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準男爵家の二男だが、合理で戦場を支配したら公爵令嬢と侯爵令嬢に選ばれた件  作者: 慈架太子


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15話:危機

夕刻の赤い陽光が、戦場の瓦礫と血に濡れた大地をどろりと照らしていた。


辺境の村に築かれた防衛システムは、バルトロという「傲慢な不純物」によって内側から食い破られ、今や完全に機能不全に陥っている。密集しすぎた村人たちは互いの動きを阻害し、逃げ場を失った後衛にはパニックという名の疫病が伝播していた。


アルト・フェルディスの網膜には、鑑定スキルが弾き出す絶望的な数値が並んでいた。

(防衛線維持率、3パーセント。負傷者増加率、毎秒1.2人。……全滅までの猶予、三〇〇秒以内)


アルトは一歩も動かず、その崩壊の様相を冷徹にスキャンしていた。

怒りはない。焦りもない。ただ、システムが壊れていく過程を冷酷に分析し、再起動リブートのための「一点」を探る。


「……計算外のゴミが混じったな」


アルトの視線の先には、魔物の牙が目前に迫るリュミエラの姿があった。

彼女は倒れた村人の手を取り、自分の安全を完全に度外視して祈りを捧げている。その献身は美しいが、この合理の戦場においては死を招く最大の脆弱性バグでしかなかった。


魔物の爪が空を裂き、彼女の細い首を刈り取ろうとする。


「――同期開始シンクロ


アルトの足元で、土埃が爆ぜた。

身体強化アクセル・出力120パーセント」

筋肉強化マッスル・強制励起」


一瞬。

視覚情報が追いつく前に、アルトの身体は物理限界を超えた加速でリュミエラの背後へと滑り込んだ。

彼は剣を抜かない。左腕一本を突き出し、空中の魔物の顎を鷲掴みにした。


凄まじい衝撃音と共に、魔物の頭部が地面に叩きつけられる。石畳が砕け、肉と骨が潰れる感触がアルトの腕に伝わった。


「アルト……さん……」


震える声で振り返るリュミエラ。彼女の瞳には、死の直前まで迫っていた恐怖と、救われたことへの困惑が混ざり合っていた。


「指示を忘れたか、リュミエラ。位置取りのミスは死に直結する。……下がれ。これ以上はリソースの無駄だ」


アルトの声は、救った相手に対しても変わらず冷淡だった。

だが、事態は一人を救って終わるほど単純ではない。周囲ではバルトロの拙劣な采配により、村人たちが次々と魔物の餌食になろうとしていた。


「どうして……私の指示通りに動かない! 貴様ら、平民の分際で!」


馬車の陰で喚き散らすバルトロを、アルトは一瞥もせず、ただ全神経を「戦場の再定義」へと集中させた。


「エルディア、動け。右翼の瓦礫を壁にして、敵の流入角を十五度に絞れ。リュミエラ、お前は俺の背後二メートルを死守しろ。それ以外はすべて切り捨てる」


「……ようやく私の番か。アルト、貴様のその『冷たい判断』、嫌いではないぞ」


闇の中からエルディアの大剣が閃き、魔物の群れを物理的に分断した。


「全員聞け!」


アルトの声が、戦場の喧騒を圧して響き渡った。

それは勇気づけるための叫びではない。混乱した家畜を正しい檻へと誘導するための、絶対的な強制命令。


「前線を捨てろ! 現状の配置はすべて死に体だ。第二ラインまで全力で下がれ! 背中を見せるな、距離を測って後退しろ!」


村人たちの動きが、一瞬だけ止まる。

バルトロの「押せ」という命令と、アルトの「下がれ」という指示。

だが、どちらに従えば生き残れるか、彼らの本能はすでに理解していた。


「動け! 止まるな! 流れを作れ!」


アルトは自ら先頭に立ち、迫り来る魔物の波を剣一つで押しとどめる。

一撃で一体の心臓を穿ち、返す刀で別の個体の腱を断つ。

その動きには、一分子の迷いも、一ミリの無駄もない。


崩壊した盤面の上に、アルトは強引に新しい「線」を引き直していく。

逃げ惑う村人たちが、その線に沿って動き始めた。

無秩序な敗走が、アルトの指示によって「戦略的撤退」へと変質していく。


(……回収ドレイン。周囲の魔力残滓を三割固定。身体強化の維持に回す)


アルトの身体からは、青白い燐光が立ち昇っていた。

彼は今、自分自身をこの戦場における「最大の計算資源」として稼働させている。


「……来るぞ」


森の奥から、先ほどまでとは比較にならない質量が押し寄せてくる。

大侵攻の本隊。

指揮ミスの代償として、彼らは最悪の状況で「王」を迎え撃つことになった。


アルトは剣を構え直し、背後のリュミエラと、横に並び立つエルディアの気配を感じ取った。


「リュミエラ、さっきのスープの魔力、まだ残っているな? ……俺の回路に接続しろ。無理やり回すぞ」


「……はい! 私の全部、使ってください!」


「エルディア、三〇秒だけ道を拓け。その隙に俺が敵の先鋒を『消去』する」


「……くく、承知した。死ぬなよ、合理のミスター・ロジック


本当の危機は、ここからだ。

無能な支配者が残した瓦礫の山で、アルト・フェルディスという名の「合理」が、絶望を燃料にして最強の出力を叩き出す。


第15話、危機。

夕闇が深まる中、アルトの瞳だけが、冷徹な勝利の座標を捉えていた。

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