68話 報告
営業を終えたあと、私はシリルさんと冒険者ギルドへ向かった。
受付で名前を伝えると、前回と同じ部屋へ案内される。
中へ入ると、ヴィンスさんが席を立った。
「お待ちしておりました」
私たちが席に着くと、ヴィンスさんはすぐに話を始めた。
「まず結論から申し上げます。偽物の石鹸を販売していた者は確保いたしました」
その言葉を聞いた瞬間、胸につかえていたものが少しだけ軽くなる。
「調査の結果、この前露店で販売していた男性本人が、偽物の製作にも関わっていたことが分かりました」
「……やっぱり」
あの時の顔が浮かぶ。
ヴィンスさんは手元の書類へ目を落とし、そこで一度言葉を切った。
「調査の詳しい内容もお聞きになりますか?」
「はい。ぜひ聞かせてください」
隣を見ると、シリルさんも静かにうなずいた。
「分かりました。では、順を追ってご説明します」
ギルドはあのあと、露店の男をすぐに捕まえることはせず、まず動きを追ったらしい。
もしその男が販売しているだけなら、先に確保してしまえば仕入れ先まで辿れなくなる。その可能性も考え、何人かで様子を見ながら後を追ったそうだ。
「数日後、その男性がリーヴェの街から少し離れた村へ戻ったことを確認しました。そこが本人の住居であり、商品の製作場所にもなっていました」
ヴィンスさんは書類を一枚めくる。
「住居兼作業場からは、アラボンを模した型、包装前の石鹸、それから製作途中のものも複数見つかっています」
「型まで……」
思わず声が漏れる。
隣のシリルさんも、少しだけ表情を引き締めた。
「はい。男性は普段、仕入れた商品を露店で販売するほか、自分で作った小物なども売っていたそうです。手先はかなり器用だったようですね」
「それで、アラボン石鹸まで……」
「知人が持っていたものを見て、『これなら自分にも作れそうだ』と思った。それが始まりだったと話しています」
「じゃあ、本物は使ったことがなかったんですね」
「はい。見た目だけを頼りに作っていました」
見た目だけ。
本物を知らないまま、形だけを真似したんだ。
「最初は石鹸などどれも同じだと思っていたようですが、売れ始めてからは『本店とここでしか売っていない』などと偽って販売していたことも認めています」
私は目を伏せた。
最初は軽い気持ちだったのかもしれない。
でも、途中からは違う。
売れると分かって、それでも続けた。
「それから、その男性には三人の子どもがいます」
「……子どもが?」
「16歳、14歳、8歳です。石鹸作りは、その子どもたちも手伝っていました」
胸がぎゅっとなる。
「子どもたちは……どうなるんですか?」
「父親の仕事を手伝っていただけで、偽物を作って販売しているという認識はなかったようです。そのため、罪に問われることはありません。ただ、今回の件についてはきちんと説明と指導が行われます」
小さく息を吐いた。
「……少し安心しました」
そう呟くと、シリルさんも何も言わずにうなずいた。
「父親については、シャボンノアを名乗って販売していたことも含め、処分が下されます」
「……そうですか」
子どもたちは何も知らなかった。
でも、知らなかったでは済まないこともある。
だからこそ、大人がちゃんとしないといけないんだろう。
「他に聞いておきたいことはありますか?」
少し考えたけれど、私は首を横に振った。
「いいえ。ありがとうございました」
これで終わりなんだ。
そう思って席を立ちかけたところで、ふと足が止まった。
「ヴィンスさん」
「はい」
「今回のことを聞いて……もっと、本物の良さを知ってもらえるように頑張らないとなって思いました」
ヴィンスさんが黙ってこちらを見る。
「本物を知ってる人が増えたら、『これは違う』って気づいてもらえることも増えると思うんです。だから、もっと頑張ります」
ヴィンスさんは少しだけ表情を緩めた。
「そうですね。今回のことは、もちろん喜べる話ではありません。ただ、多くの人に知られ、価値があると思われた商品ほど真似をされることもあります」
そこで一度言葉を切る。
「看過できることではありませんが、シャボンノアがそれだけ知られるようになったということでもあります。もう少し自信を持ってもいいと思いますよ」
私はヴィンスさんを見る。
「ノアさんの商品は、きちんと人に選ばれているものです」
なんか。
それはずるい。
泣きそうになる。
「……ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
帰ったら、すぐにできることを考えよう。
店の外にも中にも案内を出して、ひだまり亭にもお願いしよう。
『シャボンノア正規販売店は店頭にてご案内しております』
説明書には、販売場所を書いたカードも添える。
本物を知ってくれる人を、もっと増やしたい。
だったら、やることはいっぱいある。
「帰ったら、すぐ案内作ります」
よし。
帰ったらすぐ作ろう。




