76話 長男として
「シリル……落ち着け。俺は長男だ。しかも結婚もしてる。お前より少しくらいは人生経験もある……はずだ。ゆっくりでいいから、何があったかこの兄に話してみろ」
言いながら、半分くらい自分に言い聞かせている気がする
でも今ここで頼れるのは俺しかいない
頑張れ俺
シリルは俯いたまま、ぼそぼそと話し始めた
……
聞こえん
「悪い、もうちょっとだけ大きい声で頼む。ほんとに聞こえん」
何度か聞き返しながら、途切れ途切れの話を頭の中でなんとか繋げていく
どうやらこういうことらしい
街を歩いていた時、ふと自分の名前が聞こえた
耳のいいシリルがそちらを見ると、少し離れたところにノアさんがいたそうだ
その時点で、なんとなく嫌な予感がしたらしい
だったら聞かなきゃいいだろ
……とは思うけど、自分の名前が聞こえたら気にはなるか
そのあと、ノアさんと一緒にいた女性が、
『シリルさんのこと、好きになったんじゃない?』
みたいなことを聞いた
さすがにこれは聞いてはいけない話だと思って、その場を離れようとしたらしい
だが、その直後
ノアさんがすぐに答えた
『ない! 冒険者はない!』
その瞬間、頭が真っ白になった
気付けば家へ帰っていて、その間のことはほとんど覚えていない
……ということらしい
「へぇ……ほぉ……なるほど……」
とりあえず頷いてみる
いや、なるほどじゃない
どうしよう
目の前の弟は、俯いたまま完全に魂が抜けている
これ……完全にあれか?
あれだよな
初恋、拗らせてるやつのあれじゃないか……
いや、薄々は気付いていた
この前だってそうだ
執務室へ飛び込んで来るなり、
「ノアさんが大変です! 護衛につくから、この書類にサインして」
だった
いきなり何を言い出すんだと思ったけど、事情を聞けばシリル以上の適任はいなかった
だから契約者名義だけはリーベル商会にして、護衛に就かせた
ノアさんは知らないだろう
こいつが報酬を受け取らず、自分の意思だけで護衛していたことを
それにしても、どうやって日程調整したんだこいつ
結構忙しいはずなんだが
……まさか無理やり全部詰めたんじゃないだろうな
いや
やりかねん
状況を知った次の日には、もう護衛についてたからな
あの時点で気付け、俺
あれで気付かない俺もどうなんだ
もう一度シリルを見る
さっきから一言もしゃべらない
どよぉぉん
弟がどんよりしている
部屋までどんよりしている
というか、さっきより悪化してないか?
まずいな
思っていたより、ずっと重症だ
どうする
俺、これどうしたらいいんだ
恋愛相談なんて夫婦円満の俺に聞くなよ
……いや、円満だからこそ俺なのか?
分からん
ああ……アイミーに会いたい
こんな時に限って、母親の看病で実家に帰ってるんだよな
普段ならこういう時、アイミーに聞けば何かしら答えが返ってくるのに
なんで今いないんだ
俺一人でこれをどうにかしろと?
頼むから誰か正解を教えてくれ
アラボン「兄貴がんばれ」




