⑦反応
「とにかくさ、昨日、すごく悲しいことがあったんだよ。それだけ。さあ!班での話し合いをしよう」
(この子たちは10万負けって何かわかるのかな。いや、小3にわかるわけがないか。他の先生に言われたらどうしよう。というか、保護者に言われるのもマズイ。パチンカスバレ、相当やばいぞ)
子どもたちは素直に従い、海老名の計画通りに授業が進んだ。「10万負けって何?」と聞かれるのが怖くて仕方がなかった。
子どもが近づいてくるのを恐れた5分休み。ゲリラJ-POPタイムを開催して雑談をさせなかった給食の時間。これらが過ぎると、子どもたちは3時間目のことはすっかりと忘れているように見えた。
帰りの会。日朝の児童が司会原稿を読み上げる。
「海老名先生、ありがとうございました。帰りの挨拶。明日も元気に会いましょう。さようなら」
「さようなら」
子どもたちは立ち上がり、早足で教室のドアを出て行く。
「センセー、さよーなら!」
「うん、さようなら」
とうとう10万負けについての質問がなく1日が終わった。しかし、これから家で保護者に話される危険はある。パチンカス教師。海老名にとってその呼び名は想像するだけで恐ろしい。
一昔前ならば、休日に自分の金でどう遊ぼうが、教師たちの勝手であると考えてくれる保護者も多かったかもしれない。いや、今の保護者だってそう考える人もいるはずだ。
しかし、真面目で仕事熱心、子どものことを最優先で考えているというキャラが立っている海老名にとって、パチンカスキャラは保護者との関係に大きな傷を与え得る。
胃が痛い。浪人生の時に、スマホに受験番号を打ち込んで大学の合否を確認した時のような、もしくはスロットで8万負けている時に、起死回生を狙ってパチンコを打ちに行く時のような、天国と地獄の境界線上に立っているような感覚がした。




