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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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ハイエナの末路とシャイニングウィザード ~窃盗(泥棒)は重罪ですわ~

 ハイエナの末路とシャイニングウィザード ~窃盗(泥棒)は重罪ですわ~

ポポロ村の中央広場。

私が放ったRPG−7の硝煙が夜風に流されていく中、戦場はすべて静寂を取り戻しつつあった。

広場の中心では、テカテカの青スーツをズタボロにされた鮫島剛が、白目を剥いて完全に気絶している。彼の口からは、カニのようにプクプクと泡が吹かれていた。

そして、粉砕されたS級魔獣キメラの跡地には、キラキラと輝く『魔石』や、爆発を免れた『獅子の牙』『山羊の角』といったレア素材が、パラパラと散らばっている。

「……ルチアナ様。見まして? あれ」

「ええ、リーザ。見たわ。……キラキラ光ってるわね」

瓦礫の陰から、ボロボロの芋ジャージを着た二人が、ゴキブリのような素早さでカサカサと這い出してきた。

二人は無言で目配せをすると、音もなくキメラの残骸へと忍び寄った。

「(しめしめ……! コトネさんたちが鮫島の処理に気を取られている今がチャンスですわ!)」

「(そうよ! いくらデバフされて弱体化したとはいえ、元はS級魔獣! この魔石と素材を売り払えば、あの悪徳コンサルにサインさせられた『トイチの借金』をチャラにして、さらにお釣りが来るはずよ!)」

「(お釣りが来れば、ルナキンでヒレステーキが食べられますわーッ!)」

「(月人君のガチャも天井まで回せるわーッ!)」

強欲と飢餓感に突き動かされた駄女神と元王女は、まるでハイエナのように、地面に散らばるレア素材を次々とジャージのポケットや、どこから持ってきたのか分からない麻袋に詰め込んでいった。

「よし、回収完了よ! リーザ、このまま村の端にある『ゴルドスマイル銀行』の夜間窓口に駆け込むわよ!」

「ええ! 質草としてぶち込んで、現金をゲットですわ!」

二人がほくほく顔で麻袋を担ぎ、抜き足差し足で広場から逃げ出そうとした、その時である。

「……どこ行くねん、自分ら」

背後から、氷のように冷たく、そして計算高い関西弁が降ってきた。

ビクッ!!

二人が機械仕掛けの人形のように振り返ると、そこには翡翠の算盤をチャキッ、チャキッ、と弾きながら、目を細めて笑う猫耳の男――ニャングルさんが立っていた。

「ひぃっ!? にゃ、ニャングルさん!」

「い、いや、これはその、広場の清掃ボランティアをですね……!」

二人が必死に弁解しようとするが、ニャングルさんの目は全く笑っていない。

「あんなあ。この世界には『所有権』っちゅう立派な概念があるんやで。キメラを討伐したのは、自警団のキャルルはんと、デパートのコトネはんや。つまり、ドロップした素材の所有権はポポロ村と百貨店シュクルに帰属する。それを勝手に持ち出して金に換えようとするのは、立派な『窃盗(ドロボー)』や」

「うっ……!」

「だいたいな」

ニャングルさんは算盤をピタリと止め、冷酷な現実を突きつけた。

「ウチの『ゴルドスマイル銀行』は、ちゃんとした金融機関や。お前らみたいな泥棒が持ち込んだ盗品を買い取る、場末の『質屋』とちゃうんやで! コンプライアンス違反でワイの首が飛ぶわ!」

「そ、そんなぁっ! じゃあこの素材はどうすればいいんですの!?」

「決まっとるやろ。村の資産として全額没収や」

ニャングルさんが指を鳴らすと、黒服の銀行員たちが現れ、二人からレア素材の詰まった麻袋を容赦なく没収していった。

「ああああっ! 私たちのヒレステーキがあぁぁっ!」

「SSR完凸の夢がぁぁっ!」

泣き叫ぶ二人の前に、今度はコツン、コツン、と特注安全靴の足音を響かせながら、ポポロ村の村長が歩み寄ってきた。

「……ルチアナ、リーザ」

「ひっ、キャ、キャルルさん……」

キャルルさんは、聖母のような、この上なく優しい微笑みを浮かべていた。

だが、その瞳には一切のハイライト(光)が宿っていない。完全に『キレた時の顔』である。

「あなたたち、ついさっきコトネさんに新聞紙で叩かれたばかりなのに。……今度は火事場泥棒ですか?」

「ち、違いますわ! これは出来心で……!」

「村の資産を掠め取ろうとした罪、村長として見過ごすわけにはいきませんね。……お仕置きですねぇ♡」

キャルルさんが、にっこりと首を傾げた。

その瞬間、彼女の足元から『バチバチッ!』と紫電の火花が弾けた。

「に、逃げるわよリーザ!!」

「死にますわ! 安全靴で蹴られたら死にますわーッ!!」

二人は悲鳴を上げ、全速力で広場を逃げ出した。

しかし、相手は通常時でも100メートルを5秒台で駆け抜ける月兎族のトップアスリートである。

「逃がしませんよっ!」

キャルルさんがクラウチングスタートの姿勢から地面を蹴り砕く。

ドンッ!!

マッハに迫る速度で二人の背後に一瞬で肉薄したキャルルさんは、そのまま空高く跳躍した。

「【月影流・極】――ッ!!」

空中で体を捻り、二人の逃走ルートを完全に先読みした軌道で落下していく。

ターゲットは、逃げ惑う駄女神と元王女の後頭部。

膝を鋭角に曲げ、全体重と闘気、さらには落下エネルギーのすべてを一点に集中させた、プロレス技の真髄にして必殺の一撃。

「シャイニング・ウィザァァァァァァァァドッ!!!!」

ドゴォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

キャルルさんの膝が、二人の後頭部に同時かつ完璧なタイミングでクリーンヒットした。

「「あべぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

哀れ、ルチアナとリーザは、その凄まじい衝撃によって大理石の床に顔面から激突し、見事なまでに上半身が地面にめり込んでしまった。

犬神家の一族のように、ジャージ姿の足だけがピーンと空に向かって突き立っている。

「ふぅ。着地も完璧ですね。10点満点です」

キャルルさんは、地面にめり込んだ二人を飛び箱のようにして着地を決めると、満足げに安全靴の砂埃を払った。

「相変わらず、容赦のない膝蹴りだな。首の骨が折れてなきゃいいが」

ジークさんが、倒れている二人をサンダルのつま先で小突きながら呟く。

「大丈夫ですわ、ジークさん。彼女たち、ああ見えて悪運と生命力だけはゴキブリ並みですから。……それより、ニャングルさん」

私はトレンチコートの襟を正し、気絶している鮫島の方へ視線を向けた。

「こいつの身柄と、抱え込んでいる債務の処理、お任せしてもよろしくて?」

「おう、任せとき。こいつの持っとるトイチのローン契約書も、ワイが法的に無効化して破棄したるわ。……その代わり、この青スーツには、たっぷり『体』で返してもらうで」

ニャングルさんが冷酷な笑みを浮かべて指を鳴らすと、ゴルド商会の黒服たちが現れ、気絶している鮫島を麻袋に詰め込み始めた。

「行き先は、もちろんあそこですね?」

「せや。シーラン国の『マグローザ漁船』行きや。前回の火原の奴と、仲良く蟹工船の底で労働賛歌でも歌ってもらおか」

かくして、情弱を食い物にして調子に乗っていた悪徳情報商材屋・鮫島剛は、海の藻屑となるべくドナドナされていった。

彼の『誰でも月収金貨100枚稼げるサロン』の終着駅は、ケツを拭く紙にもならない船内通貨でチンチロリンをする、絶望の地下労働施設であった。

「さて、これで本当に一件落着ですわね」

私はエプロンを取り出し、パンパンとシワを伸ばして身に着けた。

「悪徳商法も排除し、村の治安も守られました。……皆様、今夜は大変お疲れ様でした。冷たい夜風で冷えた体を温めるため、デパートの総力を挙げて大宴会を開催いたしますわよ!」

「おおっ! 宴会か! 今夜の飯は何だ、コトネ!」

ジークさんが目を輝かせて振り返る。

「ふふっ。今夜は、老若男女問わず誰もが笑顔になれる至高のエンターテインメント……【デパ地下特設・高級回転寿司】でございますわーッ!」

私の宣言に、自警団の面々から「うおおおっ!」という地鳴りのような歓声が上がった。

地面にめり込んでいたルチアナとリーザの足も、ピクッと反応してバタバタと動き始めている。

詐欺師の残した余韻はすべて消え去り、ポポロ村の夜は、いよいよ極上の祝祭へと突入しようとしていた。


読んでいただきありがとうございます。

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