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名前を忘れた私ですが、たぶん異世界で石鹸屋をはじめます。〜いい人しかいないんですが、罠ですか?〜  作者: まの月


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69話 落ち着く場所

 商業ギルドを出ると、私は立ち止まった。


 シリルさんの方へ向き直る。


「シリルさん。ありがとうございました。シリルさんがそばにいてくれて、本当に心強かったです。お店のことも、すごく助かりました」

「いいんですよ。思ったより早く解決してよかったです」


 シリルさんはいつものように笑った。


「そういえば……シリルさんとのお仕事も、これで終わっちゃうんですよね」

「そうですね。護衛は今日で終わりです」


「そっか……そっかぁ……」


 分かっていたことなのに、口にするとなんだか変な感じがした。


 シリルさんが少し笑う。


「もしかして、寂しいですか?」

「え?」


 思わずシリルさんを見る。


「えっと……店員さんが一人いなくなっちゃうから!」


 言ってから、自分でも違うと思った。


「……じゃないですね。認めます。なんだか寂しいです」


 そう言うと、シリルさんが少し嬉しそうな顔をした。


「また会いに行きますよ。石鹸を買いに」

「ふふっ。ちゃんと買ってくださいね」

「もちろんです」


 なんとなく、それを聞いて安心した。


「宿まで送りますよ」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんです。最後まで護衛させてください」


 その言い方に思わず笑ってしまう。


「じゃあ、お願いします」


 二人で並んで歩き出す。


 少し歩いたところで、ふと思いついた。


「あの、シリルさん。よかったら今日、宿で一緒に夕食食べませんか?」

「いいんですか?」

「はい。ちゃんとお礼もしたいですし、トムさんのご飯すごく美味しいんですよ」

「それなら、ぜひ」


 よかった。


 誘ってから一瞬だけ、断られたらどうしようって思ってた。


 事件が解決したと思ったら、急に肩の力が抜けた。


 ああ。


 私、ずっと緊張して気を張ってたんだ。


 自分でも気づいてなかった。


 でも、シリルさんがずっとそばにいてくれたから、店ではいつもの私でいられた。


 ほんとに、この人がいてくれてよかった。


 シリルさんがいてくれたから、私はいつもの私でいられた。


 ……なんか、今さらすごく思う。


◇


「ただいま帰りました」


 宿へ入ると、エマさんが顔を上げた。


「おかえり、ノア」


 私の後ろにいるシリルさんに気づくと、にっこり笑う。


「おや、兄ちゃんも一緒かい」

「エマさん、今日シリルさんと一緒に夕食食べたいんだけど、大丈夫?」

「もちろんいいよ。ただ今日は客が多くてねぇ」


 エマさんは賑わっている食堂を見回した。


「ゆっくり話したいなら、兄ちゃんが嫌じゃなければ裏使うかい? 従業員が飯食べるところだけど、あっちの方が落ち着くだろ」

「シリルさん、どうします?」

「僕は大丈夫ですよ」

「じゃあ、お願いします」


「はいよ」


 エマさんは嬉しそうに笑うと、厨房へ向かって声を張った。


「トムー! 二人の夕飯、裏へお願い!」

「おう、任せとけ!」


 すぐに元気な声が返ってくる。


 私は思わず笑った。


 やっぱり、この宿に帰ってくると落ち着く。

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