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名前を忘れた私ですが、たぶん異世界で石鹸屋をはじめます。〜いい人しかいないんですが、罠ですか?〜  作者: まの月


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19話 「再会」

金庫屋を出た私は、肩掛け鞄を軽く叩いた。


「これでひと安心」


 魔石カードも作ったし、売上も無事に預けられた。これで大金を部屋に置いておく心配もしなくていい。


 あとは宿へ戻るだけだ。


 そんなことを考えながら大通りを歩いていると、向こうから見覚えのある銀髪の青年が歩いてきた。


「あ」

「こんにちは」


 軽く会釈を交わしたものの、お互いにどこかで会ったような気がして、一瞬だけ考えるような間が流れる。


「……あ」


 先に思い出したのは、青年の方だった。


「石鹸の人」

「あっ!」


 その一言で、私もすぐに思い出した。


 宿の洗い場で試作の石鹸を使ってくれた人だ。


 ぱっと顔を上げ、思わず笑顔になった。


「この間は使ってくださって、ありがとうございました!」


 ぺこりと頭を下げる。


「実は、あの後さらに研究して、できたんです!」


 そう言いながら肩掛け鞄を開き、小さな木箱を取り出した。中には、持ち歩けるよう小さく包んだ石鹸がいくつか並んでいる。


「これ、サンプルなんです」


 その中から一つ取り出し、青年へ差し出す。


「あの時の助言、本当に参考になりました! 前より泡立ちも良くなったと思います またどこかでお会いしたら、感想を聞かせてくださいね」


 にこりと笑ってから、ふと思い出してもう一度口を開く。


「あっ、それと! 宿でも販売してますので、気に入っていただけたらぜひ!」


 青年は小さく微笑み、差し出した石鹸を受け取った。


「ありがとうございます 使わせてもらいます」

「ありがとうございます!」


 もう一度深々と頭を下げる。


「それでは!」


 軽く手を振り、私はそのまま宿へ向かって歩き出した。


 無事にサンプルも渡せたし、また感想も聞けるかもしれない。そんなことを考えていると、自然と足取りまで軽くなる。



 その背中を見送りながら、シリルは手の中に残った小さな包みへ目を落とした。


「……へぇ」


 興味深そうに目を細めると、石鹸を静かに鞄へしまい、そのまま大通りを歩き始める。


 ほどなくして、通りの向こうから甲高い声が飛んできた。


「シリルさまぁ〜!」

「あっ、本当にシリル様!」

「今日も素敵です!」


 三人ほどの若い女性が、シリルの姿を見つけて駆け寄ってくる。


 シリルは足を止めると、いつものように小さく会釈した。


「こんにちは」

「今お仕事帰りですか?」

「ええ」


 短く答えると、女性たちはさらに楽しそうに身を寄せた。


「また大きな魔物を倒されたって聞きました!」

「噂ですよね?」


 期待に満ちた視線が一斉に向けられる。


 シリルは少し困ったように苦笑した。


「話が大きくなっているだけです」

「そんなことありません!」

「やっぱりシリル様はすごいです!」


 女性たちは楽しそうに笑う。


 シリルはその勢いに押されることもなく、穏やかな表情のまま軽く一礼した。


「それでは」

「きゃー! またお会いしましょう!」

「はい!」


 明るい声が背中へ飛んでくる。


 シリルは振り返ることなく、そのまま歩き続けた。 


やがて、大通りの先に見慣れた屋敷が見えてきた。


 王都にも支店を持つ大商会、リーベル商会。その商会を営む家の屋敷であり、シリルが生まれ育った家だ。


 そのまま屋敷へ戻り、玄関を入ると、近くにいた使用人がすぐに一礼した。


「お帰りなさいませ、シリル様」

「ただいま戻りました」


 シリルはそう答えながら、慣れた足取りで屋敷の中へ入っていった。

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