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異端の白球使い  作者: R.D
五月雨高校編

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『台上の魔術師』の練習メニュー

「集合!橘コーチと練習メニューの確認を行います!」


 あかねさんの声が体育館に響く。


 ……、部長としてしっかりやってるんだ。私が心を壊して入院しちゃった時も、彼女は違和感から本当は何が起きたのかを突き止めるために行動していたらしいし。


 本当に尊敬できる、友達だ。


 そんな事を考えていたら練習をしていた近藤くんが向き合って礼をしていた。


「葵先輩!練習ありがとうございました!集合に行ってきます!」


 この子、真面目でいい選手だ、結果を出してほしいかも。


「ちゃんと水分も取るようにね!しおりもこまめに水分補給してたんだから!水分補給は甘えじゃなくてパフォーマンスを維持するのに必要なものなんだから!」


「うす!ありがとうございます!」


 近藤くんを見送ってから私も汗を拭きドリンクを飲んでから、練習メニューの説明を見ることにした。


 なんといっても『台上の魔術師』と呼ばれた元世界ランカー、橘選手がコーチとして来ているのだ、気にならないというほうがどうかしている。


 佐藤先生に、しおりが自分の受けた事を教育委員会に話す、と校長を脅して有能なコーチを雇い入れたと聞いたけど、本当に実現させちゃうんだ。


 私は少し嬉しいような、悲しいような気分になっていた。昔からしおりは自分のやりたいことを通すのが得意だった、でもそれは全員が納得できる方法でやっていたものだ。


 いまのしおりは、脅しという手段を使って、弱みを握って操っている、そんなのは、私が好きなしおりじゃない。いや私はしおりが大好きだけど。


 そんな感傷に浸っていると、橘コーチが良く通る声でこれからの練習を説明し始めた。


 「有名校を蹴ってまでこの公立校を選んだ君たちは、とてもリスキーで、でもとても勇気のある選手だと俺は思う、お前たちを必ず全国で戦える選手に鍛えてやる。このホワイトボードに書いてあるのが練習メニューだ」


 橘コーチはホワイトボードを軽く叩き、練習メニューを確認させる。


 パターン練習: 単なる基本のラリーではなく、「自分のサーブから3球目でどう決めるか」「このコースにレシーブされたら、次はどう展開するか」など、実際の試合の戦術を想定した動きを徹底的に体に覚え込ませる。


 多球練習: 指導者やチームメイトが次々と連続して球を出し、厳しいコースに飛びつくフットワークを鍛えたり、特定の技術を反復させる。息が上がるほどハードだが、スタミナも同時に鍛えられる。


 

フットワーク・フィジカルトレーニング: 卓球は「足のスポーツ」と言われるくらい下半身が重要!!


 台の周りを素早く動くためのステップ練習や、ブレない体を作るための体幹トレーニングなど、基礎的な身体能力の向上にも力を入れていく。


 ゲーム練習:常に「大会本番の緊張感」を持って試合形式の練習を行う。ただ試合をするだけでなく、負ければ1台下の台、勝てば1台上の台へ、ランキングをつける。プレッシャーがかかる状況を意図的に作り出してメンタルも鍛え上げる。


「確認したか?これが基本の練習メニューになる。選手一人一人に時間をさく課題練習も入れたいところだが、まだ先だ、まずは基礎と体力、そしてプレッシャーに慣れてもらう」


 こんなしっかり考えてある練習メニュー、見たことない。きっと本格的なんだろうなー、しおりは橘コーチを時代遅れのロートルって酷評してたけど、本気で取り組んでくれるのなら、しおりの評価も変わるかも知れない。


「よし!まずはパターン練習だ!日向!青木!それから俺の三人で面倒を見る!一人15分交代だ、今はまだ指導人数が足りずに人数的に溢れてしまう。ここは校長や顧問に相談して対策を考えてもらっている、改善するまで待つように。


 溢れた人たちは、実力の近いもの同士でサーブ2本交代で、オールコートをひたすらやれ。ランキング戦の開始位置の参考にするから15分間での得点を記録しておくように!」


「青木は一番台、日向は二番台だ、俺は三番台に入る。……他校の生徒にお願いするのも悪いが、こいつらをしごいてくれ」


 橘コーチが私たちに頭を下げる、これから本格的な練習が始まる、そんな気分にさせられる。


「橘さん、顔を上げてください。私は贖罪のためにここに居るんです。せめてしおりさんの代わりぐらいは務めないといけません、こちらこそ、よろしくお願いします!」


 桜さんは頭を下げて、練習に付き合わせてくださいと言わんばかりに話している。


 あかねさんによると、常勝学園、高等部の青木桜という選手の評判は落ちる一方で、今は微妙な立場に追い込まれているらしい。


 中等部の頃は常勝の女王として君臨していたのに、高等部に上がってからは練習に顔を出さずに他校の指導をしている。


 それなのにそのあまりの強さからスタメン枠を一つ奪っているのだ、懸命に練習をしている常勝の生徒としては面白くないだろう。


 でも、それでも彼女は、アイツの罪を知ってからずっと、ここ第五中の指導に心血を注いでいる。


 本気なのだ、本気で妹の罪を共に背負い償おうとしているのだ。


 ……その妹、アイツも球拾いをしているし、卓球部のマネージャーとして活動をしている。


 その人望や他校にまで及ぶ人脈で、アイツは対戦相手になるだろう選手の情報を集めている。ムカつくが部員がケガした時の応急手当の時にも役にたっている。 

 

「日向もいいか……?お前は他校の中3だ、鍛えた奴と大会で当たるかもしれないんだ」


 アイツを睨みつけていると、橘コーチから本当に申し訳なさそうに話される。


 大人が、中学生に向けて本気で向き合って頼んでくれてる。少なくともこの人は、しおりが言ってたような嫌なオトナには見えないかも。


 「大丈夫です!試合になったら本気で向き合う、それだけですから!」

 

 しおりの為だったらなんでもやる、そう、卓球を続けてきたのだってしおりとまた会うためだったんだから。


 私は橘コーチにはっきり告げると、指定された二番台へ向かった。


 しおりがこの光景をみたら褒めてくれるかな?

 ここまでお付き合いいただき、本当に、本当にありがとうございます。 


 まだまだ長い道のりとなる本作ですが、もしよろしければ【ブックマーク】や、画面下の星マーク【☆☆☆☆☆】で応援していただけませんか?


 皆様からの反応が、次の一話を書き上げる最高のエネルギーになります。引き続き、ご自身のペースでゆっくり楽しんでいってください。

 

                   R・D

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