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先生な、昨日10万負けてんねん  作者: レア役ウマ太郎


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6/10

⑥先生な、昨日10万負けてんねん

 5時。海老名はアラームの音で目が覚めた。布団に入ったのがつい先程のことに感じられる。今アラームが鳴ったのは何かの間違いのはずだと考えた。


 スマホの画面は5時を示している。


 (あと5分)


 海老名は二度寝した。アラームは5:00から6:00まで、5分おきにかけられている。


 (ん、、!?)

 

 突然、恐ろしい予感がして飛び起きた。とんでもない時間なのではないだろうか。


 5:15。スマホを見て安堵した。


 飛び起きたおかげで、眠気は薄まった。起き上がり、洗濯機を回す。昨日食い散らかしたままの弁当パックをゴミ袋に投げ込み、テーブルに残っていた海苔巻きを口に入れる。シャワーを浴びてトイレに入った。


 スマホの通知を確認すると、決済アプリの還元キャンペーンで、1200ポイントが付与されていた。


 (1200ポイントって。昨日の負けの補填には、あと100倍必要じゃねーか)


 6:40。ゴミ袋を持って、重たい足取りで家を出る。また仕事が始まる。今週は土曜日にドッヂボールクラブの練習、日曜日に研修会があるので休みがない。次の休みは来週の土曜日だ。


 7:20。職員室に着いた。まだ教員は数名しか出勤していない。今日はなんとしても、国語の単元計画を書き上げる必要がある。パソコンを立ち上げ、Wordファイルを開く。


 7:40。教員がゾロゾロと出勤してきた。


「旦那がねー、全然家事をやらなくてさー、」


 お局教員の図々しい話し声が職員室に響き渡る。


 (うるせーな)


「ねえねえ、海老名くん」


「はい?」


「この、教科書の音声をパソコンで流すの、どうやるんだっけ?」


 山下がパソコンを持ってやってきた。定年退職後に現場に戻ってきた再任用教員だ。


「このQRコードをスマホで読み込んでください」


「え?どうやるの?」


「あ、スマホにQRコードを読み取るアプリ、入ってます?」


「えー。どれだろう。見てくれる?」


 山下は無防備にスマホを手渡す。


 (これは、20分コースだな。あと、前も同じようなことを教えたような、、)


 定年退職後も全力で子どもたちに向き合う山下を、基本的には尊敬している。ただ、山下を疎ましく思う気持ちを抑えられない時もあった。


 スマホでQRコードを読み取り、そのリンクをパソコンへ送ることができた。あとはパソコンで開いて、再生するだけ。


「先生方、おはようございまーす!素敵な週末を過ごせましたか?ぜひ、子どもたちに先生方の素敵な話を聞かせてあげてくださいね!」


 教務主任の酒井が朝礼を始める。


 (あとちょっとで教え終わったのに)


「運動会が近いので、体育の授業では運動会に向けた練習をしてください。また、保護者懇談会の準備も進んでいますか?」


 業務連絡を、スマホにメモしながら聞く。


「最後に、先生方も笑顔を忘れないでくださいね!先生方の仕草を〜」


 酒井の長話が始まったタイミングでスマホを閉じ、朝の会で話す内容を考え始めた。今日の長話にはだいぶ気合が入っていて、話が終わった途端に、教員たちは早足で教室に向かった。


「山下先生、続きはまた後で説明しますね!」


 慌ただしく教室に向かう。海老名がミスをする時は、大体が慌ただしい時だ。


 (あんたの長話のせいで余計うまくいかないっつーの)


 山下への鬱憤で頭が満たされながらも、ドアの前で笑顔を作り、教室に入った。皮肉なことに、山下のアドバイスに従ったことになる。


 朝の会と1、2時間目、休憩時間は慌ただしくも平和に終わった。


 3時間目。社会の時間。海老名は事前に考えていた導入で授業を始める。


「この前さー、学校の近所の畑の隣を通ったのね。そうしたら、何か大きな野菜が植えられていたんだけど、何かわからなくて。先生、すごく気になってさ。みんなも一緒に考えてみない?」


「、、、、」


 反応がない。大スベリだ。海老名の導入もつまらなかったのだが、週明けはいつも子どもたちの反応が悪い。


 それでも海老名は笑顔を絶やさず授業を続けた。


「じゃあ、今から班になって、この街で育てられている野菜を予想してみよう!」


 机を動かし始めた児童が、思い出したように口を開いた。

 

「センセー、席替えはいつやるのー?」


 海老名は黙り込んだ。確かに、この学校では定期的に席替えをしていて、3年2組もその時期だ。席替え後の座席表作成が面倒で、後回しにしていたのだ。


「1組のレナ先生はもう席替えをしたらしいよー」


「まあまあ。近いうちにやるからさ」


「近いうちっていつー?今日じゃないのー?」

「1組はいいなー」

「いいなー」

「いいなー」


 海老名の頭の中で、スロットの規定ポイントが貯まり切ったような感覚がした。

 

 バンッ


 気がつくと、教卓を思い切り叩いていた。


 子どもたちは黙る。


 教員になってから、意図的に厳しく子どもを叱ることはあっても、感情のままにキレたことは一度もなかった。


 (えーと。やばい。何やってんだろ、俺。なんとかしないと。冗談だよー。みたいな。そんな感じで乗り切れないかな。えーと、、)


「先生な、昨日10万負けてんねん」


 いつの間にか口から出ていた。子どもたちは一言も発していない。

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