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名前を忘れた私ですが、たぶん異世界で石鹸屋をはじめます。〜いい人しかいないんですが、罠ですか?〜  作者: まの月


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36話 家族の感想

 シリルは手を拭き、もう一度棚へ目を向けた。


「決まりました。普通の石鹸を二つ、香り付きを一つ、足用石鹸を一つお願いします」

「ありがとうございます」


 私は嬉しくなってうなずき、棚の下から蝋引き紙で丁寧に包まれた石鹸を取り出した。数を確かめながら、一つずつ紙袋へ入れていく。


「普通の石鹸を二つなんですね」

「前に買った石鹸を母と妹も使ったんですが、二人とも気に入っていました」


 その言葉に、思わず顔が明るくなる。


「本当ですか? 妹さんがいらっしゃるんですね」

「ええ」

「いいなぁ」


 ぽろりと零れた言葉に、自分でも少し驚いた。胸の奥がほんの少しだけちくりとしたけれど、理由は分からない。その違和感も、すぐに消えていった。


「……あっ、ご、ごめんなさい。ご家族に気に入っていただけて、本当に嬉しいです」

「洗い上がりが気持ちいいと喜んでいました。泡立ちも気に入ったようです」

「ありがとうございます。そう言っていただけると、本当に励みになります」


 シリルは気にした様子もなく、穏やかにうなずいた。


 石鹸をすべて紙袋へ入れ終えると、私は最後に一枚のカードを添える。お店のイメージカラーと同じ、淡い緑がかった水色を使ったものだ。


「こちらもどうぞ」

「これは?」

「石鹸の取り扱いについてです。保管方法や、ご使用の際の注意を書いてあります」


 シリルはカードへ目を落とし、一通り目を通してから少しだけ目を見開いた。


「……ここまで書かれているんですね」


 私は少し胸を張る。


「はい。安心、安全、誠実をモットーにやらせてもらってます」


 真剣な顔で言い切ると、シリルの口元がやわらかく緩んだ。


「いいお店ですね」


 一瞬きょとんとしてから、その言葉の意味がじわじわと嬉しくなってくる。


「最高の褒め言葉いただきました!」


 思わず笑うと、シリルもつられるように笑った。


「あ、それと」


 私は紙袋の持ち手を持ち上げる。


「開店記念品というほどのものではありませんが、今日はご購入いただいた方にこちらも付けてるんです」

「これは……?」


 持ち手には細い紐が結ばれていて、その先には、お店のイメージカラーと同じ淡い緑がかった水色の紙で折った、羽を広げた鳥のようなものが揺れていた。


「紙を折って作った飾りです。なんとなく鳥っぽいでしょう?」

「ええ。なんかすごいですね」


 シリルは紙袋を受け取り、珍しそうに小さな鳥を眺める。


「誰でも作れますよー」

「そうなんですか?」

「折り方さえ分かれば、たぶん」


 そう答えながら、私もその紙飾りを見つめた。


 なぜか折り方は覚えている。でも、これが何という鳥なのかは分からない。


 記憶がないのに、こういうことだけは手が覚えているのだから不思議だ。


「でも、いいですね。袋に付いていると少し特別な感じがします」

「ほんとですか? よかったー。昨日ちまちま折った甲斐がありました」


 そう言って笑うと、シリルもまた穏やかに笑った。


 紙袋の持ち手で、淡い水色の鳥が小さく揺れていた。

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