⑤10万負け
日曜日。ここ最近で一番目覚めの良い朝だった。普段は朝4時に目が覚め、時計を確認し、「まだ少しだけ寝られる」とささやかな幸せを感じて二度寝する。そしてすぐにアラームの音で絶望するのだ。
この日、海老名は7:30に目が覚めた。完璧な時間。歯を磨きながら、SNSパチンコ屋のイベント情報を見る。7のつく日と日曜日が重なった。この1週間、この日を楽しみに頑張ってきた。
シャワーを浴び、髪を乾かし、黒い野球帽を被って家を出た。電車に10分ほど乗って、9:20に目的地に到着。パチンコ屋の隣には、すでに抽選を受けるための列ができている。
最後尾に並び、海老名はひとまず安堵した。駅前のパチンコ屋なので人目が気になる。小さな子どもを連れた夫婦、大学生らしい若者、ジャージを着た高校生が横を通る。入店までの40分間、児童や保護者に遭遇しないかだけが心配であった。
9:40になり、抽選が開始された。後ろを見ると500人くらいが並んでいるように見える。海老名の前にも200人くらいがいる。今まで並んできた中でも人がかなり多い方だ。
最前列の人から順に、タブレット画面のボタンを押す。ボタンを押すと、入店できる順番が記された整理券が出てくるのだ。この店には350台のスロット台が設置されている。さらに、海老名の狙い台は150台程度なので、抽選の番号によってはかなり厳しい展開となる。
海老名の三つ前の人がボタンを押している。心臓に手を当てると、力強い鼓動を感じる。緊張する場面で行う、海老名のルーティンだ。
順番が回ってきて、息を止めながらボタンを押す。整理券が出てきた。番号を見ないように、片手で覆いながら列から離れた。結果を見るのが楽しみであり、怖くもある。勢いよく手首を回した。
7番。700人いるであろう抽選で7番を引いたのだ。無意識に口角が上がる。興奮の中で整理券の写真を撮る。
撮った後で、その写真を送る相手がいないことに気づいた。大学生の時はパチンコ、パチスロを打つ仲間がたくさんいた。大学卒業後も数年は定期的に一緒に打ちに行っていたが、いつの間にか疎遠になっていた。仕事で役職についた者や、結婚した者がいる。
(なんか虚しくなってきたな。こういう時こそ爆出ししよう。7のつく日に7番だから、7000枚!)
10:00になり、番号順に入店する。海老名の狙いの新台に座ることができた。完璧なスタート。
財布の中には12万円が入っている。1万円を突っ込み、慣れた手つきで打ち始める。初めて打つ台なので、スマホで情報サイトを見ながら打つ。演出が発生するたびに情報サイトで確認する。この過程が楽しいのだ。
6000円が溶けた頃、その日初のチャンスが訪れた。60%の確率で当たるというようなチャンスだ。海老名は大きく深呼吸し、目を閉じてレバーを叩いた。
パシッ
画面にヒビが入る演出がハズレを告げた。
それから気づけば4万円が溶けていた。12:00前。まだまだこれからだ。朝から何も口にしていないが、腹は減らなかった。それよりも、早くこの状況を脱したかった。
18:00。すでに9万円を突っ込んでいた。小さな当たりは何度も引いたが、伸ばすことができず、グラフは綺麗な右肩下がりを描いていた。
(打ちに来なければ良かった。家で動画でも見ておけば良かった。でも、そんな人生は何が楽しいんだろう。いや待て、スロットに救いを求めるのはもっとやばい)
19:00。当たりを引いた後、今までの展開が嘘だったかのように、トントン拍子で上乗せる。
(おおおおお。やっときた。ここで取り戻したら、今日スロットに来て良かったと思いながら眠れる。贅沢は言わないから、少しでもプラスで終わりたい)
この日の中で一番熱い展開が訪れた。うまくやることができれば3000枚の上乗せをし、本日の負けを一気に取り戻せる可能性もある。海老名はこの1週間の仕事を思い出していた。
(神様とかは全く信じないけど、1週間頑張ったんだからここはうまくやらせてくれ。頼む)
レバーを叩く。
失敗。
3000枚の可能性があった上乗せは、一番少ない300枚で終わった。その後、流れるように当たりも終わった。
20:00。すでに9万円以上負けていた。今から当てて取り戻せる自信はなかった。ただ、やめて現実を見るのが嫌で、すがるように打った。
22:30。11万円が溶けていた。メダル400枚を換金し、帰路についた。明日は職員会議の後、単元計画を仕上げなければならない。
帰り道、スーパーに立ち寄った。閉店間際のスーパーで、700円のから揚げ弁当が半額になっていた。350円の得。普段ならガッツポーズをしていた。ただ、10万負けの直後では何も喜べない。
海老名は普段は買わないであろう惣菜とジュース、プリンを買って帰宅した。1235円だった。




