21話 伝えたかった言葉
シリルは再びリーヴェの宿を訪れていた。
扉を開けると、昼時を過ぎた食堂は少し落ち着きを取り戻している。
「いらっしゃい」
カウンターの向こうでエマが笑った。
シリルは店内を見回してから尋ねる。
「石鹸を作っている人はいる?」
「あの子なら買い出しだよ。材料が足りなくなってね、朝から街へ行ってる」
少し遅かったか。
シリルは小さく息をついた。
「わざわざ呼び戻してもらうほどじゃないから、伝言だけお願いしたい」
「もちろんさ」
「石鹸を使った。泡立ちも良いし、使い心地も良かったって伝えてください」
それを聞いたエマは嬉しそうに目を細めた。
「それは喜ぶよ。試した人の感想が一番知りたいって言ってたからね」
シリルは静かにうなずく。
「それと、石鹸を一つ買います」
「ありがとね」
エマは棚へ向かったが、並んだ石鹸を見て苦笑した。
「おや、残り二つしかないじゃないか」
その言葉に、シリルも棚へ目を向ける。
「売れてますか?」
「ありがたいことにね。宿のお客さんが気に入ってくれて、その評判を聞いて買いに来る人までいるんだよ。作っても作っても追いつかなくてね」
エマは石鹸を包みながら笑った。
「最近はあの子も、宿の仕事を終えたら石鹸ばっかり作ってる。それでも足りないんだから嬉しい悲鳴さ」
「そうなんですね」
シリルは包みを受け取り、そのまま宿をあとにした。
◇
その頃、ノアは街でルシアンと歩いていた。
「今日はずいぶん買い込むのねぇ」
「はい。思ったより売れちゃって」
「まあ、素敵じゃない。でも品切れはもったいないわ。少し多めに用意しておくのも大事よ」
「そうですよね。包装紙もそろそろ考えたいんです」
「まあ!」
ルシアンの目が輝く。
「それ、とっても面白い考えね。今度ゆっくり相談しましょう」
「お願いします」
二人はそんな話をしながら宿への道を歩いていった。
シリルが宿を出てから、そう時間は経っていなかった。
◇
宿では、エマが食器を片付けていた。
「トム、最近忙しくなってきたねぇ」
「ああ」
「このままじゃ手が足りなくなるかもしれないね」
「否定できないな」
エマは片付けの手を止め、腕を組んだ。
「従業員、増やそうかね」
トムは少し考えてから、静かにうなずく。
「いい頃合いだ」
忙しさは増えていたが、それは決して悪い忙しさではなかった。宿も石鹸も、少しずつ前へ進み始めている。




