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『放課後ダンジョン探索部』  作者: ネコロビン


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3/3

第3探索ねこ 放課後の探索部

月曜日。

「朝倉さん!」

昼休みの教室で、朝倉こはるは名前を呼ばれた。

振り返ると、木村あかりが笑顔で立っている。

「あ、木村さん」

「今日の放課後、覚えてる?」

「うん。探索部の見学だよね」

「そうそう! 忘れてたらどうしようかと思った!」

「ちゃんと覚えてるよ〜」

こはるは小さく笑った。

先週の土曜日。

桜ヶ丘公園ダンジョンで、偶然出会った三人の女の子。

そのうちの一人が、同じクラスのあかりだった。

一緒にダンジョンを探索して、帰り際に部室へ誘われたのだ。

「部室って、どこにあるの?」

「旧校舎の二階だよ!」

「旧校舎?」

「うん! ちょっと古いけど、結構広いんだよ〜」

「へえ〜」

こはるは少し興味を持った。

旧校舎には、普段あまり行く機会がない。

「放課後になったら一緒に行こう!」

「うん。よろしくね」

あかりは嬉しそうに笑うと、自分の席へ戻っていった。

こはるは机の上に置いたスマートフォンへ視線を落とす。

画面には、公式ダンジョンアプリの通知が表示されていた。

『桜ヶ丘公園ダンジョン・第一階層詳細マップ』

『審査通過のお知らせ』

「……おっ」

思わず小さな声が出た。

土曜日に投稿した地図が、無事に採用されたらしい。

基本報酬も付与されている。

「えへへ……」

こはるは口元を緩めた。

そして、誰にも見られないようにスマートフォンを伏せた。

匿名地図クリエイター『探索ねこ』。

それが、こはるのもう一つの顔だった。

放課後。

「こっちこっち!」

あかりに案内され、こはるは旧校舎へやって来た。

新校舎と比べると、少し古びた建物だ。

廊下の床は木製で、歩くたびに小さく音が鳴る。

「なんか、雰囲気あるね」

「でしょ〜? 私も最初そう思った!」

二人は階段を上がり、二階の廊下を進んだ。

突き当たりに、一枚の扉がある。

扉には手作りの看板が掛けられていた。

『ダンジョン探索部』

その横には、かわいらしい剣と盾のイラスト。

さらに小さな文字で、

『部員募集中!』

と書かれている。

「……かわいい看板だね」

「部長が描いたんだよ!」

「へえ〜」

「ちなみに剣が曲がってるのは、わざとじゃないらしいよ」

「えっ?」

こはるがよく見ると、確かに剣が少し曲がっていた。

「……あはは」

思わず笑ってしまう。

あかりは勢いよく扉を開けた。

「ただいまー!」

「おかえりー!」

元気な声が返ってくる。

部屋の奥には、高梨まひるがいた。

土曜日に出会った、二年生の部長だ。

「おおっ! 朝倉さん!」

「こんにちは」

「いらっしゃーい!」

まひるは両手を広げて歓迎した。

その横では、三浦すずが机に向かって本を読んでいる。

「あ、朝倉さん。こんにちは」

「こんにちは、三浦さん」

すずは穏やかに微笑んだ。

「ささっ! 座って座って!」

まひるに促され、こはるは空いている椅子に腰を下ろした。

そして、部室を見渡す。

「……おお〜」

思っていたより、ずっと本格的だった。

壁には日本各地のダンジョン分布図。

棚には魔物図鑑や古代遺跡の資料。

探索用のロープや予備の魔力灯も置かれている。

そして部屋の一角には、ヘルメットや盾などの装備品。

なぜか、どれもかわいらしい。

ピンク色のヘルメット。

花柄の防具。

猫のシールが貼られた魔力灯。

「あ、これかわいい!」

こはるは棚に置かれた小さな魔力灯を指さした。

「あっ、それ私の!」

あかりが嬉しそうに答える。

「猫ちゃんのシール、かわいいでしょ!」

「うん!」

「実は私、猫好きなんだ〜」

「私も!」

「えっ! 本当!?」

二人は顔を見合わせた。

「じゃあ今度、かわいい装備のお店教えてあげる!」

「行きたい!」

思わず声が弾む。

その様子を見て、まひるがにやりと笑った。

「ふふふ……」

「……なんですか、先輩?」

あかりが振り返る。

「いや〜、仲良くなってるなぁと思って」

「いいじゃないですか!」

「いいよいいよ! 大歓迎!」

すずが本から顔を上げた。

「部長、まだ入部すると決まったわけではありませんよ」

「分かってるって!」

まひるは笑いながら答えた。

「今日は見学! 見学だから!」

こはるは少し安心した。

どうやら、無理やり入部させられることはなさそうだ。

「さて!」

まひるが机を軽く叩いた。

「せっかく朝倉さんが来てくれたので、我が探索部の活動を紹介しよう!」

「おお〜」

あかりが拍手する。

すずも小さく手を叩いた。

「まず、活動日は基本的に月曜日と水曜日!」

まひるが指を一本立てる。

「放課後は部室で情報収集や探索計画を立てます!」

「ふむふむ」

「そして土日には、実際にダンジョンへ行きます!」

「毎週行くんですか?」

こはるが尋ねる。

「行けるときはね! 試験期間とかはお休み!」

「なるほど〜」

「活動内容は自由!」

まひるが胸を張った。

「魔物の観察! 素材の採取! 古代遺跡の調査! 新しいダンジョンの探索!」

「結構いろいろやるんですね」

「そうなのだ!」

まひるは嬉しそうに笑った。

「私たちの目的は、ダンジョンを楽しむこと!」

その言葉に、こはるは少し目を輝かせた。

「……いいですね、それ」

「でしょ!?」

まひるは満足そうにうなずく。

「もちろん安全第一! 無理な探索は禁止!」

「先輩が一番無茶しそうですけど」

すずが静かに言った。

「しないよ!?」

「土曜日、道が分からないのに先頭を歩き続けていましたよね」

「うっ……」

あかりが笑う。

「しかも三回も同じところ通ったし!」

「だから、あれは確認だったの!」

部室に笑い声が広がった。

こはるも、つられて笑っていた。

「そういえば!」

あかりがスマートフォンを取り出した。

「土曜日の桜ヶ丘公園ダンジョン、地図が新しくなったんだよ!」

「……え?」

こはるの手が止まった。

「ほら、これ!」

あかりが画面を見せてくる。

そこには、見覚えのある地図が表示されていた。

『桜ヶ丘公園ダンジョン・第一階層詳細マップ』

作成者。

『探索ねこ』

(……あ)

こはるは思わず画面を見つめた。

(私の地図だ)

「すっごく分かりやすいんだよ!」

あかりは嬉しそうに画面を指さした。

「通路の幅もちゃんと描いてあるし、部屋の位置も正確なの!」

「へ、へえ〜」

こはるは平静を装う。

まひるも身を乗り出した。

「私も昨日見た! これすごいよね!」

「ですよね!」

すずがうなずく。

「私も確認しました。既存の地図とは精度が全然違います」

「そうそう!」

まひるは画面を指さした。

「特にここ! 中央広間までの道がすごく分かりやすい!」

「……うん」

こはるは小さくうなずいた。

(そこ、結構頑張ったところだ)

あかりが画面をスクロールする。

「この探索ねこさんって人、ほかにも地図投稿してるんだよ!」

「あ、そうなんだ」

「南町公園ダンジョンの地図も作ってるの!」

「へえ〜……」

(それも私です)

「しかも、レビューがすごくいいんだよ!」

まひるが感心したように言った。

「一体どんな人なんだろうね〜」

「プロの探索者じゃないですか?」

すずが答える。

「これだけ正確な地図を作れるなら、相当な経験があると思います」

「だよね!」

あかりが大きくうなずいた。

「きっとベテランのシーフさんだよ!」

「……あはは」

こはるは曖昧に笑った。

(高校一年生です……)

「私、一度会ってみたいな〜!」

あかりが楽しそうに言う。

「地図の作り方とか教えてもらいたい!」

(毎日同じ教室にいるんだけど……)

こはるはそっと麦茶を飲んだ。

なんだか、妙に落ち着かない。

自分の作った地図を目の前で褒められるのは、嬉しい。

とても嬉しい。

でも、恥ずかしい。

それに、自分から正体を明かすのもなんだか違う気がした。

(……まあ、言わなくてもいいよね)

別に隠さなければならない理由があるわけではない。

ただ、なんとなく。

『探索ねこ』という名前で活動するのが気に入っているのだ。

「ところで朝倉さん!」

まひるが声をかけてきた。

「はい?」

「土曜日に描いてた地図、どうなったの?」

「……あ」

こはるは少し考えた。

「第一階層は完成しました」

「えっ!? もう!?」

「はい」

「すごーい!」

まひるが目を丸くする。

あかりも驚いた。

「朝倉さん、本当に地図作るの好きなんだね!」

「うん!」

こはるは笑顔で答える。

「結構楽しいよ!」

「へえ〜」

まひるは感心したようにうなずいた。

「私、地図描こうとしたことあるけど、途中で面倒になっちゃって」

「そうなんですか?」

「うん。だって、通路を歩きながら細かいところまで調べるの大変じゃない?」

「……ああ」

こはるは納得した。

確かに、それはそうだ。

魔物が出現するダンジョンで、地図作成に集中するのは簡単ではない。

普通の探索者なら、ある程度道順が分かれば十分だろう。

しかし、こはるは違う。

「私は、それが楽しいんです」

「……おお」

まひるが目を輝かせた。

「いいね! そういうの!」

そして、突然立ち上がった。

「よーし!」

「……?」

こはるが首を傾げる。

まひるは壁に貼られた日本地図を指さした。

「じゃあ、朝倉さんにも我が探索部の夢を教えてあげよう!」

「夢?」

「そう!」

まひるの指が、日本地図の中央付近で止まった。

富士山。

その麓には、大きな赤い丸が描かれていた。

『富士の大穴ダンジョン』

「……あ」

こはるも、その名前は知っていた。

日本最大級の未踏破ダンジョン。

富士山麓に存在する巨大な地下迷宮だ。

国の専門調査機関が長年探索を続けているものの、いまだに最深部は確認されていない。

その全階層数すら不明。

現在は調査済みの一部区域だけが、一般探索者にも開放されている。

全国的に有名なダンジョンだった。

まひるは大きく息を吸い込んだ。

そして。

「私たちはいつか!」

両手を広げる。

「富士の大穴ダンジョンを踏破するのだ〜!!」

「おお〜!」

あかりが拍手した。

すずも微笑む。

こはるは目を丸くした。

「……富士の大穴?」

「そう!」

まひるは胸を張った。

「まだ誰も最深部まで行ってないんだよ!? すごいと思わない!?」

「……すごいですね」

「でしょ!?」

「でも、国の調査隊でも踏破できてないんですよね?」

「そうだよ!」

「……」

こはるは少し考えた。

そして、ぽつりと呟く。

「……地図、どうなってるんだろ」

「え?」

まひるが聞き返す。

「あ、いや……」

こはるは壁の地図を見つめた。

日本最大級。

未踏破。

全階層数不明。

つまり、それだけ多くの未知の通路が残されているということだ。

(……どんな形なんだろう)

巨大な広間。

複雑に入り組んだ通路。

まだ誰も見つけていない隠し部屋。

想像するだけで、胸がわくわくしてくる。

「……行ってみたいなぁ」

思わず本音がこぼれた。

「おっ!?」

まひるが反応した。

「朝倉さんもそう思う!?」

「え? あ、はい」

「いいねいいね!」

まひるは嬉しそうに笑った。

「じゃあ一緒に踏破しよう!」

「いや、いきなりは無理ですよ!?」

「いつか! いつかだから!」

あかりが笑う。

「先輩、いつも言ってるんだよ〜」

すずもうなずいた。

「今のところ、近場の初級ダンジョンが中心ですけどね」

「夢は大きく!」

まひるは満面の笑みを浮かべた。

こはるも、つられて笑ってしまった。

「さて、次の活動なんだけど!」

まひるが机に一枚のプリントを広げた。

『次回探索計画』

そこには、桜ヶ丘公園ダンジョンの名前が書かれていた。

「今度の土曜日、また桜ヶ丘に行こうと思ってるんだ!」

「またですか?」

こはるが尋ねる。

「うん! 今度は地下二階!」

「……あ」

こはるの目が少し輝いた。

実は、彼女も土曜日に地下二階を調べようと思っていたのだ。

「朝倉さん、土曜日って予定ある?」

あかりが尋ねる。

「えっと……桜ヶ丘に行こうと思ってた」

「ええっ!? 本当!?」

「うん。地下二階の地図を作りたくて」

「じゃあ、ちょうどいいじゃん!」

まひるが嬉しそうに手を叩いた。

「一緒に行こうよ!」

「……でも」

こはるは少し迷った。

「私、地図を作るから、かなりゆっくり進みますよ?」

「いいよ!」

まひるは即答した。

「むしろ、地図作りを見てみたい!」

あかりもうなずく。

「私も! この前すごかったし!」

すずは少し考えてから言った。

「それなら、私たちにもできることがあるかもしれませんね」

「……できること?」

こはるが聞き返す。

「はい。地図を描いている間、周囲を警戒したり、魔物が来たら対応したり」

「あっ!」

あかりが声を上げた。

「それいいね!」

まひるもうなずく。

「朝倉さんが地図を描いて、私たちが護衛!」

「……護衛」

こはるはその言葉を繰り返した。

今まで、そんなことを考えたことがなかった。

ダンジョンでは、すべて一人でやってきた。

魔物を避けるのも。

周囲を警戒するのも。

地図を作るのも。

だから、誰かが周りを見ていてくれるというのは、少し不思議な感覚だった。

「……それ、助かるかも」

こはるは小さく笑った。

「でしょ!?」

まひるが嬉しそうに言った。

「じゃあ決まり!」

「えっ?」

「土曜日、一緒に探索しよう!」

こはるは少し考えた。

そして。

「……うん!」

にっこり笑った。

「よろしくお願いします!」

「やったー!」

あかりが両手を上げた。

まひるも嬉しそうに笑う。

すずは静かにうなずいた。

こうして、こはるは二度目の合同探索に参加することになった。

帰宅後。

こはるは自分の部屋で、いつものようにパソコンを開いていた。

公式ダンジョンアプリのクリエイター管理画面を確認する。

『探索ねこ』

『公開マップ:2件』

『新着レビュー:5件』

「おお〜、増えてる!」

こはるは嬉しそうに画面をスクロールした。

桜ヶ丘公園ダンジョンの地図にも、さっそくレビューが付いていた。

『第一階層の構造がとても分かりやすかったです!』

『これなら初心者でも迷わず探索できます!』

『地下二階の地図も期待しています!』

「……ふふっ」

こはるは思わず笑った。

「地下二階、ちょうど作る予定なんだよね〜」

次に収益画面を開く。

南町公園ダンジョンの地図も、少しずつ利用され続けていた。

報酬が積み重なっている。

「お〜! いい感じ!」

こはるは満足そうにうなずいた。

この調子なら、新しい探索用の手袋を買えるかもしれない。

今使っているものも悪くないが、最近見つけた猫の肉球模様の手袋が、少し気になっているのだ。

「……あれ、かわいかったなぁ」

こはるは通販サイトを開く。

淡いグレーの探索用グローブ。

手の甲には、小さな肉球のマーク。

もちろん、耐久性も十分。

シーフスキルの使用を妨げない素材で作られている。

「……欲しい」

価格を見る。

『4,800円』

「……うーん」

少し悩む。

「今月の収益がもうちょっと増えたら……かな」

こはるは商品をお気に入りに登録した。

そして、今週末の予定を確認する。

『土曜日・桜ヶ丘公園ダンジョン地下二階』

その横に、小さく書き加えた。

『探索部のみんなと一緒』

「……えへへ」

なんだか、少し楽しみだった。

一人で探索するのも好き。

でも、誰かと一緒に探索するのも、意外と面白い。

地図を作っている間、周囲を見ていてくれる人がいる。

それに、発見したものをその場で誰かと話せる。

「……どんな感じになるんだろ」

こはるは椅子にもたれかかり、天井を見上げた。

そして、ふと思い出す。

『私、一度会ってみたいな〜!』

昼間、あかりが言っていた言葉。

探索ねこに会ってみたい。

「……あはは」

こはるは小さく笑った。

「まさか、同じクラスだとは思わないよね〜」

別に隠し通すつもりはない。

でも、自分から言うのもなんだか恥ずかしい。

だから、もう少しだけ。

『探索ねこ』の正体は、秘密にしておこう。

「……さて!」

こはるはパソコンに向き直った。

次の地図作成に向けて、準備を始める。

地下二階の既存情報。

出現する魔物。

階段の位置。

探索者たちの投稿。

「……あれ?」

一つの情報が目に留まった。

『地下二階・西側通路について』

『行き止まりとされている場所で、不自然な壁の継ぎ目を確認』

『詳細不明』

「……へえ」

こはるは画面をじっと見つめた。

不自然な壁の継ぎ目。

それは、ただの建造上の特徴かもしれない。

でも。

「……隠し扉だったりして」

こはるの口元が、自然と緩んだ。

踏破済みダンジョンでも、すべての場所が調べ尽くされているとは限らない。

まだ誰も気づいていない通路。

まだ発見されていない小さな部屋。

そんなものが残っている可能性もある。

「……ふふっ」

こはるはノートを取り出した。

そして、土曜日の調査予定に一行書き加える。

『西側通路の壁を確認すること』

その下に、小さな猫の顔を描いた。

「……よし!」

楽しみが、また一つ増えた。

第3話 完

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