変身バンクとRPG-7 ~魔法少女のお約束破壊~
変身バンクとRPG-7 ~魔法少女のお約束破壊~
「許しませんわ! 許しませんわぁぁぁぁぁっ!!」
ポポロ村の広場に、悲痛極まりない絶叫がこだました。
窓を突き破って飛び出してきたのは、ボロボロの芋ジャージを身に纏ったリーザとルチアナだった。
特にリーザの形相は凄まじかった。空腹と貧困、そして何より「不労所得の夢」を無残に打ち砕かれた恨みによって、彼女の瞳はドス黒い炎を燃やしている。
「ひぃっ!? な、なんだあの女!」
キメラの尻尾(毒蛇)に逆さ吊りにされている鮫島が、リーザの放つ異常なオーラに怯えて悲鳴を上げた。
「私の……! 私の『もやし生活からの大逆転』の夢を弄んだ罪……! 哀と! 貧乏と! お腹ペコペコの苦しみ、今晴らしますわあああぁぁぁっ!!」
リーザが手にした奇妙な機械――『お賽銭箱型掃除機』のスイッチを、怒りに任せて【MAX】へと押し込んだ。
ズォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!
掃除機のノズルから、竜巻のような強烈な吸引力が発生した。
ただし、それは物理的な空気を吸い込んでいるわけではない。ターゲットであるS級魔獣キメラの『全財産(体内の魔石エネルギー)』と『ステータス(筋力、魔力、生命力)』を強制吸引する、ユニークスキル【貧乏神】の絶対的理不尽なデバフ効果である。
「グォォォォ!? ギャァァァァァッ!?」
先ほどまで威風堂々と咆哮していたS級の合成魔獣が、掃除機に吸われるたびに「シュルシュルシュルッ」と音を立てて縮み始めた。
隆々とした獅子の筋肉は削げ落ちてガリガリに。山羊の頭は毛が抜け落ちてシワシワに。毒蛇の尻尾はミミズのように細弱ってしまった。
「ギャンッ……キャンキャンッ……!」
わずか数秒で、巨大だったキメラは小型犬ほどのサイズになり、プルプルと震える悲惨な姿(最弱状態)へとデバフされてしまったのだ。
「あべぇっ!」
尻尾の拘束力が弱まったことで、鮫島は頭から大理石の床に墜落し、白目を剥いて完全に気絶した。
その時である。
夜空から、まばゆいスポットライトのような光の柱が、広場の中央に降り注いだ。
「はいっ☆ 全国のリスナーの皆さ~ん! キュララちゃんねる、緊急生配信スタートだよっ!」
上空から純白の翼を広げて舞い降りてきたのは、天使族のトップゴッドチューバー、キュララであった。彼女の周囲には、何台もの魔導カメラが浮遊し、あらゆる角度から彼女の姿を捉えている。
「突如出現したS級魔獣キメラ! でも安心してね、愛と正義のキュララちゃんが今から成敗しちゃうから! 深夜のスーパーボーナスタイム、撮れ高キタアアッ! スパチャよろしくぅ!」
チャリンチャリン! と、彼女の持つ魔導モニターにリスナーからの投げ銭が滝のように流れ込む。
「それじゃあ、いっくよーっ! ホーリー・メイクアップ!!」
キュララがステッキを天に掲げた瞬間。
チャララーン♪ チャンチャチャチャーン♪
どこからともなく、壮大なオーケストラ調の変身BGMが広場に鳴り響き始めた。
キュララの周囲にキラキラと輝く星屑のエフェクトが舞い散り、ピンク色の光のベールが彼女の身体を包み込む。スローモーションでリボンが絡みつき、普段着のフリフリ衣装が、徐々に重厚な『聖騎士の鎧』へと変化していく。
それは、魔法少女モノの特撮やアニメで誰もが一度は目にしたことがある、極めて美しく、そして『長~い』専用変身バンクであった。
通常、この変身バンク中には絶対的な不可侵領域が形成され、敵も味方もただ黙ってその美しさを見守るというのが、物語の暗黙の了解(お約束)である。
――しかし。
ここにいるのは、お約束など1ミリも気にかけることのない、超合理主義の経営者と、実戦主義の武闘派村長である。
「……随分と、隙だらけですねぇ」
キャルルさんが、冷たい目でデバフされてプルプル震えているキメラを見下ろした。
変身BGMが「キララララ~ン♪」と最高潮に達しようとしている真横で、彼女は特注安全靴の踵をカチッと鳴らした。
「【月影流 顎砕き】ッ!」
ドンッ!!
キャルルさんの脚に銀色の闘気が弾けた。音速の踏み込みから放たれた強烈な膝蹴りが、ひ弱になったキメラの顎を正確にぶち抜いた。
「キャイィィィンッ!?」
デバフによって軽くなっていたキメラの体は、錐揉み回転しながら、まるでゴム鞠のように上空数十メートルへと高々と打ち上げられた。
一方、キュララはまだ光のベールの中でスローモーションの変身を続けている。
「(キュピピピピ~ン♪ 光の鎧が私を包み~♪ 今、正義の使者が~♪)」
そのキラキラとしたエフェクトの真横に、私は無表情のままツカツカと歩み寄った。
そして、変身中のキュララの背後に展開されていた『武器収納空間』の光の渦の中に、ためらいなく手を突っ込んだ。
「……キュララ、そのRPG-7、借りますわよ」
「えっ? ちょっとコトネちゃん!? 今変身中だからアイテム勝手に取らな――」
キュララの制止の声を完全に無視して、私は武器空間から無骨な対戦車ロケット『RPG-7』を力ずくで引ったくった。
純白のトレンチコートに身を包んだデパートのオーナーが、肩に対戦車ロケットを構えるという極めてアンバランスな光景。だが、私の瞳には、クレーム対応(強制排除)を遂行する冷徹な商人の光しか宿っていない。
「悪徳商法と、そこから生み出された不良在庫には……」
私は、上空で落下点に向かって落ちてくるキメラに狙いを定めた。
「圧倒的火力をもって、即時対処いたしますわ」
私は一切の躊躇なく、RPG-7の引き金を引いた。
シュボォォォォォォォォンッ!!!!!
ロケットランチャーから発射された高威力弾頭が、夜空に赤い尾を引いて一直線に飛んでいく。
そして、空中に無防備に浮いているキメラのど真ん中に、寸分の狂いもなく直撃した。
ドガァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!
夜空に、巨大な爆炎の花火が咲き誇った。
S級魔獣キメラは、悲鳴を上げる間もなく木端微塵に粉砕され、光の粒子となってポポロ村の空に散っていった。
その直後。
「――愛と正義の聖騎士、キュララちゃん、ここに見・参っ☆」
チャラーン! という効果音と共に、変身を終えたキュララが、魔導カメラに向かってキラリと星を飛ばしながら完璧な決めポーズをとった。
しかし、彼女が指差した先――敵がいるはずの空には、RPG-7の硝煙が虚しく漂っているだけであった。
「…………え?」
キュララはポーズをとったまま、瞬きをパチクリと繰り返した。
そして、消滅したキメラと、肩にRPG-7を担いで煙をフゥと吹き消している私を交互に見比べて。
「ええええええええええええええ!? ちょっとぉぉぉっ!!」
キュララが魔導カメラを抱え、涙目で絶叫した。
「なんで変身終わる前に倒しちゃうのよぉぉっ! アニメでも特撮でも、変身中は敵も味方も待つのが絶対の『お約束』でしょおおお!?」
私は、RPG-7の砲身をポンと叩きながら、極めてクールに、そして冷酷に言い放った。
「……現実のビジネス(戦場)に、お約束も、変身の待ち時間などという無駄なコストも存在しませんわ。尺の無駄です」
「尺の無駄って言ったぁぁぁっ!? 私の撮れ高返してよぉぉぉっ!」
キュララのメタ的な抗議の悲鳴が夜空に響き渡る中。
ジークさんが、ポポロシガーの灰を落としながらニヤリと笑った。
「コトネの言う通りだ。隙を見せた奴が悪い。……さて、これで派手な花火大会(クレーム処理)も終わりだな」
S級魔獣キメラは跡形もなく消え去り、詐欺師の鮫島は白目を剥いて気絶している。
すべては丸く収まったかに見えた。
しかし、人間の(あるいは駄女神と人魚の)強欲というものは、これほど恐ろしい出来事の直後であっても、決して消え去ることはないのである。
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