなのか。
「止まれい!」
「!?」
「!?」
その男は急に近づいて来た仙と紫苑に、大きな声で叫んだ。
別に悪いことをしたわけでもないのにまるで怒られているように感じてしまうような怒鳴り方だ。
近づいて見ると身長2メートル以上はあろうかという大男だった。
「中に入りたいんだ、通してくれ」
仙はえらく冷静に、その言葉を放ったが
「駄目だ!!」
「…………!」
「…ぅ……うるせぇ」
近くで叫ばれると、耳がキーンとなってしまうほどの声で。
そんな大きな声で叫ばないでもと思ってしまう。
まぁ、そんなことは置いといて、大きな体のせいで入口が塞がれ無理矢理中には入れなそうだ。
「どうすれば通してくれるんだよ」
「ワシはここの門番
豪散!!!」
豪散とかいう奴はそう言うと、足を地にジャリッとこすり二人に構えた。
まるでこれから戦闘を望んでいるかのように。
「いや、だから…どうすれば通してくれるんだよって!!」
仙はカチンときたのか豪散に負けないくらいの大声で怒鳴りつけた。
だが、豪散は動じない。
馬鹿っぽい奴だけど体がデカイ為、構えていると威圧感は抜群だ。
「力を示せばよいのだ!」
よいのだ!と急に言われても意味が分からないはずである。
だが、
「なんだよ!
ぶっ飛ばせばいいのか!?」
紫苑は違ってた。
腕を捲り上げて明らかに大男を威嚇している。
女のくせに相変わらず大胆な奴だ。
腕を捲り上げた後で紫苑は大男に拳を向けた。
仙は紫苑の背中を見つめている。
「仙くん、だっけ?
あんた男のくせに情けないよ
あたしがお手本見せてあげるから後ろで見てなっ!」
その姿勢に豪散はというと、変わらない姿勢を保っている。
「何もされてないのに暴力ってのも気が引けるけど、通してくれないんじゃ仕方ないさね」
紫苑は低姿勢になり、まるでかめ○め波を撃つ前の様な体勢になった。
後ろから見ると、二人の体格差といいその光景はどう見ても無謀に感じてしまう。
「なぁ、おい」
「いいから黙って見てて!」
心配だったのか仙の言葉に冷たく言い返すと、紫苑は大きく息を吸った。
「……ぅっ」
紫苑の体がぴくりと動いて「う…」という嫌そうな声が聞こえたような気がした。
「あんた、ちゃんとお風呂入ってる?」
「(ぎくり)……」
豪散は痛いところをつかれたのか表情を一瞬曇らせたが、すぐに何もなかったように戻した。
「なぁ、見込みあるのか?」
「大丈夫、こいつあたし達とは同じじゃないみたいだし」
その言葉を聞いた途端に豪散は腰に手をあてて余裕の笑みを浮かべた。
「もっと構えたほうがいいんじゃない?
手加減なしでいくよ!」
途端に紫苑の右手が青白く光を放った。
(…?)
「うぉりゃあーっ!!!」
素早く紫苑の右手が豪散に襲いかかる。
「な! ストォオーーップ!!!」
?!
「…え?」
紫苑の拳が真ん前で止まる。
焦って叫んだのか豪散は何故か息をきらしている。
「合格だ!通れ!」
「……?」
「……?」
紫苑は拍子抜けして肩をがくんと落とした。
「なーんだ、やっぱ弱かったのか」
右手を振りながら何故かがっかりしている紫苑。
豪散は無言で入口から離れると、中へ入るように催促する。
「お前すごいな…」
仙は紫苑の右手が光ったことで不思議な力の存在を目の当たりにして驚いている様子だ。
「何てことないよ、これがあたし達みたいなユーベルメンシュの力」
仙は勿論、自分でこういった不思議な力を出す術は知らないが
自分にもこういう力があるのかと思うと不思議な気持ちになった。
(変な世の中になっちゃったもんだな)
二人で仲良く豪散を横目で見ながら中へ入ろうとすると、
ばちん!
ばっちーん!
「いっ…!」
「いって…!」
背中に痛みが走り何かと思うと豪散が二人の背中を叩いたのである。
何とも理不尽な…。
「いってぇな何すんだよ不潔っ!!」
もちろんキレたのは紫苑。
不潔は余計な気もするが腹立つのも無理はない。
背中に何やら異物感があった二人は背中へ手をやると「62」「63」と書かれた紙が貼付けてあった。
「なにこれ、だっさ」
「背中に貼らないでもいいんじゃね?」
そう言って仙は背中から剥がすと明らかに番号が手書きだ。
安っぽいんだよこれが。
紫苑はというと歯をくいしばりながら豪散を見つめている。
「おいやめろ、行くぞ」
「コノヤロ……覚えとけよ不潔っ!」
仙は紫苑の襟を引っ張り強引に連れて行こうとする。
「ちょっとやめろよ!何さ、あんたは何もしなかったくせに!」
「お前が黙って見てろって言ったんだろ!?」




