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名前を忘れた私ですが、たぶん異世界で石鹸屋をはじめます。〜いい人しかいないんですが、罠ですか?〜  作者: まの月


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24話 相談相手

お店を持ちたい。


 その思いは、日に日に大きくなっていた。けれど、いざ本当に動こうとすると、何から始めればいいのか分からない。


 店を借りるにはどれくらいのお金が必要なのか。場所はどうやって探せばいいのか。考えれば考えるほど分からないことばかり増えていく。


 その日の仕事が一段落した頃、私は思い切ってエマさんに相談してみることにした。


「エマさん、少し相談があるんです」

「どうしたんだい?」

「石鹸も増えてきたので、いつか自分のお店を持ちたいと思ってるんです」


 エマさんは少し驚いたように目を丸くしたあと、嬉しそうに笑った。


「そうかい。とうとうそこまで考えるようになったんだね」

「でも、何から始めればいいのか全然分からなくて……。お店を借りるのにどれくらいお金が必要なのかも、場所をどうやって探すのかも分からないんです」


 エマさんは腕を組み、しばらく考え込んだ。


「うちの宿はね、おばあちゃんの代から続いてる宿だから、新しく店を立ち上げるって経験はないんだよ。宿を続けることなら話せるけど、新しく店を借りるとなると、私より詳しい人がいるだろうね」

「そうなんですね」

「こういうことは、やっぱり詳しい人に相談するのが一番さ」


 そう言って、エマさんは優しく微笑んだ。


「ありがとうございます」


 一人であれこれ考えていた胸のつかえが、少しだけ軽くなった。


 詳しい人に相談する。


 それだけでも、次に何をすればいいのか少し見えてきた気がした。



 翌日の昼。


 私は久しぶりにリラを誘い、街の喫茶店でお茶をしていた。


「最近どう? 石鹸屋さん」

「誰が石鹸屋さん」

「もうほぼそうでしょ」

「まあ……否定はできない」

「儲かってる?」

「聞き方がいやらしい」

「大事でしょ」

「前より作る時間も増えたし、種類も増えたよ」

「おお、順調」

「それでね……ちょっとお店欲しい」

「ちょっとお店欲しい、で買えるものじゃないけどね」

「分かってるよ!」


 そんな話をしながら笑っていると、店の扉が開いた。


「リラ、迎えに来たよ」


 聞き覚えのある声に振り向くと、フィンが立っていた。今日は午後から二人で出かける約束をしているらしい。


「もうそんな時間?」


 リラが慌てて席を立つ。


「こんにちは、ノアさん」

「こんにちは」


 挨拶を交わすと、フィンが何かを思い出したように笑った。


「そういえば、足用石鹸使ってるよ」

「本当ですか?」

「現場仕事って一日中靴を履いてるだろ? 職場でも結構評判なんだ。汗をかいても前より気にならなくなったって」

「よかったぁ」


 実際に使ってくれた人からそう言ってもらえると、やっぱり嬉しい。


「俺も『彼女の友達が作ってる石鹸なんだ』って、つい自慢しちゃってさ」

「もう、恥ずかしいからやめてよ」


 リラが照れたように笑う。二人のやり取りにつられて、私も笑ってしまった。


「あ、そうだ」


 リラが何か思い出したようにフィンを見る。


「今ちょうどノアと話してたんだけど、ノア、お店を持ちたいんだって」

「店?」

「うん。でも、どうやって探せばいいのか分からなくて」


 するとフィンが「ああ」とうなずいた。


「俺、建築の仕事してるから、不動産屋とは付き合いがあるよ」

「え?」

「店舗を探すなら、詳しい人を紹介できる。いきなり借りるとかじゃなくても、まず話を聞いてみたら参考になるんじゃないかな」

「ぜひ、お会いしたいです」


 思いがけない申し出に、私は思わず身を乗り出した。


「じゃあ、都合を聞いておくよ」

「ありがとうございます!」


 昨日までは、何から始めればいいのかさえ分からなかった。


 それなのに、こうして一つ話してみただけで、次につながる道が見えてきた。


 自分のお店を持つ。


 まだ遠いと思っていたその目標が、ほんの少しだけ現実へ近づいたような気がした。

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