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名前を忘れた私ですが、たぶん異世界で石鹸屋をはじめます。〜いい人しかいないんですが、罠ですか?〜  作者: まの月


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21話 伝えたかった言葉

シリルは再びリーヴェの宿を訪れていた。


 扉を開けると、昼時を過ぎた食堂は少し落ち着きを取り戻している。


「いらっしゃい」


 カウンターの向こうでエマが笑った。


 シリルは店内を見回してから尋ねる。


「石鹸を作っている人はいる?」

「あの子なら買い出しだよ。材料が足りなくなってね、朝から街へ行ってる」


 少し遅かったか。


 シリルは小さく息をついた。


「わざわざ呼び戻してもらうほどじゃないから、伝言だけお願いしたい」

「もちろんさ」

「石鹸を使った。泡立ちも良いし、使い心地も良かったって伝えてください」


 それを聞いたエマは嬉しそうに目を細めた。


「それは喜ぶよ。試した人の感想が一番知りたいって言ってたからね」


 シリルは静かにうなずく。


「それと、石鹸を一つ買います」

「ありがとね」


 エマは棚へ向かったが、並んだ石鹸を見て苦笑した。


「おや、残り二つしかないじゃないか」


 その言葉に、シリルも棚へ目を向ける。


「売れてますか?」

「ありがたいことにね。宿のお客さんが気に入ってくれて、その評判を聞いて買いに来る人までいるんだよ。作っても作っても追いつかなくてね」


 エマは石鹸を包みながら笑った。


「最近はあの子も、宿の仕事を終えたら石鹸ばっかり作ってる。それでも足りないんだから嬉しい悲鳴さ」

「そうなんですね」


 シリルは包みを受け取り、そのまま宿をあとにした。



 その頃、ノアは街でルシアンと歩いていた。


「今日はずいぶん買い込むのねぇ」

「はい。思ったより売れちゃって」

「まあ、素敵じゃない。でも品切れはもったいないわ。少し多めに用意しておくのも大事よ」

「そうですよね。包装紙もそろそろ考えたいんです」

「まあ!」


 ルシアンの目が輝く。


「それ、とっても面白い考えね。今度ゆっくり相談しましょう」

「お願いします」


 二人はそんな話をしながら宿への道を歩いていった。


 シリルが宿を出てから、そう時間は経っていなかった。



 宿では、エマが食器を片付けていた。


「トム、最近忙しくなってきたねぇ」

「ああ」

「このままじゃ手が足りなくなるかもしれないね」

「否定できないな」


 エマは片付けの手を止め、腕を組んだ。


「従業員、増やそうかね」


 トムは少し考えてから、静かにうなずく。


「いい頃合いだ」


 忙しさは増えていたが、それは決して悪い忙しさではなかった。宿も石鹸も、少しずつ前へ進み始めている。

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