19話 「再会」
金庫屋を出た私は、肩掛け鞄を軽く叩いた。
「これでひと安心」
魔石カードも作ったし、売上も無事に預けられた。これで大金を部屋に置いておく心配もしなくていい。
あとは宿へ戻るだけだ。
そんなことを考えながら大通りを歩いていると、向こうから見覚えのある銀髪の青年が歩いてきた。
「あ」
「こんにちは」
軽く会釈を交わしたものの、お互いにどこかで会ったような気がして、一瞬だけ考えるような間が流れる。
「……あ」
先に思い出したのは、青年の方だった。
「石鹸の人」
「あっ!」
その一言で、私もすぐに思い出した。
宿の洗い場で試作の石鹸を使ってくれた人だ。
ぱっと顔を上げ、思わず笑顔になった。
「この間は使ってくださって、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げる。
「実は、あの後さらに研究して、できたんです!」
そう言いながら肩掛け鞄を開き、小さな木箱を取り出した。中には、持ち歩けるよう小さく包んだ石鹸がいくつか並んでいる。
「これ、サンプルなんです」
その中から一つ取り出し、青年へ差し出す。
「あの時の助言、本当に参考になりました! 前より泡立ちも良くなったと思います またどこかでお会いしたら、感想を聞かせてくださいね」
にこりと笑ってから、ふと思い出してもう一度口を開く。
「あっ、それと! 宿でも販売してますので、気に入っていただけたらぜひ!」
青年は小さく微笑み、差し出した石鹸を受け取った。
「ありがとうございます 使わせてもらいます」
「ありがとうございます!」
もう一度深々と頭を下げる。
「それでは!」
軽く手を振り、私はそのまま宿へ向かって歩き出した。
無事にサンプルも渡せたし、また感想も聞けるかもしれない。そんなことを考えていると、自然と足取りまで軽くなる。
◇
その背中を見送りながら、シリルは手の中に残った小さな包みへ目を落とした。
「……へぇ」
興味深そうに目を細めると、石鹸を静かに鞄へしまい、そのまま大通りを歩き始める。
ほどなくして、通りの向こうから甲高い声が飛んできた。
「シリルさまぁ〜!」
「あっ、本当にシリル様!」
「今日も素敵です!」
三人ほどの若い女性が、シリルの姿を見つけて駆け寄ってくる。
シリルは足を止めると、いつものように小さく会釈した。
「こんにちは」
「今お仕事帰りですか?」
「ええ」
短く答えると、女性たちはさらに楽しそうに身を寄せた。
「また大きな魔物を倒されたって聞きました!」
「噂ですよね?」
期待に満ちた視線が一斉に向けられる。
シリルは少し困ったように苦笑した。
「話が大きくなっているだけです」
「そんなことありません!」
「やっぱりシリル様はすごいです!」
女性たちは楽しそうに笑う。
シリルはその勢いに押されることもなく、穏やかな表情のまま軽く一礼した。
「それでは」
「きゃー! またお会いしましょう!」
「はい!」
明るい声が背中へ飛んでくる。
シリルは振り返ることなく、そのまま歩き続けた。
やがて、大通りの先に見慣れた屋敷が見えてきた。
王都にも支店を持つ大商会、リーベル商会。その商会を営む家の屋敷であり、シリルが生まれ育った家だ。
そのまま屋敷へ戻り、玄関を入ると、近くにいた使用人がすぐに一礼した。
「お帰りなさいませ、シリル様」
「ただいま戻りました」
シリルはそう答えながら、慣れた足取りで屋敷の中へ入っていった。




