81話 なんでこうなったんだっけ
なんでこうなったんだっけ。
店の前で立ち止まる。
可愛らしい外観で、近づいただけでなんだかいい香りがする店。
「うわぁ……来ちゃったよ」
師匠に言われるがまま来たけど、本当にここで働くことになるんだろうか。
フーッ。
大きく息を吐いて、もう一度店を見る。
「よし」
意を決して扉を開けた。
カランカラン
「ちーっす……」
思わず、いつもの挨拶が口から出た。
しまった。
そう思った時には、奥から綺麗なお姉さんが歩いてくる。
「おはようございます。面接の方ですか?」
「あ、はい!」
「こちらへどうぞ」
やば。
めっちゃ綺麗な人だ。
慌てて頭を下げる。
「し……ししょ、シ、シリルさんの紹介で来ました、ノエルと言います」
危なかった。
今のでバレてない……よね。
◇
席へ案内されると、向かいに座った女性が優しく微笑んだ。
「改めまして、私はノアです。今日はよろしくお願いしますね」
「あ、よろしくお願いしまっす」
「それでは、まずノエルさんのことを教えていただいてもいいですか?」
「はいっ!」
「年齢をお聞きしてもいいですか?」
「十七歳です。あ、もうすぐ十八歳になります」
「ありがとうございます」
ノアさんは紙へさらさらと書き込んでいく。
「これまで、どんなお仕事をされていましたか?」
きた。
師匠に言われたやつ。
『お姉さんの手伝いをしていたと言えばいい』
いや。
やってないんだけど。
「あの……姉がメイドをしていたので、たまに手伝ってました。洗濯物を洗ったり、お掃除したり……そんな感じです」
「そうなんですね。期間はどれくらいでしたか?」
「一か月くらいです。ちゃんとできてたかは分かんないんすけど……」
「ありがとうございます」
よし。
なんとか誤魔化せた。
「それから、このお店はご存じでしたか?」
「あ、えっと……足用石鹸使ってます」
あ。
しまった。
あれ、冒険者仲間にもらって使ってただけなんだよな。
この店に来るの、今日が初めてなのに。
「足用石鹸ですか?」
やば。
そこ突っ込まれる?
「はい……」
「使っていただいてありがとうございます」
……
終わった。
それだけだった。
助かったぁ。
「それでは、お仕事内容をご説明しますね」
ノアさんは、店の一日の流れを順番に説明してくれた。
開店準備に接客、商品の包装や掃除、在庫整理。それから閉店作業。
思っていたより難しそうではない。
「こんな内容になりますが、できそうですか?」
「はい!」
即答だった。
「ありがとうございます。それと、水の日は定休日になります。たまに臨時休業もありますが、それ以外の日で、どれくらい来られそうですか?」
全部。
師匠に全部入っとけって言われてるんだよな。
「毎日入れます!」
……
言い切っちゃった。
「ありがとうございます。とても助かります」
変には思われてないみたい。
「続いて、お給料のお話になりますね。最初の一か月は試用期間になりますので、この金額になります。試用期間が終わりましたら、こちらのお給金になります」
差し出された紙に目を通す。
なるほど。
最初は試用期間なんだ。
……
あ。
そういえば。
師匠、護衛代は別で出すって言ってたな。
師匠……この女の人とどういう関係なんすか……
「こちらの条件になりますが、大丈夫でしょうか?」
「あ、はい! ぜひお願いします!」
ノアさんは嬉しそうに微笑んだ。
「それでは、明日からお願いできますか?」
「はい!」
「よろしくお願いしますね」
「あざっす!」
返事をすると、ノアさんが立ち上がった。
「あ、それと、まだ私と同じ制服ができていませんので、それまでは仮のお洋服を用意していただきたいんですが、なければこちらで用意しようと思ってます。白いシャツと黒いスカート、白いエプロンになります。首元には黒いリボンを付けていただきますね」
「あ、はい」
「白いシャツや黒いスカートはお持ちですか?」
「持ってないです」
即答だった。
「そうなんですね。では、その分もこちらで用意しますね」
助かった。
冒険者の服しか持ってないもんな。
短パンに動きやすい服ばっかりだし。
「明日までに準備しておきますので、そのまま来てください」
「分かりました!」
深く頭を下げる。
冒険者をしていたら、なぜか別の就職先が決まった。




