72話 親友にだけ
リディアさんのお店をあとにして、私は親方の工房へ向かった。
「親方、こんにちは」
「おう、ノアか」
私はギルドで聞いたことを一通り伝えた。
偽物石鹸のこと。犯人が見つかったこと。そして事件が無事に解決したこと。
親方は腕を組み、静かに頷く。
「そうか。終わったか」
「はい。本当にありがとうございました」
「わしは何もしてねぇよ」
ぶっきらぼうだけど、どこか安心したような顔だった。
「あ、それとな」
親方が工房の奥を指差す。
「頼まれてた液体石鹸入れとアラボン石鹸入れだが、そこそこの数が完成しそうだ。もう少し待ってくれ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
思わず笑顔になって、親方に頭を下げる。
工房をあとにしたところで、ふと気づいた。
そういえば、緊張していて忘れてたけど、もうお昼をとっくに過ぎてる。
お腹すいたぁ。
今さら気づいたことに少し笑ってしまった。
なんだかリラに会いたくなって、せっかくだしパンを買いに行くことにした。
◇
パン屋へ入ると、焼きたてのいい香りが迎えてくれた。
「あっ! ノア!」
元気な声に顔を上げると、リラが大きく手を振っていた。
「こんにちは、リラ」
「ねぇねぇ! この前の話聞かせてほしいな!」
やっぱり気になってたんだ。
「今日はお店休みにしたから時間あるよ」
「ほんと?」
リラはぱっと振り返る。
「お父さん! 私、少しだけ店抜けてもいい?」
「ああ! 分かった、行ってきな」
「ありがとう!」
嬉しそうに笑うリラを見て、私もつられて笑った。
◇
結局、近くのオープンカフェへ行くことになった。
昼時も過ぎていたので、お客さんはまばらだった。
運ばれてきたパンケーキはふわふわで、甘い香りにお腹が鳴りそうになる。
「おいしそう」
「ほんとだね」
ナイフを入れると、ふわっと湯気が立った。
ひと口食べる。
おいしい。
空腹だったせいもあって、ものすごくおいしい。
少しお腹が落ち着いたところで、私は紅茶を口に運んだ。
「今だから言えるんだけどね」
リラも少し真面目な顔になった。
私は、最初にお店へクレームが来たところから話し始めた。
それが偽物石鹸だったこと。自分で販売している人を見つけてしまったこと。そのあと護衛が付くことになったこと。冒険者ギルドが動いてくれたこと。そして、犯人が見つかったこと。
全部話し終える頃には、リラは青ざめていた。
「……信じられない」
「びっくりさせてごめんね。でも巻き込みたくなくて、今まで言えなかったの」
リラは泣きそうな顔で私を見る。
「ノア……無事で良かった」
「ありがとう、リラ」
そう言ってから、少しだけ黙る。
……なんか、しんみりしちゃったな。
私はパンケーキをもうひと口食べた。
「とりあえず、これ食べよ。冷めるともったいない」
「ふふっ、そうだね」




