↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『放課後ダンジョン探索部』  作者: ネコロビン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/3

第2探索ねこ ダンジョンで会った同級生

「よし、到着!」

土曜日の午前九時。

朝倉こはるは、桜ヶ丘公園の入口に立っていた。

背中には黒いリュック。小さな白猫のワッペンが、歩くたびにぴょこぴょこと揺れている。

薄い緑色の探索用ジャケットに、丈夫なブーツ。

そして、淡い水色のヘルメット。

いつもの探索装備だ。

「電車代が往復六百円。入場料が五百円だから……」

こはるは指を折って計算する。

「千百円かぁ」

先日投稿した南町公園ダンジョンの地図は、思っていた以上に好評だった。

基本報酬の八百円に加えて、閲覧実績に応じた報酬も少しずつ増えている。

もっとも、まだ大きな金額ではない。

「まあ、今日の地図が売れればいいよね!」

こはるはにっこり笑った。

もともと好きでやっていたダンジョン探索。

そこに、地図を作るという新しい楽しみが加わった。

しかも、お小遣いまで稼げる。

これほど嬉しいことはない。

「さてさて、今日はどんな地図ができるかな〜」

こはるは軽い足取りで、公園の奥へ向かった。

桜ヶ丘公園ダンジョン。

地下四階層からなる初級ダンジョンで、十五年ほど前に踏破されている。

公園の北側に専用の入口が設けられており、現在は初心者向けの探索施設として利用されていた。

魔物はスライムや小型のゴブリンが中心。

危険度は比較的低い。

もちろん、魔物が出現する以上、完全に安全というわけではない。

探索者登録を済ませ、必要な装備を身につけることが入場条件となっている。

入口の受付では、係員のおじさんが探索者証を確認していた。

「はい、朝倉さんね。今日は一人?」

「はい!」

「地下四階まで開放してるけど、無理はしないようにね」

「はーい!」

こはるは元気よく返事をして、入場ゲートを通過した。

その先には、地面へと続く石造りの階段がある。

照明が整備されているのは、最初の階段部分だけ。

その先からは、ダンジョン本来の薄暗い空間が広がっていた。

「うんうん。いい感じ!」

こはるはリュックから小型の魔力灯を取り出す。

スイッチを入れると、柔らかな白い光が周囲を照らした。

続いてスマートフォンを取り出し、公式ダンジョンアプリを開く。

『桜ヶ丘公園ダンジョン』

『難易度:初級』

『踏破状況:踏破済み』

『出現魔物:スライム、ゴブリン、その他小型魔物』

そして、探索情報。

『地下第一階層は比較的単純な構造。中央広間を経由して第二階層へ進める』

こはるは画面をじっと見つめた。

「……うん」

少し間を置く。

「やっぱり雑!」

思わず笑ってしまった。

大まかな案内としては間違っていない。

しかし、実際の通路がどうつながっているのか、部屋がいくつ存在するのか、これだけではさっぱり分からない。

一応、簡単な見取り図も添付されている。

だが、通路は直線ばかりで、部屋の大きさも適当だ。

「これは作りがいがありそう!」

こはるはノートを開いた。

新しいページの一番上に、こう書き込む。

『桜ヶ丘公園ダンジョン・第一階層』

「よし、始めよ!」

《スキャン》。

こはるの右手から、淡い光が広がる。

有効範囲は約一メートル。

その範囲にある壁や床の構造を、正確に把握できる。

「通路の幅、二メートルちょっと……」

こはるはノートに数字を書き込んだ。

数歩進んで、再び《スキャン》。

「ここから少し狭くなるんだね」

また書き込む。

さらに歩く。

右に曲がる。

左に曲がる。

行き止まりも確認する。

「おっ、こっちの通路は大広間につながってるのか」

こはるは楽しそうに探索を続けた。

普通の冒険者なら、目的地へできるだけ早く進もうとする。

魔物を倒す。

素材を集める。

目的の階層へ向かう。

しかし、こはるは違う。

行き止まりがあれば、そこまで歩く。

使われていない通路があれば、調べてみる。

同じ場所を何度も往復することだってある。

「……あれ?」

ある通路で、こはるは足を止めた。

スマートフォンの地図では、ここは真っすぐになっている。

だが、実際には緩やかに曲がっていた。

「なるほど。だからさっきの部屋と位置が合わなかったんだ」

こはるは嬉しそうにノートを修正した。

「こういうのが分かると、気持ちいいんだよね〜」

誰に聞かせるでもなく呟く。

そして、また歩き始めた。

一時間ほど経った頃。

「……あ」

通路の向こうに、一匹のスライムがいた。

半透明の青い体を、ぷるぷると揺らしている。

「こんにちは〜」

こはるは小さな声で挨拶した。

もちろん、返事はない。

スライムはゆっくりと通路を移動していた。

こはるは少し考える。

「……通れないなぁ」

道幅が狭く、スライムを避けて進むのは難しそうだった。

仕方がない。

こはるは腰に下げた短剣へ手を伸ばした。

だが、その瞬間。

スライムが横の小さな穴へ、するりと入り込んだ。

「あ、行っちゃった」

こはるは短剣から手を離す。

「ありがと〜」

そのまま通路を進んだ。

彼女は、魔物との戦闘が嫌いというわけではない。

必要なら戦う。

ただ、積極的に倒したいとは思わない。

魔物を倒すためにダンジョンへ来ているのではないからだ。

「さて、次は……」

ノートを確認する。

「東側の通路だね」

こはるは足取りを軽くした。

それからしばらくして。

「……ん?」

前方から、人の声が聞こえてきた。

「だから、こっちだって!」

「え〜? さっきもこっちって言ってなかった?」

「今回は合ってる!」

「そのセリフ、もう三回目ですよ」

女の子たちの声だった。

こはるは少し首を傾げる。

「学生さんかな?」

このダンジョンは初心者向けなので、学生の利用者も多い。

珍しいことではなかった。

こはるは気にせず、角を曲がった。

すると。

「あっ!」

「え?」

目の前に三人の女の子がいた。

全員、探索用の装備を身につけている。

一人は明るいオレンジ色のジャケット。

もう一人は白い防具に、うさぎのマークが描かれた小さな盾を持っている。

最後の一人は、青い魔法使い用のローブを着ていた。

そのうち、オレンジ色のジャケットを着た女の子が、こはるをじっと見つめた。

「……あれ?」

こはるも相手の顔を見る。

どこかで見たことがある。

「……ん?」

女の子が目を大きく見開いた。

「えっ!? 朝倉さん!?」

「……あ」

こはるも思い出した。

「木村さん?」

木村あかり。

同じ高校の、同じ一年生のクラスメイトだった。

「えええっ!? なんでこんなところにいるの!?」

あかりが驚きの声を上げる。

「え? 探索だけど……」

「一人で!?」

「うん」

「すごっ!」

あかりは目を丸くした。

こはるは不思議そうに首を傾げる。

「そうかな?」

「そうだよ! 私たち三人で来てるのに!」

すると、隣にいた女の子が口を開いた。

「ねえ、あかり。お知り合い?」

「あっ、はい! 同じクラスの朝倉こはるさんです!」

「へえ〜!」

オレンジ色のジャケットを着たあかりが、二人を紹介してくれた。

「こっちが二年生の高梨まひる先輩。うちの部長!」

「よろしくね!」

まひるは元気いっぱいに手を振った。

肩まで伸びた茶色い髪に、活発そうな笑顔。

いかにも行動力がありそうな女の子だ。

「で、こっちが同じ一年生の三浦すずちゃん!」

「よろしくお願いします」

青いローブの少女が、丁寧に頭を下げた。

小柄で、おっとりとした雰囲気の女の子だった。

こはるも軽く会釈する。

「あ、朝倉こはるです。よろしくお願いします」

すると、まひるがにっこり笑った。

「私たち、学校のダンジョン探索部なんだ!」

「……探索部?」

「そう!」

まひるは胸を張った。

「ダンジョンを探索する部活!」

「そのまんまですね……」

すずが小さく呟いた。

「分かりやすくていいでしょ!」

まひるは気にした様子もない。

こはるは目を瞬かせた。

「そんな部活、あったんですね」

「あったの!」

あかりが笑う。

「まあ、部員三人だけなんだけどね〜」

「これから増える予定だから!」

まひるがすかさず付け加えた。

「ところで、朝倉さんは何してたの?」

あかりが尋ねた。

「え?」

「ダンジョンで一人で」

「ああ、地図作ってた」

「……地図?」

こはるはノートを見せた。

そこには、第一階層の通路や部屋の形が細かく描かれていた。

「……え?」

あかりの表情が変わる。

「これ、自分で描いたの!?」

「うん」

「すごっ!!」

今度はまひるまで身を乗り出した。

「ちょっと見せて!」

「あ、はい」

まひるはノートを受け取り、じっと眺める。

「うわ〜! めちゃくちゃ細かい!」

「本当ですね……」

すずも覗き込んだ。

「通路の幅まで書いてあります」

「《スキャン》で測ってるので」

「スキャン?」

あかりが首を傾げる。

「うん。シーフスキルの」

「へえ〜。そんな使い方できるんだ!」

まひるは感心したようにうなずいた。

「私たち、今日ちょっと道を間違えちゃってさ」

「ちょっとじゃないですよ」

すずが即座に訂正した。

「同じところを三回通りました」

「三回も!?」

こはるが驚く。

「だから、三回目は確認だったの!」

まひるが慌てて言い訳した。

あかりが笑う。

「先輩、ずっと『こっちのはず!』って言ってたんだよ」

「だって、アプリの説明が分かりにくいんだもん!」

「……ああ」

こはるは納得した。

「それ、分かります」

「でしょ!?」

まひるが勢いよく顔を近づける。

「『中央広間の先を右』って書いてあるんだけど、中央広間から出られる通路が三つあるんだよ!」

「そうなんですよね〜」

こはるはうなずいた。

「それに、実際には少し曲がってる通路もあるので」

「そう! それ!」

まひるは嬉しそうに手を叩いた。

「朝倉さん、分かってる〜!」

こはるは少し照れた。

「えへへ……」

「ねえ、朝倉さん」

あかりが尋ねる。

「この地図、どこまで描けてるの?」

「今は第一階層の東側までかな」

「じゃあ、中央広間までの道も分かる?」

「うん」

「教えてくれない?」

「いいよ」

こはるはノートを開いた。

「今いるのが、ここ」

三人が覗き込む。

「で、こっちの通路を進んで、二つ目の角を左に曲がると……」

「ふむふむ」

「その先に広間があるよ」

「おお〜!」

まひるが目を輝かせた。

「分かりやすい!」

「でも、こっちから回った方が近いかも」

こはるは別の通路を指さした。

「えっ、そっちもつながってるの!?」

「うん。さっき確認した」

「すごい!」

まひるは感心したようにうなずいた。

「あれ? だったら朝倉さんも一緒に来ない?」

「……え?」

こはるが顔を上げる。

「私たち、中央広間に行こうと思ってたんだ!」

「そうなんだ」

「どうせなら一緒に探索しようよ!」

こはるは少し迷った。

いつもは一人で探索している。

誰かと一緒に歩くことは、ほとんどない。

それに、まだ調べていない通路も残っている。

「……でも、私、地図作りながらだから、結構ゆっくりだよ?」

「いいよいいよ!」

まひるは即答した。

「私たちも急いでないし!」

「そうそう!」

あかりもうなずく。

「それに、朝倉さんの地図、もっと見てみたい!」

すずも微笑んだ。

「私も、興味あります」

三人に見つめられ、こはるは少し困ったように笑った。

「……じゃあ、中央広間までなら」

「やったー!」

まひるが両手を上げた。

「よーし! 出発!」

「あ、先輩」

すずが呼び止める。

「そっち、逆方向ですよ」

「えっ!?」

「中央広間は、こちらです」

こはるが反対側を指さした。

「……あはは!」

まひるは笑ってごまかした。

こうして、こはるは初めて三人の女子高生と一緒にダンジョンを歩くことになった。

先頭はまひる。

その後ろにあかりとすず。

こはるは最後尾を歩きながら、ときどきノートへ書き込んでいる。

「ねえ、朝倉さん」

あかりが振り返った。

「なに?」

「普段も一人でダンジョンに来るの?」

「うん。結構来てるよ」

「へえ〜! 知らなかった!」

「学校じゃあんまり話さないもんね」

「そうだね〜」

あかりは笑った。

「なんか意外! 朝倉さんって、もっとインドアな人かと思ってた!」

「家にいるのも好きだよ」

「そうなの?」

「うん。ゲームとかもするし」

「へえ〜!」

そんな会話をしながら、四人は通路を進んでいく。

途中、スライムが一匹現れた。

「あっ、魔物!」

まひるが小さな剣を構える。

「よーし、私に任せて!」

「先輩、落ち着いてください」

すずが杖を持ち上げた。

「まだ向こうは気づいてませんよ」

「えっ?」

こはるが口を開く。

「右の通路を通れば、戦わなくても行けるよ」

「……あ」

まひるは剣を下ろした。

「そっか!」

あかりが笑う。

「先輩、すぐ戦おうとするんだから〜」

「だって、せっかくダンジョンに来たんだよ!?」

「今日は探索が目的でしょう?」

すずが冷静に返した。

「……そうでした」

こはるは思わず笑った。

「あはは」

なんだか、賑やかな人たちだ。

いつも一人で歩くダンジョンとは、ずいぶん違う。

でも。

(……こういうのも、悪くないかも)

少しだけ、そんなことを思った。

やがて、四人は中央広間へ到着した。

天井の高い、円形の大きな空間。

壁には古い石柱が並び、中央には壊れた噴水のようなものがある。

「到着ー!」

まひるが嬉しそうに両手を上げた。

「やっと来られた〜!」

あかりも笑う。

「朝倉さんのおかげだね!」

「そんなことないよ」

こはるは少し照れながら答えた。

「でも、ありがとう!」

あかりがにっこり笑う。

こはるも笑い返した。

その後、四人は広間の端にある休憩用のベンチに座った。

飲み物を取り出し、それぞれ一息つく。

「そうだ、朝倉さん」

まひるが突然口を開いた。

「今度、うちの部室に遊びに来ない?」

「……部室?」

「そう! 探索部!」

こはるは首を傾げた。

「私、部員じゃないですけど……」

「別にいいよ! 見学だけでも!」

「そうそう!」

あかりも身を乗り出した。

「月曜日の放課後、暇だったら来てよ!」

「うーん……」

こはるは少し考えた。

月曜日の放課後。

特に予定はない。

次のダンジョンの情報を調べるつもりだったが、家に帰ってからでもできる。

「……じゃあ、ちょっとだけ」

「やった!」

まひるが嬉しそうに笑った。

「新しい仲間候補だ!」

「まだ入部するって言ってないですよ」

すずが呆れたように言う。

「いいのいいの! まずは遊びに来てもらうところから!」

こはるは三人のやり取りを眺めて、小さく笑った。

その日の夕方。

家に帰ったこはるは、いつものようにパソコンへ向かっていた。

今日調べた第一階層の地図を清書する。

「……ここは、もう少し広いかな」

ノートを見ながら、通路の形を修正していく。

そして、ふと思い出した。

『朝倉さんの地図、もっと見てみたい!』

あかりの言葉。

『今度、うちの部室に遊びに来ない?』

まひるの笑顔。

『私も、興味あります』

すずの穏やかな声。

「……探索部かぁ」

こはるは小さく呟いた。

今まで、ダンジョンは一人で探索するものだった。

自分の好きな道を歩いて、自分の好きな場所を調べる。

誰かに合わせる必要もない。

それが楽しかった。

でも、今日の探索も意外と楽しかった。

「あの人たち、面白かったなぁ」

こはるは少し笑う。

そして、パソコンの画面へ視線を戻した。

完成した地図を確認する。

「よし、これで第一階層は完成!」

公式ダンジョンアプリを開き、投稿画面へ進む。

投稿者名は、もちろん『探索ねこ』。

『桜ヶ丘公園ダンジョン・第一階層詳細マップ』

投稿ボタンを押す。

『投稿を受け付けました』

「よーし!」

こはるは満足そうに伸びをした。

そのまま、先日投稿した南町公園ダンジョンの地図を確認する。

レビューがまた増えていた。

『探索ねこさんの地図、本当に助かります!』

『ほかのダンジョンもお願いします!』

『次の投稿を楽しみにしています!』

「……えへへ」

思わず頬が緩む。

自分が作った地図を、誰かが待ってくれている。

それは、とても嬉しいことだった。

「次は地下二階かな〜」

こはるはスマートフォンで予定を確認した。

次の土曜日は、まだ何も入っていない。

「……よし!」

新しい予定を入力する。

『桜ヶ丘公園ダンジョン・地下二階探索』

そして、月曜日の欄にも、一つ書き加えた。

『放課後・探索部の見学』

「……ふふっ」

こはるは画面を眺めて、小さく笑った。

ダンジョンの地図を作り始めてから、まだそれほど時間は経っていない。

けれど、少しずつ新しいことが増えている。

初めての地図投稿。

初めての報酬。

初めてのレビュー。

そして今日は、初めて誰かと一緒にダンジョンを歩いた。

「……月曜日、どんな部室なんだろ?」

少しだけ楽しみだった。

もっとも、彼女はまだ知らない。

今日出会った三人が、匿名の地図クリエイター『探索ねこ』の地図を、すでに知っていることを。

そして月曜日。

小さな探索部の部室で、思いもよらない会話が始まることを。

第2話 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。