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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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17話:逆転開始

夕闇が戦場を支配し、赤い残光が泥と血を不気味に照らし出していた。


バルトロがもたらした「無秩序」という名の疫病は、アルト・フェルディスという「合理」の介入によって、今や完全に駆逐されつつあった。


第二ライン。

そこはアルトがあらかじめ設計しておいた、殺戮のための幾何学的な箱庭だ。地形の起伏、障害物の配置、そして村人たちの射線――すべてが、最も効率的に魔物の命を「削る」ために最適化されている。


「右翼、2番から4番。射角を15度下げろ。足元を狙え。……今だ」


アルトの声は、混乱を鎮める鎮魂歌レクイエムのように冷徹に響く。

密集して逃げ場を失っていた村人たちは、今や適切な間隔を保ち、自らの武器が持つ「最大効率のレンジ」を理解して振るっていた。


(前線維持率、85パーセント。敵個体排除速度、秒間1.4体。……戦術的均衡を達成)


アルトの瞳は、戦場のすべてを数字として捉えていた。

だが、その視界の端に、計算式の外側へ取り残された「脆弱性」が映り込む。


崩壊した第一ラインの残骸。その瓦礫の陰に、リュミエラが横たわっていた。

先ほど、無理な救護活動の末に魔物の強襲を受け、アルトが間一髪で弾き飛ばした。だが、彼女は魔力枯渇と物理的な衝撃で、自力での戦線復帰が不可能な位置に取り残されている。


「……リソースの放置は、損失を招く」


アルトは、隣で大剣を振るうエルディアを一瞥した。

「維持しろ。俺が抜ける一二〇秒間、このラインの指揮権を一時的に移譲する。……できるな?」


「……くく、合理的だな。行ってこい。ここから先は一分子も通さん」


エルディアが笑い、大剣の薙ぎ払いで魔物の波を物理的に押し返した。

その瞬間、アルトは地を蹴った。


身体強化アクセル・出力一四〇パーセント」

筋肉強化マッスル・全解放」


アルトの肉体が、爆発的な加速と共に柵を越えた。

魔物の群れが渦巻く「死域」へと、彼はたった一人で飛び込んでいく。


「グルルッ!」

「……邪魔だ。演算の邪魔をするな」


一歩。

迫り来る魔物の牙を、首筋をミリ単位で逸らす回避でやり過ごす。

二歩。

抜刀。

抜くのと斬るのが同義の居合。最短の軌跡で魔物の喉笛を断つ。


彼は殲滅を目的としていない。

目的は「回収」だ。

すべての動作は、リュミエラの元へ到達するための最短距離を描く。


(障害物まで10メートル。敵対個体、前方3。……排除開始)


アルトの剣が閃くたび、魔物の肉体が「処理済み」の残骸へと変わっていく。

感情はない。あるのは、タスクを消化する機械的な正確さ。


瓦礫の陰。リュミエラは蒼白な顔で、薄く目を開けていた。

「……アルト……さん……」

「喋るな。酸素の無駄だ」


アルトは彼女の身体を無造作に、しかし最も負担の少ない重心で抱え上げた。

その軽さに、彼は一瞬だけ眉を寄せる。


(魔力残量、計測不能。バイタル、低下。……早急な補給が必要だ)


「戻るぞ」


アルトはリュミエラを左腕で固定し、右手の剣一本で退路を切り拓く。

背後から迫る複数の気配。

だが、アルトは振り返らない。


「――支援サポートしろ」


その呟きは、第二ラインに届いていた。


「弓兵! 10時の方向に集中射火! アルトの背後を埋めろ!」


エルディアの鋭い指示が飛ぶ。

雨あられと降り注ぐ矢が、アルトを追う魔物の足を止める。

村人たちの放つ矢は、もはや単なる「抵抗」ではない。アルトが示した「意味のある一撃」へと昇華されていた。


「……着地」


アルトは柵を飛び越え、安全圏内へと滑り込んだ。

彼はリュミエラを静かに壁際へ置くと、その額に手をかざす。


「強制冷却。魔力循環の再構築を開始する。……リュミエラ、三分で意識を固定しろ。それ以上は待てない」


「……は、い……。……すみません、私……」


「謝罪は非合理的だ。次回の行動で補填しろ」


アルトは立ち上がり、再び最前線を見据えた。

その瞳には、もはや「危機」という言葉は存在しない。


「指揮を戻す。全ユニット、最終フェーズへ移行」


アルトの指先から、数束の魔法陣が展開される。


「ヒールバレット。前線の負傷者へ個別に投射。……完了」

「ピュリフィケーションバレット。空間浄化。……完了」


一瞬にして、村人たちの疲労が「最適化」によって上書きされる。

負傷した者が立ち上がり、折れかけた心が鋼の規律を取り戻す。


一方、その光景を後方で見ていたバルトロは、震える手で自分の服を握りしめていた。

自分の命令では誰も動かず、誰も助からなかった。

だが、この男が一度動けば、死地にある者すらも「演算の一部」として救い出される。


「……これが、逆転だ」


アルトの声が、夜の森に響く。

魔物たちは、自分たちがもはや「狩る側」ではなく、効率的に解体される「素材」に過ぎないことを、その本能で悟り始めていた。


「殲滅を開始する。――エルディア、合わせろ」


「……承知した。最高のショーにしようじゃないか、アルト」


逆転は開始された。

絶望という名のノイズは排除され、辺境の村は「合理の勝利」という唯一の解に向かって、加速し始める。


第17話、逆転開始。

夜明けよりも明るい、冷徹な勝利の光が、戦場を白く塗りつぶしていった。




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