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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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天使族の野戦食『緑の絶望』からの逃亡者。見習い女神様、特製フルーツパフェの前に堕天しかける。

天使族の野戦食『緑の絶望』からの逃亡者。見習い女神様、特製フルーツパフェの前に堕天しかける。

 天界――神々と天使たちが住まう、清浄なる空間。

 その一角にある食堂で、見習い女神のリリスは絶望の淵に立たされていた。

「さぁリリス。今日の配給糧食レーションです。残さず食べなさい」

 生真面目な天使長ヴァルキュリアが、満面の笑みでトレイを差し出す。

 そこに乗っているのは、鈍器のように硬い黒パン『ホーリー・ブリック』と、グラスになみなみと注がれた深緑色の液体――ヴァルキュリア特製の高濃度青汁、通称『緑の絶望』である。

「うぅぅ……またこれぇ……?」

 リリスは、初心者マークの刺繍が入ったピンク色のジャージ(女神の正装)をギュッと握りしめ、涙目で抗議した。

「ヴァルキュリアお姉ちゃん……私、もっと甘いものが食べたいよぉ……。これ、苦いし青臭いし、飲むと三日くらい口の中が草むしりした後のグラウンドの味がするんだもん……」

「何を甘えたことを言っているのです! これはルチアナ様が使い込んだ予算をカバーしつつ、天使に必要な神気を完璧に補給する究極の完全栄養食です! 良薬口に苦し。さぁ、一気に飲み干しなさい!」

「いやぁぁぁっ! ルチアナ先輩はこっそり人間界でラーメン食べてるのに、なんで私だけこんな罰ゲームみたいなご飯なのぉぉっ!」

 リリスは叫びながら、手元の『エンジェルすまーとふぉん』を操作した。

 画面には、最近天界のゴッドチューブで大バズりしている配信枠――ポポロ村の『デパート』の映像が映っている。

 兵士たちが涙を流しながら美味しそうなお弁当を頬張る姿。

 ガラスケースに並ぶ、色とりどりの美しいスイーツ。

(あんなの……あんなの見ちゃったら、もう我慢できないよ……!)

「発動――空間転移!」

 リリスは残された神力を振り絞り、エンジェルすまーとふぉんの角で空間を叩き割る(物理)。

 ポッカリと開いたワープゲートに、彼女は涙ながらに飛び込んだ。

「ああっ、リリス! まだ青汁のプロテイン割りが残っていますよ!」

「絶対に嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

   * * *

 ポポロ村、デパート前。

 ルナミス帝国軍との特大兵站契約を取り付け、ウハウハ状態のニャングルが算盤の手入れをしていると、上空からピンク色の物体が降ってきた。

 ――ドスッ!

「痛ひっ!」

 見事な顔面着地を決めたのは、ピンク色のジャージを着て、健康サンダルを履いたツインテールの少女だった。

 頭の上には、なぜか蛍光灯のように光る『天使の輪(光輪)』がフワフワと浮いている。

「な、なんや突然!? 空からジャージの女が降ってきたで!」

「あらあら、大丈夫ですか?」

 私が慌てて駆け寄ると、少女はフラフラと立ち上がり、私のエプロンをガシッと掴んだ。

「あ、甘いもの……。お願い、激甘のスイーツを私にください……口の中の青汁の味を上書きしないと、私、神様やめちゃう……」

「神様……?」

「おいコトネはん、騙されたらアカンで。こんな安っぽいジャージ着た神様がおるかいな。どうせタダ食い狙いの詐欺師や。ジークはん、つまみ出――」

「お金ならあるもん!!」

 リリスが、エンジェルすまーとふぉんをバシッと突きつけた。

「ルチアナ先輩のクレジットカード(限度額100万円・残り枠わずか)が紐付けされてるから、これで決済できるもん! だからお願い、一番甘くて、一番美味しいものを食べさせてぇぇっ!」

「……ほぅ? 魔法のカード決済とな?」

 ニャングルの猫耳がピクッと動き、その目に『¥』のマークが浮かんだ。

「お客様! ようこそゴルド商会提携『デパート・コトネ』へ! ワイは財務担当のニャングル言います。どうぞテラス席へ! コトネはん、このVIPに最上級の甘味を出したってや!」

「あ、うん。わかったわ!」

 私は急いで厨房へと向かった。

 青汁の苦味に絶望し、極限まで『甘味』を欲しているお客様。

 それなら、ただ甘いだけではなく、心も体も満たされる究極のデザートを出さなければパティシエのちがすたるというもの。

「発動――【デパート】。最上階フルーツパーラー、季節の特選パフェセット!」

 空間から、パフェ用の背の高いクリスタルグラスと、厳選された素材が次々と現れる。

 私は手早く調理を開始した。

 グラスの底には、甘酸っぱい特製ベリーソース。

 その上に、サクサクの高級グラノーラと、口溶けの滑らかなパンナコッタを重ねる。

 中央には、マダガスカル産バニラビーンズを限界まで使用した、濃厚なプレミアムバニラアイスと、爽やかなイチゴのソルベ。

 そしてトップを飾るのは――デパ地下青果店が誇る、糖度MAXの『静岡産クラウンメロン』と『博多あまおう』の豪快なカット。

 隙間を北海道産の純生クリームで埋め尽くし、仕上げに金箔と飴細工をトッピングすれば完成だ。

「お待たせいたしました! 当デパート特製、『至高のフルーツパフェ』です!」

 私がテラス席にパフェを運ぶと、リリスちゃんの瞳がキラキラと星のように輝いた。

「うわぁぁぁぁ……! 宝石箱みたい……! 天界の供物でも、こんなに綺麗なもの見たことないよ……!」

「溶けないうちに、どうぞ召し上がれ」

 リリスちゃんは震える手で長いパフェスプーンを持ち、まずは頂上の『あまおう』と生クリームをすくい、口へと運んだ。

「――――ッ!!」

 リリスちゃんの体が、ビクゥッ!と跳ねた。

「あ、甘い……! 生クリームが雪みたいにフワフワで、口の中でスッと消えちゃう……! でもミルクの濃厚なコクはしっかり残ってて、そこにイチゴのジューシーな果汁と強烈な甘味が合わさって……っ!」

 あまりの美味しさに、彼女の目から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「私……三日間ずっと、ヴァルキュリアお姉ちゃんの『ホーリー・ブリック(激硬黒パン)』と『緑の絶望(青汁)』しか口にしてなかったの……。噛んでも噛んでも石みたいで、飲めば飲むほど雑草の味がして……」

「うわぁ……それは過酷ですね」

「でも、これは違う……! 甘くて、冷たくて、幸せの味がする! バニラアイスの香りが鼻を抜けて、サクサクのグラノーラが食感のアクセントになって……もう、止まらないよぉっ!」

 リリスちゃんは無我夢中でパフェを掘り進めていく。

 その表情は、もはや聖なる女神のものではなく、欲望に忠実な一人の食いしん坊な女の子の顔だった。

 ――ピコンッ、チカチカチカッ。

「ん? おい社長」

 テラス席の隅で、黄金のフランスパンを抱えてうたた寝していたジークが、片目を開けてリリスの頭上を指さした。

「あのジャージ女の頭の上にある『光の輪』。さっきまで白く輝いてたのに、パフェ食うごとに徐々に黒ずんできてないか? なんかアラーム音みたいなのも鳴ってるし」

「えっ!? ほんとだ、真っ黒になって点滅してる!」

 慌ててリリスちゃんを見ると、彼女はパフェの最後のベリーソースを飲み干し、恍惚とした表情で空を仰いでいた。

「あぁ……もう神様とかどうでもいいかも……。私、天界の仕事辞めて、このお店の子になる……毎日パフェ食べて、コタツで寝るんだぁ……へへへ……」

「アカン! コトネはん、こいつ完全に『堕天』しかけとるで! 欲望に負けて悪魔の属性に反転しようとしとる!」

「ええええっ!? 私のパフェのせいで女神様が堕天!? ダメよリリスちゃん、しっかりして! 清らかな心を取り戻して!」

 私が慌てて肩を揺さぶると、リリスちゃんは「ハッ!」と我に返り、頭上の輪っかもギリギリのところで元の白い輝きを取り戻した。

「あぶないあぶない……あまりの美味しさに、自我が溶けちゃうところだったよ……」

「本当に危なかったですよ……」

 パティシエとしての腕が、まさか神のことわりすら揺るがしてしまうとは。

 デパ地下スイーツ、恐るべしである。

「ぷはぁっ、ごちそうさまでした! 命拾いしたよ、お姉ちゃん!」

「お粗末様でした。それで、お会計なんやけど……」

 ニャングルが、スッと伝票を差し出した。

「パフェ代、並びに『堕天しかけた魂の救済手数料(精神的ケア代)』を含めて、金貨一枚(一万円)になりますー」

「パフェ一つにどんだけ上乗せしてんだお前は」

 ジークがジト目でツッコミを入れるが、ニャングルはどこ吹く風だ。

「いいよ! カードで払うもん!」

 リリスちゃんが『エンジェルすまーとふぉん』を伝票にかざすと、チャリン♪と小気味良い音が鳴り、ニャングルの手元の端末(いつの間にかデパートから出していたレジスター)に決済完了の通知が表示された。

「おおおっ! これが『キャッシュレス決済』っちゅうやつか! 金貨の重さすらなく、数字だけで金をむしり取れる……コトネはん、天界のシステム、最高にエグくて便利やで!!」

「ニャングルさん、悪い顔になってる、悪い顔になってるから!」

 こうして、過酷なレーションから逃亡してきた見習い女神のリリスちゃんは、無事に(?)パフェの代金を先輩女神のカードで支払い、デパートの常連客となった。

 

「ここに来れば、美味しいものが食べられるんだね! 私、明日も絶対に来るから!」

 ブンブンと手を振って、ワープゲートで天界へと帰っていくピンクのジャージ。

「……なぁ社長」

「なんですか、ジークさん」

「うちの店、変人教師にメンヘラ騎士、腹ペコ兵士にポンコツ女神……客のクセが強すぎないか? そのうち魔王とか来そうだぞ」

「ふふっ、デパートはどんなお客様でも大歓迎ですよ!」

 私は冗談めかして笑ったが。

 ジークのその呟きが、まさか翌日に現実のものとなるとは、この時の私たちは知る由もなかったのである。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございます!

第8話、天界からの刺客(?)見習い女神リリスが登場しました!

罰ゲームのような野戦食「緑の絶望(極苦青汁)」から逃げ出し、コトネの特製フルーツパフェの圧倒的な甘味の前に、あわや『堕天』しかけるポンコツっぷり!

そしてちゃっかりルチアナのカードで決済させるニャングルの容赦なさ(笑)。

これで神界へのキャッシュレス・パイプも繋がりました!

次回、ジークのフラグが即回収されます。

ポポロ競馬場帰りの魔族穏健派・ルーベンスがお忍びで来店!?

デパ地下の「高級おつまみセット」と「銘酒」の前に、皮肉屋の貴公子が骨抜きにされる第9話をお楽しみに!

【読者の皆様へのお願い】

「フルーツパフェ食べたい!」「堕天しかけるの草」「ジークのフラグ建築士w」と思っていただけましたら、

ぜひ画面下部の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』にタップして、コトネのデパートを応援してください!

皆様の評価ポイントが、作者の最強のバフ(神の恩恵)になります!

【ブックマーク登録】も、ぜひぜひよろしくお願いいたします!

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