16話 女子会
今日は珍しく、宿が落ち着いていた。
「午後は上がっていいよ」
エマの一言に、私はぱっと顔を上げた。
「ありがとうございます!」
こんなに早く仕事が終わるのは久しぶりだ。
何をしようかと考えながら宿を出ると、ちょうどパンを届け終えたリラと鉢合わせた。
「あっ、ノア!」
「リラ!」
「もう仕事終わり?」
「うん 今日は午後から上がっていいって」
「じゃあ時間ある?」
「ある!」
「お茶しよ!」
「行く!」
話はあっという間に決まり、二人で街の小さなカフェへ向かった。
店に入ると、甘い焼き菓子の香りがふわりと漂ってくる。
窓際の席に座り、焼き菓子とお茶を頼むと、しばらくして湯気の立つカップと小さなお皿が運ばれてきた。
「おいしそう!」
「いただきます!」
二人で顔を見合わせて笑い、焼き菓子へ手を伸ばす。
久しぶりにゆっくり話せることもあって、宿のことやパン屋のこと、町で見かけたものまで、話題は次々と変わっていった。
けれど、さっきからリラの様子がどこかおかしい。
何か言いたそうにしてはやめて、カップを持ったり置いたりしている。
「……リラ、さっきからどうしたの?」
「えっ?」
「なんかそわそわしてない?」
「分かる?」
「分かるよ」
私がじっと見つめると、リラは少し照れくさそうに笑った。
「実はね……彼氏ができたの!」
「えぇぇぇぇっ!?」
思わず大きな声が出た。
近くの席から視線を感じ、慌てて両手で口を押さえる。
「ほ、本当に?」
「うん」
「誰!??」
リラの頬がみるみる赤くなっていく。
「フィンさんっていうの」
「フィンさん……って、もしかして」
「うん!」
「あのフィンさん!?」
「そう!」
「あのマッチョなのに童顔の!?」
「そう!」
「すごーい!」
思わず身を乗り出した。
「おめでとう!」
「ありがとう」
リラは照れくさそうにはにかみながら、カップへ視線を落とした。
その顔を見ているだけで、こっちまでうれしくなってくる。
「それで? どうやって付き合うことになったの?」
「その前にさ、この前フィンさんに『髪きれいだね』って言われたの」
「えぇー! それ絶対うれしいやつ!」
「もう顔真っ赤になっちゃって」
「今も赤いよ」
「もう、ノア!」
二人で顔を見合わせて笑う。
するとリラが、ふと思い出したようにこちらを見た。
「それでね、その髪のことなんだけど」
「うん?」
「ノアの石鹸を使い始めてから言われたの」
「え?」
一瞬、意味が分からず目を瞬かせる。
「だから私、ちゃんと宣伝しといた!」
「ほんと?」
「うん 友達が作ったシャボンノアっていう石鹸なんですって 泡立ちもすごくいいんですよって!」
「リラ……!」
思わず笑みがこぼれた。
「ありがとう」
「ふふっ、それでね」
リラが楽しそうに続ける。
「フィンさんが『もしよかったら今度お店案内してくれる?』って」
「えぇぇぇっ!」
また声が大きくなり、今度は自分で慌てて口を押さえた。
「シャボンノア見に来てくれるってこと!?」
「たぶん!」
「嬉しい!きてきて!」
思わずリラの手を取る。
リラも笑いながら握り返してくれた。
「今度ノアにも紹介するね」
「楽しみ!」
友達に彼氏ができたこともうれしい。
そのきっかけの一つに、自分の作った石鹸があったこともうれしい。
そして、シャボンノアのことを知って、使ってみたいと思ってくれる人がまた一人増えた。
そんなことが全部重なって、今日はなんだかいいことばかりだ。
「リラ、今日はお祝いだね」
「ノアが一番はしゃいでるけどね」
「だってうれしいんだもん」
「石鹸の話も入ってるからでしょ?」
「……それもある」
「やっぱり!」
二人の笑い声が、午後のカフェに楽しそうに響いた。




