83話 目まぐるしい日々
あれから二か月。
目まぐるしい毎日だった。
◇
「アラボン様、今日もよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまっす!」
毎朝、店を開ける前に神棚へ手を合わせる。
いつの間にか、その隣にはノエルが立つようになっていた。
最初の頃は少しぎこちなかった接客も、今では安心して任せられる。言葉遣いも少しずつ落ち着き、お店ではちゃんと「店長」と呼んでくれるようになった。
「店長! お客さん来ました!」
「はーい!」
覚えも早く、試用期間が終わる頃には、一人で店番を任せられるまでになっていた。
そのおかげで、私は以前よりずっと石鹸作りに集中できるようになった。金庫屋へ行ったり、商会へ顔を出したり、お店を空けなければならない時も、ノエルがいてくれるだけで安心感が全然違う。
そして、この二か月で大きく変わったことがもう一つ。
液体石鹸の販売が始まった。
これが、予想以上の反響だった。
親方さんの工房では陶器の容器を毎日のように作ってもらっているのに、それでも生産が追いつかない。
シャボンノアだけではなく、リーベル商会でも販売が始まり、少しずつ街の中へ広がっていった。
街を歩いている時に、
「最近、あの液体石鹸使ってる?」
なんて会話が聞こえてきた時は、思わず振り返りそうになった。
嬉しかった。
ものすごく嬉しかった。
ただ、その分だけ別の問題も出てきた。
私一人では、石鹸の生産が追いつかなくなってきたのだ。
そこでギルドへ相談し、製造を手伝ってくれる人を紹介してもらった。
もちろん、誰にでも全部を任せるわけじゃない。
秘密保持の契約を交わした上で、お願いするのは混ぜる作業や乾燥など、一部の工程だけ。材料の配合や仕入れ先、それから一番大切な部分は、今まで通り私が管理している。
ノエルが来て、液体石鹸が売れ始めて、製造を手伝ってくれる人まで増えた。
振り返ってみれば、たった二か月なのに随分いろんなことが変わった気がする。
そして気づけば、シャボンノアは少しずつ大きくなっていた。
◇
そんなある日。
「店長、リーベル商会の方がお見えになりました」
作業をしていた手を止める。
「リーベル商会さんが?」
何か約束してたっけ。
頭の中で予定を思い返してみるけど、特に心当たりはない。
一体、何の用だろう。
私はエプロンを外しながら、店先へ向かった。




