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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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46話:決断

夜明けは来ない。


空はわずかに白み始めているはずなのに、地平の向こうから押し寄せる黒い圧力が、光を食いつぶしている。遠くの森は不気味にうねり、地面は魔物たちの行進によって規則的に震え続けていた。


その中心で、アルト・フェルディスは机の前に立っていた。


「やあ、みんな! 揃ってるね。いいかい、これから最高にエキサイティングな『最終仕分け』を始めるよ!」


アルトの声は、この世の終わりを予感させる暗雲を吹き飛ばすかのように明るい。彼はいつものように気さくな手つきで、地図の上の駒を指先で弄んだ。


「中央街道、ここが今回のステージのメイン会場だ! 避難民のみんなもここに集まっているし、補給路としてもバッチリ。地形も守りやすい。まさに『勝ってください』と言わんばかりの場所だよね。あはは!」


アルトは駒を一つ、中央に力強く置いた。カツン、と景気のいい音が響く。


「ここを死守する。これが僕の導き出した唯一のハッピーエンドへのルートだよ!」


エルディアが腕を組み、鋭い視線を地図に落とす。

「……妥当だな。全戦力を集中させれば、勝算はある」


アンジェリカも静かに頷く。

「……選択の余地はないわね。ここを抜かれれば、全てが終わるわ」


アルトは「その通り!」と明るく指を鳴らし、次の駒に手を伸ばした。


北東第三集落。


「さて、ここからはちょっと寂しいお別れの時間だ。北東第三集落、ここは――ポイッ!」


アルトはひょいと、その駒を弾き飛ばした。

駒は机の端まで滑り、音を立てて床に転がる。


「ここは捨てるよ。バイバイだね!」


リュミエラが、息を呑んで駆け寄った。

「アルトさん……! 今、なんて……」


「捨てる、って言ったんだよ、リュミエラちゃん! 今更驚かないで。ここは効率が悪すぎるんだ。次、南西第四監視拠点、ここも――ポイッ!」


また一つ、駒が弾かれる。

アルトの動きは軽やかで、迷いがない。まるで不要な書類をシュレッダーにかけているかのような、気さくな事務作業。


「第五防衛線、切る! 第六、ポイッ! 北側の資源も、全部放棄だ!」


次々に駒が落ちていく。

それは人であり、家族のいる命であり、誰かの故郷だ。

だが、アルトは笑顔のまま、一切の躊躇なくそれらを「処理」していく。


「……アルトさん。まだ、まだ助けられる場所があるはずです……!」


リュミエラの声は震え、涙が溢れ出していた。アルトは作業を止め、ゆっくりと彼女を振り返った。その瞳は、いつものように陽気に輝いている。


「ないよ、リュミエラちゃん! ゼロだ。全部を救おうとすると、全員が平等に死んじゃう。それじゃあ誰も笑えないだろう?」


アルトは一歩、彼女に近づいた。


「勝つために切るんだ。これは楽しい『振り分け』なんだよ。僕たちが最後に笑うために、どこを捨ててどこを輝かせるか。それを決めるのが僕の役割で、君の役割は、残った場所で最高にハッピーな救済を提供することだ。ね?」


「……そんな……」


「戦争だからね! 全員を救う魔法の杖があったら、僕だって真っ先に使ってるよ。でも、ないから選ぶんだ。それが僕の『気さくな決断』さ!」


アルトは最後の駒を手に取った。

名前もない小さな集落。

そこにいる人々の顔を、アルトは知らない。知る必要もない。


「……ここは、見捨てる」


静かに、しかし朗らかに。

アルトはその駒を床に落とした。

カラン、という小さな音が、リュミエラの心臓を抉った。


場の空気が、戻れないところまで変わった。

アルトはもう落ちた駒を見ない。彼の視線はすでに、生き残った中央街道をどう「完璧に回すか」という、次なる演算に移行していた。


「よし! 方針は決まった。湿っぽいのはここまでだ。みんな、僕のタクトに合わせて動いてくれ! 捨てた場所の分まで、中央街道を鉄壁の要塞にしてあげようじゃないか!」


アルトは高らかに笑い、パンと手を叩いた。

兵たちが、その明るい声に弾かれるように動き出す。

選ばれなかった命への慟哭を、合理的な「勝利への手順」が塗りつぶしていく。


リュミエラは膝を折りそうになりながら、それでも立ち尽くしていた。

アルト・フェルディス。

その明るい笑顔の裏側にある、底なしの断絶。

救えないものを笑って切り捨て、救えるものだけを確実に繋ぐ。

それが、彼がこの地獄で確立した「王道」だった。


第46話、決断。

合理の支配者が下した「選別」は、地獄の空気に新しい、そして最も残酷な秩序を刻み込んでいた。

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