祝祭の回転寿司と、魔王の秘密 ~真の不労所得は誰の手に~
祝祭の回転寿司と、魔王の秘密 ~真の不労所得は誰の手に~
ポポロ村の中央広場は、煌びやかなネオンサインと、酢飯の芳醇な香りに包まれていた。
私のユニークスキル【デパート】によって展開されたのは、地下食品フロアの奥に鎮座する大人気テナント――『特設・高級回転寿司シュクル』である。
広場の中央をぐるりと囲むように設置された巨大なレーン。その上を、色とりどりの新鮮なネタが乗ったお皿が、絶え間なく回っている。
各席に完備された魔導タッチパネルで注文すれば、上段の特急レーンを『新幹線型の魔導トレイ』が猛スピードで走り抜け、お客様の目の前へピタリと新鮮な寿司をお届けする最新鋭のシステムだ。
「……ほう。座っているだけで次から次へと美味い飯が流れてくるとはな。休日の労働対価としては、悪くないシステムだ」
カウンターの特等席に陣取ったジークさんが、ポポロシガーを携帯灰皿に揉み消し、流れてきた『大間産本マグロの炙りトロ』をヒョイとつまんで口に放り込んだ。
彼の横には、すでに数十枚の皿がタワーのように積み上がっている。
「ジークさん、今日は特別に食べ放題ですから、遠慮せずにどんどん召し上がってくださいね」
「あぁ。次はタッチパネルで『特大ウナギの白焼き』を頼む。……おいコトネ、あの新幹線トレイ、俺のコタツの横にもレールを引けないか? そうすれば一歩も動かずに飯が食える」
「デパートの備品をあなたの堕落ライフの道具にしないでいただけます?」
私は呆れながらツッコミを入れ、厨房側から新しいお皿をレーンに流していく。
その少し離れたテーブル席では、ゴルド商会のニャングルさんと、村長のキャルルさんが、熱燗の徳利を傾けながら祝杯をあげていた。
「いやぁ、キャルルはんのシャイニングウィザード、見事なもんやったで。これでポポロ村の治安もバッチリや」
「ええ、村の資産を掠め取ろうとする不届き者は、誰であろうと容赦しませんわ。……ところで、あの青スーツの詐欺師はどうなりましたの?」
「おう、さっきウチの若い衆が、シーラン国行きの護送馬車にきっちりブチ込んどいたわ。今頃、前回の詐欺師(火原)と仲良く、マグローザ漁船の底でケツ拭く紙(K)のために泣きながらチンチロリンを振っとる頃やろな」
ニャングルさんが冷酷な笑みを浮かべながら、エンガワの握りを口に放り込む。
悪徳情報商材屋は、真の闇金(ゴルドスマイル銀行)の手によって、完全に海の藻屑として処理されたのだ。
さて、そんな大団円の祝祭空間の中。
レーンの隅っこにあるテーブル席では、奇妙なコントラストを描く『格差社会』が展開されていた。
「うぅ……っ、ぐすっ……美味しい……美味しいですわ、ルチアナ様……っ!」
「ええ、リーザ……。甘くて、お出汁がたっぷりで……本当に、美味しいわね……っ!」
頭に大きなたんこぶ(シャイニングウィザードの痕)を作ったリーザとルチアナが、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら頬張っていたのは、一皿百円相当の黄色いお皿――『自家製厚焼きタマゴ』と『カッパ巻き』であった。
トイチのローン契約の恐怖、S級魔獣キメラの襲来、そしてキャルルの飛び膝蹴り。
数々の地獄をくぐり抜け、何日も味のない『もやし炒め』しか食べていなかった彼女たちの胃袋に、甘い出汁の染み込んだタマゴの優しい味が、暴力的なまでの感動をもって染み渡っていた。
「もやしじゃない、本物のご飯ですわ……! 噛めば噛むほど、甘い味がしますのぉぉっ!」
「そうねリーザ! 私たち、もう変な儲け話には絶対に乗らないわ! 地道に働いて、毎日このタマゴ寿司を食べるのが一番の幸せなのよぉぉっ!」
二人は誓い合いながら、黄色いお皿を大事そうに積み重ねていく。
――だが。
その二人の感動の誓いを、いとも簡単に打ち砕く光景が、すぐ隣の席で繰り広げられていた。
『ピロロロローン♪ ご注文の品が、到着いたしました♡』
魔導タッチパネルの可愛らしいアナウンスと共に、新幹線トレイが猛スピードで隣の席に滑り込んでくる。
そこに乗っていたのは、黒と金で縁取られた超高級皿。
「あら、来たわね。……ふふっ、見事な霜降り。まさに海の宝石箱ね♡」
漆黒のドレスを着たアバロン魔皇国の魔王・ラスティアが、艶やかな唇をペロリと舐めた。
彼女のテーブルには、すでに『大間産大トロ』『極上生ウニの軍艦巻き』『アワビの踊り食い』『こぼれイクラ』といった、一皿数千円は下らないであろう黄金の皿が、まるでバベルの塔のように高くそびえ立っていた。
「いただきまぁす♡ ……んん〜っ! 脂が口の中でとろけるわ! このウニも濃厚で最高ね!」
ラスティアは、冷えた最高級シャンパンをグラスで煽りながら、次々と黄金の皿を空にしていく。
「…………」
「…………」
隣の席でタマゴをかじっていたリーザとルチアナの動きが、ピタリと止まった。
自分たちのテーブルにある「黄色い皿(百円)」三枚と。
ラスティアのテーブルにある「黄金の皿(数千円)」数十枚。
圧倒的、あまりにも圧倒的すぎる資本力の差が、二人の網膜を無残に焼き尽くしていた。
「な……なんで……」
ルチアナが、ワナワナと震える手で割り箸を握りしめ、ラスティアを凝視した。
「あんた……! なんでそんなに金持ってんのよぉぉぉっ!?」
限界を迎えたルチアナが、ついに絶叫した。
「さっきも言ったじゃない! あんた、福岡への追っかけ遠征で散財してたはずでしょ!? どうして回転寿司で一番高いお皿ばっかり、値段も見ずにポチポチ注文できるのよ! おかしいじゃない!」
「そうですわ! 私たちなんて、もやし生活から抜け出すために怪しいコンサルにまで騙されたのに! なんで魔王様だけ、いつもそんなに羽振りが良いんですのぉぉっ!?」
リーザも血の涙を流しながらテーブルに身を乗り出す。
二人の悲痛な叫びを受け、ラスティアはシャンパングラスを優雅に揺らした。
「どうしてって言われても……ねぇ?」
ラスティアは、ウインクをして見せながら、悪びれもせずに答えた。
「だから、お昼にも言ったじゃない。偶々(たまたま)よ〜♡ ちょっとした『不労所得』が、私の口座にチャリンチャリンと転がり込んできただけなんだから♡」
「ふ、不労所得ぅぅっ!? 許せない! 私たちが一番欲しかった言葉ですわーッ!!」
「キーッ! ずるいずるい! 私にもその不労所得のやり方教えなさいよぉぉっ!」
ハンカチを噛んで悔しがる二人を尻目に、ラスティアは「ふふっ」と優雅な笑みをこぼし、大トロを醤油につけた。
(……教えてあげるわけないじゃない。本当にバカな子たちね♡)
ラスティアは、口の中でとろける大トロを味わいながら、心の中でどす黒い真実を反芻していた。
数時間前、あの詐欺師がヤケクソになって叩き割った、アバロン魔皇国製の『魔獣カプセル(キメラ入り)』。
本来、あんな超危険な軍事兵器が、一介の詐欺師の手に渡るはずがない。
あれは、魔王ラスティア自身が、裏社会の組織『ナンバーズ』の幹部スリーに対して、意図的に横流しした【不良在庫】であった。
『使役者の命令を聞かず、カプセルを開けた者に真っ先に襲いかかる』という致命的なバグを抱えた失敗作。
それを、「強力な護身用兵器よ♡」と甘い言葉で騙し、スリーに天文学的な価格で売りつけたのだ。
(サメジマとかいう三流のペテン師が『不労所得』を騙っていたみたいだけど……笑わせるわね。本当の不労所得っていうのはね、組織のバカな末端に不良品を高値で売りつけて、勝手に自爆していくのを安全圏から眺めながら、その利益で大トロを注文することよ♡)
魔族の頂点に立つ女帝の、あまりにもブラックで冷酷なビジネスモデル。
スリーの資金力から搾り取った莫大な金貨は、ラスティアの個人口座を潤し、明日の朝倉月人のライブチケット代と、ソシャゲのガチャ天井(SSR確定)の資金へと見事に変換されていた。
(ごちそうさま、サメジマ。あなたの捨て身の自爆のおかげで、今日のウニと大トロは格別に美味しいわ♡)
すべては、魔王の手のひらの上。
詐欺師のサメジマは、自分がカモを狩っているつもりで、実は一番巨大な【魔王という名の捕食者】の養分に過ぎなかったのである。
「さぁさぁ皆様! 宴はまだまだこれからですわよ!」
私は、魔王のどす黒い内心など知る由もなく、厨房から極上の笑顔で声を張り上げた。
「本日のシメの特製デザート! 『メロロンと太陽芋の和風抹茶パフェ』がレーンを回りますわーッ! 腹八分目という言葉は、当デパートの辞書には存在いたしませんことよ!」
「うおおおおっ! パフェだぁぁっ!」
「コトネ、こっちに三つ回してくれ!」
ポポロ村の広場に、割れんばかりの歓声が響き渡る。
ルチアナとリーザも、「ああっ! パフェは別腹ですわーッ!」と泣きながら黄色いお皿を押し除け、レーンに向かって身を乗り出していた。
詐欺師の残した借金も、魔獣の恐怖も。そして、資本主義の理不尽な格差社会すらも。
すべてを極上の『美味しい食事』と『デパ地下のエンターテインメント』で強引に包み込み、昇華させてしまう。
これこそが、百貨店シュクルの絶対的なパワー。
「ふふっ……。今日も一日、すべてのお客様に最高の満足をお届けできましたわね」
私はエプロンのシワを伸ばし、賑やかに笑い合う村の仲間たちを見つめながら、誇らしげに微笑んだ。
ポポロ村の夜空に、平和で、そしてどこまでも美味しい回転寿司の宴は、いつまでもいつまでも続いていくのだった。
(第7章 情報商材屋の末路と、魔法少女のお約束破壊 完)
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