70話 新しい出会い?
「またせたな!」
トムさんが料理を運んできてくれた。テーブルに置かれた煮込み料理から、湯気と一緒にお肉のいい香りが広がる。
「やりましたよ! シリルさん! 肉ですよ、肉!」
「ふふっ。本当ですね」
この前、好きなパンを聞かれて「肉が入ってると嬉しいです」と言っていたのを思い出して、つい言ってしまった。
「シリルさん。改めまして、この度はほんとーに、ほんとーにお世話になりました! これだけじゃお礼にもならないかもですが、食べてください! ……と言っても、私も同じもの食べますが。あはは」
「はい。では、いただきますね」
「いただきます」
手を合わせる。
ちゃんと向かい合って食べるのは、これが初めて。
……
所作、きれい。
宿で見る冒険者さんたちの食べ方と全然違う。
パンをちぎる仕草も、スプーンを持つ手も、なんだか見惚れてしまう。
「ノアさん」
「はい?」
「明日もお仕事ですか?」
「明日は臨時休業にしようと思ってます。被害に遭われた方に、直接お話をしに行く予定なんです。あと親方にも……あっ、ライネルさんにもお礼を言いに行かないと」
シリルさんは少し考える。
「兄はしばらく用事が立て込んでるので、明日は難しいかもしれません」
「そっかぁ……。でも、ライネルさんには直接お礼を言いたいので、また都合のいい時に伺います」
「分かりました。ひとまず僕の方から、ノアさんからお礼があったと伝えておきます」
「お願いします」
ライネルさんにも、本当に助けてもらった。
ちゃんと自分の口からお礼は言いたい。
煮込みをひと口食べる。
……おいしい。
やっぱりトムさんの料理、大好き。
「ところで、ノアさん」
「ん?」
「明後日はお店、開けるんですよね。迎えに行きましょうか」
「えっ?」
思わず声が出る。
……なじぇ?
「事件も解決しましたので、大丈夫だと思います!」
「そうですか? 少し心配ですね」
思わず笑ってしまう。
「シリルさん。なんだか私の護衛というより、過保護になっちゃいましたね」
シリルさんがきょとんとした。
そのまま固まる。
それから口元を手で覆い、少しだけ頬が赤くなった。
「……す、すいません。護衛の域を出てましたね」
「えっ。あっ……すいません」
なんで私まで謝ってるんだろう。
二人ともなんだか気まずくなってしまって、黙って食事を続ける。
……
なんだこの空気。
嫌じゃないけど。
ちょっと恥ずかしい。
「……いや、でも」
シリルさんが咳払いをひとつする。
「お店を手伝っていて思ったんですけど、ノアさん、従業員は雇わないんですか? アラボン以外で」
「あっ」
危なかった。
今まさに『アラボンがいます』って答えるところだった。
「そうなんですよ。今まで何とか一人でやってたんですが……今回シリルさんが手伝ってくださって、楽を覚えてしまいました。どうしてくれるんですか?」
少しだけ膨れて見せる。
シリルさんは一瞬目を丸くして――
「……ふっ」
小さく吹き出した。
笑った。
シリルさんが。
なんだかそれだけで嬉しくなる。
シリルさんは少し考えるように口を開いた。
「もし従業員を探すなら、一人心当たりがあります。うちへ通いで来てくれているメイドの妹なんですが、よく働きますし、物覚えもいいですよ。たしか18歳くらいだったと思います」
思わず姿勢を正す。
「以前、短期で働いてもらったこともあるので、人柄も分かっています。実はまた仕事を探していると連絡が来たんですが、うちはもう長く働いてくれる人が決まってしまっていて、お断りすることになったんです」
そんな偶然があったんだ。
「ただ……少し言葉遣いが悪いというか、活発というか。そのあたりだけ、ちょっと心配ですけど」
シリルさんは少し困ったように笑った。
「一度、会ってみませんか?」
「ぜひ、会ってみたいです」
「分かりました。本人にも聞いてみますね」
どんな子なんだろう。
言葉遣いが悪くて、活発。
ガキ大将系女子が思い浮かんでしまった。




