79話 家族
俺は小さく息を吐いて、苦笑した。
「まぁ、あれだ。とにかく、なんで冒険者がないのか、その理由を聞いてからでも落ち込むのは遅くないだろ。まだ何も始まってないし、終わってもいない。お前の頭の中だけで勝手に結論を出すな」
シリルはしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。
「……はい」
「よし」
さっきまでの壊れっぷりを思えば、これだけでも十分だろう。
ぽん
シリルの肩に手を置く。
「なんかあったら、また相談しろ。じゃあ俺は行くからな」
もう一度、小さく頷くのを確認して部屋を出た。扉を閉めたところで、ようやく大きく伸びをする。
……
あー
疲れた
甘酸っぱさのえぐみがすごいな
恋って、あんな感じだったか?
それにしても初恋、遅すぎだろ。
俺なんか八歳の頃には、教会のシスター・メロディちゃんに恋してたぞ。
……
まぁ
見事に子ども扱いされたけどな
思い出すと今でもちょっと悲しい。
いや、八歳だから当たり前なんだけど。
階段へ向かいながら、さっきまでのシリルの様子を思い返す。
俺の見立てじゃ、ノアさんはシリルを嫌っているようには見えなかったんだがな。
むしろ、あいつの話を聞く限りじゃ普通に仲は良さそうだ。
それでも冒険者はない、と。
そこが引っ掛かったのか。
……
女の人は現実的ってことか?
アイミーならなんて言うんだろうな。
まあ、帰ってきたら聞いてみるか。
そんなことを考えていると、腹が鳴った。
そういえば夕飯まだだったな。
シリルの初恋で、飯まで忘れてた。
俺はそのまま食堂へ向かい、扉を開ける。
その瞬間、家族全員の顔が一斉にこっちを向いた。
「ライネル!」
「お兄様!」
「どうだったの?」
「シリルは大丈夫なの?」
「何があった?」
一気に飛んできた。
ちょっと待て。
誰から答えればいいんだ。
俺は一度、大きく息を吸う。
「……あいつなら大丈夫だ。今はそっとしておいてやってくれ」
親父は黙って頷き、母上もほっとしたように息を吐いた。リシェルも安心したのか、ようやく表情を緩める。
俺もそこでやっと肩の力が抜けた。
……
飯食おう
今日は商談より疲れた。
アラボン「兄貴ぃい!」




