④鳥肌
4校合同のドッヂボール部練習試合が終わった。会場は海老名の勤務校である第一小学校であった。
子どもたちは保護者の車に乗り込んで帰路に着く。練習試合の応援に来られる一部の保護者が、他の子どもも乗せてあげることになっている。
駐車場で保護者にあいさつをして子どもたちを送り出すと、海老名は顧問たちに声をかける。
「では先生方!ここからが本番ですね。我々の試合会場に行きましょう!今日の会場は焼き鳥屋です」
事前に予約しておいた、第一小学校の最寄り駅前にある焼き鳥屋に他校の教員を案内する。各校、2名ずつの教員が児童の引率で来ていて、海老名を含めて8人だった。
「8名で予約している海老名です」
焼き鳥屋の店員に伝える。
4人がけのテーブルが二つ並んだ席に案内された。海老名は注文をするのに便利な、真ん中の手前の席に座る。
「皆さん、飲み物はどうされますか?」
「生で」
「生!」
「生で。ありがとうな」
全員が生ビールだった。海老名は生ビールはおろか、酒全般が嫌いであるが、「生ビール七つに、コーラ一つ」のような注文は場を白けさせる気がした。
「生八つお願いします!」
海老名は注文しながら憂鬱になった。
生ビールが人数分届くと、全員、最年長である花村の方を見る。第二小学校教頭で、ドッヂボール部の副顧問である。
「花村先生、乾杯をお願いしても良いですか?」
海老名は精一杯の作り笑顔で声をかけた。
「えええ、俺?幹事の海老名くんがやった方が良いんじゃないの?」
「いえいえ。やっぱり乾杯と言ったら花村先生ですよ。ね?先生方!」
(うるせーから早くやってくれよ)
「うーん。わかったよ」
「それでは、皆さん、今日の練習試合は大成功でしたね!子どもたちが声を掛け合って一生懸命プレイする姿に、私も感動しました。子どもの成長を一番近くで支えることができるのが教員という仕事の一番の魅力ですね。では、我々も、、、」
話の内容が海老名の頭に一切入ってこなくなった後も花村の話は続いた。海老名は爪楊枝の尖っていない方で、自分の太ももを思い切り刺している。
「では、乾杯!」
海老名の両隣にいた若手二人は、立ち上がり、順番に全員のグラスの下に自身のグラスをぶつける。
「花村先生ー。いつもお世話になっています。また練習試合、お願いしますー!」
教員2年目の、第三小学校の瀧井が花村にわかりやすく媚びる。海老名は鳥肌がたった手でグラスを持ち、フリーズしていた。
「海老名先生、乾杯っす!」
瀧井にグラスをぶつけられた。
(帰りたい)
海老名にとってビールは全く美味しくなかったが、少しでも現実を忘れるために、一生懸命に飲んだ。




