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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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16話:介入

夕闇が戦場を支配し、赤い残光が泥と血を不気味に照らし出していた。


バルトロ・フォン・ゼーレがもたらした無秩序という名の疫病は、村の防衛線を内側から腐らせ、崩壊の極致へと追い込んでいた。密集した村人たちは逃げ場を失い、自らの武器が仲間の動きを縛る鎖となっていた。


「押せ! 引くことは許さん! 貴族の命令に背くつもりか!」


金切り声が響くが、その言葉にはもはや何の質量もなかった。現実に噛み合わない命令は、ただのノイズとして虚空に霧散する。


アルト・フェルディスは、その混沌の中心で、静かに右手を掲げた。


(演算、終了。……介入フェーズへ移行。不純物を排除し、システムの主導権を物理的に奪取する)


アルトの瞳は、感情を完全に切り捨てた「理」の光を宿していた。彼はバルトロを一瞥もせず、その横を通り抜けて最前線へと踏み出す。


「――俺がやる」


低く、しかし戦場のあらゆる悲鳴を圧するほどに冷徹な声だった。


「な……貴様、何を勝手な! 私はこの地の管理権を――」


バルトロが食ってかかろうとするが、アルトはその言葉の半分も聞き届けない。彼の優先順位において、無能な権力者の自尊心は、使い捨ての瓦礫以下の価値しかなかった。


「前線を捨てる。第二ラインまで全速で下がれ。配置を再定義する」


アルトはそう告げると同時に、自らの魔力回路を全開にした。


身体強化アクセル・出力一三〇パーセント。筋肉強化マッスル・全解放。……同期シンクロ


アルトの身体から青白い燐光が溢れ出し、大気を震わせる。

一瞬。

視覚情報が追いつくよりも速く、アルトの姿は魔物の牙の前に割り込んでいた。


「動け。……生きるために、手順に従え」


アルトの剣が閃く。それは「斬る」という現象を極限まで短縮した最短の軌跡。

先頭の魔物の首が、抵抗もなく宙に舞う。

だが、彼は一体を倒すことに執着しない。彼の目的は、村人たちが「撤退するための空間」を強引に削り出すことにある。


「下がれ! 順番は右翼からだ! 詰まるな、流れを維持しろ!」


アルトの指示は、混乱した村人たちの脳に「生存の道筋」を叩き込んだ。

命令ではない。それは、暗闇に投げ込まれた唯一の命綱。


一人、また一人と、村人たちがアルトの背後を抜けて第二ラインへと走り出す。

昨日まで農夫だった男たちが、アルトの言葉を脊髄で聞き取り、機械的な正確さで後退を開始する。


「やめろ! 指揮権は私にあるのだ! 貴様ら、平民の命令に従うのか!」


バルトロが叫び、一人の村人の肩を掴もうとする。

だが、アルトの視線がバルトロを射抜いた。


「――邪魔だ」


氷のような一言。

そこには一切の忖度も、敬意もない。ただ、作業を妨害する「不具合」を排除しようとする冷徹な意思。

バルトロはその殺気に気圧され、言葉を失ってへたり込んだ。


「……くく、いい。実力で場を支配する……これこそが戦場の真理だな」


エルディアが大剣を振るい、アルトの横に並び立つ。

彼女はアルトが作った「空白」を埋めるように動き、迫り来る魔物の群れを物理的な暴力で押し留める。


「リュミエラ、前線の最後尾につけ。負傷者の搬送を優先しろ。癒やすのは第二ラインに着いてからだ。今は『動かす』ことだけを考えろ」


「……はい! 指示、了解しました!」


リュミエラはアルトの冷徹な言葉の奥にある、最も生存率の高い解を信じ、必死に手を動かす。

混乱は、今や「管理された後退」へと書き換えられていた。


アルトの脳内では、村人一人ひとりの位置情報、魔物の接近速度、地形の起伏がリアルタイムで更新され続けている。


「次、三秒後に中央が空く。そこから三人抜けろ。……五、四、三……今だ!」


アルトの秒刻みの指示が、死の淵にいた者たちを次々と生還させていく。

彼はもはや、一人の戦士ではない。

戦場という巨大なシステムを統御する、唯一の「脳」そのものだった。


やがて、最後の一人が第二ラインの木柵の内側へと滑り込んだ。

アルトとエルディアは、殿しんがりとして最後の一歩を退く。


第二ライン。

そこは、アルトがあらかじめ「罠」と「地形の利」を極限まで高めておいた、最終防衛拠点。

密集して逃げ場を失っていた村人たちは、今や広々とした空間で、アルトの指示通りにそれぞれの持ち場を固めている。


「……体勢、完了。防衛線を再定義する」


アルトは剣の血を払い、静かに告げた。

その視線の先には、怒り狂って押し寄せる魔物の本隊。


そして、背後には、言葉を失って立ち尽くすバルトロの姿。

自分の権威では、一人として動かすことができなかった。

だが、この「平民」が言葉を発するだけで、死にかけていた烏合の衆が最強の軍勢のように統率された。

その現実は、バルトロの自尊心を完膚なきまでに叩き潰していた。


「……名乗る必要はない。結果が俺の地位だ」


アルトは前を見据えたまま、バルトロに背中で告げる。


「黙って見ていろ。……これが、本当の『大局』だ」


指先が微かに光を帯び、無数の魔法陣がアルトの背後に展開される。

バレット・マニピュレータ、全開。

絶望の淵から、合理の男による、圧倒的な逆転劇が幕を開ける。


第16話、介入。

もはや、誰がこの村の「主」であるかを疑う者は、一人もいなかった。

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