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仙人天  作者: 天内君保
第一章「第二波」
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これから

今更の自己紹介だったが、仙は久しぶりの笑みを浮かべたように見えた。



「これから、どうするんだ?帰る所はあるのか?」


「別の病室にいる親の体が良くなったら、一緒に帰るつもり。」


「そうなんだな…。」


「あなたは?」


「俺は…─」



(帰る場所なんて、ないんだ。)



「…帰る場所は、ないよ。」



その言葉を聞くて枯音は申し訳なさそうな顔をして俯いた。



「…ごめんなさい。」


「気にすることなんてねぇよ、誰のせいかも誰がやったのかも分からないんだ。」



俯いていた枯音は顔を上げて近くの棚へ手を伸ばす。



「お腹すいてない?」


「俺は、いいよ。大丈夫。」


「ほんとに…?」



腹に手をあてながら小さく頷くと仙は反対方向を向いて横になった。

声をかけようにもかけられない雰囲気を醸し出して。

時折くしゃくしゃと頭を掻き乱しながら、無言のまましばらくの時間が流れた。



「…死にたくないよな、普通。」



沈黙を破ったかと思えば、予想だにしなかった言葉に疑問の目を向ける。



「なに?どうしたの?」


「いや…、なんでもない。」


それから数時間後

額に腕を置いてしばらくの間、天井を見ていた。

病室の外の音になど耳をかさずに。



気づくと時間は朝になっていた。

冷たい風が鼻の頭を通り過ぎた。



「─なぁ。」


「…なに?」



仙の言葉の後、少し間があいたが寝てはいなかったようだ。



「俺、さ…。

そのなんとか団っての興味あるんだ。」


「……さっき言った、龍騎士団のこと?」


「あぁ。」



枯音はまさかという顔をした。

真面目に言っているのだろうが、あまりにも急すぎる言葉に戸惑う。



「……入団したいってこと?」


「そ、そんな簡単にいくわけないじゃない。

それに、本気なの?」


「やっぱり、おかしいかな。」


「入団するってことは戦場に行くということ…。

それに生きていける見込みなんてないのよ?」


「そんなこと、分かってる。

でも…、このままこうしてたって運命は同じだ。

お前みたいに帰る場所があるわけじゃない。」



どうせ死ぬなら、何かして死にたいと思った。


「こんな見知らぬ俺を心配してくれて、ありがとう。」



二人が黙り込んだ後、仙はひどく棒読みにその言葉を放った。



「…えんしゅうじょう」


「え?」


「騎士団の元演習場で募集が行われてるみたい」


「ここから、近いのか?」


「ちょっと分からないけど…」



そう言うと枯音は窓のほうを向いて目立つ建物を指差した。



「方角的には、ここからまっすぐ南の海沿いにある大きな建物、変わった建物だからすぐ分かると思うけど」



「そうか、ありがとう。…それにしても本当によく知ってるんだな」


「ここ、地元だし。家もすぐ近くなんだよね。」



言葉の後で枯音は

立てている膝の間に顔を埋めた。



「家族を、大切にしてあげてくれ」


「どうせ、かないっこないんだよ…、かないっこない。」


「??」



仙の放った言葉とは何等関係のなさそうな返答に戸惑う。



「そんな簡単に、なれるわけないよ。」



枯音は目を合わせようとはせず、ずっと窓の方を見つめていた。



「…どうなるかなんて分からねえけど、とりあえず行ってみるよ。」



そう言うと仙は久々に足を床へと着けた。



「仙くん。」


「なんだ?」


「わたし、あなたには。……生きててほしいって、すごく思う。」


「あぁ、死にに行くつもりはないよ。」


「色々ありがとう、両親を大切にな。」


「うん…、また─」



枯音は手を上げて何か続きの言葉を告げようとしたが、その時にはもう仙はその場を去っていた。


病院の廊下。

ひんやりとした空気が身を包んでいて、その空気がやけに重たく感じてしまう。

こちらへ近づいてくるコツコツという音と共に顔を前へ向けた。



「─? …ペーペルト」



間違いないペーペルトだ。

彼は仙へと近づいて顔をじっと眺めた。

両目のほうは相変わらず。



「仙くんか。」


「どうしたんだ。」


「いや、これから私は国に戻るよ。

君は、どうするんだ?」


「俺は、石に噛みついてでも生きていくと決めた。」



そう言った途端にペーペルトの表情がピンと強張る。



「…静かに暮らしたいんじゃなかったのか?」


「その、静かにできる場所がないんじゃどうしようもねえよ」



仙は吐息と共に半ば今の現実に呆れたような顔でそう言った。



「本気なのか…?」


「おかしいか」


「今度会うときは、敵同士だろう」


「…………」



仙の表情は心なしか少し曇り、白髪の髪を触った。



「はっ、その時のことはその時考える」



そう言うと、仙は片手を上げてその場を離れた。

ペーペルトと妻らしき人物は、その場で振り返り仙の後ろ姿を見つめていた。



「ねえ、気のせいだったかしら。あの子から、軽い波が解放されたように感じたわ。」



妻らしき人物がペーペルトへ向けて尋ねた。



「気のせいではないだろうな、奴とてユーベルメンシュ。

無意識内でその能力を解放する術を身につけ始めているようだ。」


「…複雑、ね。あなたなら止めると思ったけれど」



ペーペルトは下を向いて首を左右に振った。



「……もう、行こうか。」



ペーペルトらはそう言うと再び歩みを進めた。

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