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婚約破棄された元パティシエ令嬢、追放先で【デパート】を開業!守銭奴商人と規格外護衛を雇ったら、三カ国の軍と胃袋を支配してました  作者: 月神世一


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自警団包囲網と絶望の魔獣カプセル ~損切りのパラダイムシフト~

 自警団包囲網と絶望の魔獣カプセル ~損切りのパラダイムシフト~

夜のポポロ村、中央広場。

星空を切り裂くように飛来した『青い流れ星』は、美しい放物線を描き、村の広場に設置されていた噴水の中に、盛大な水しぶきを上げてドゴォォォン! と墜落した。

「あべぇぇぇぇぇ……っ」

噴水の冷たい水に全身を浸し、カエルのように手足を広げて這いつくばっているのは、自称ITコンサルタントの詐欺師・鮫島剛であった。

隣町の歓楽街で、第六の聖獣リキ兄貴の放った『手加減・聖雷鉄拳制裁』を顎にまともに食らい、隣町からこのポポロ村まで文字通りホームランされてきたのだ。

「い、いてぇ……。顎が……全身の骨が砕けたかと思ったぜ……。なんだあのヤンキー……ステータス偽装が全く通じねぇバグキャラじゃねぇか……」

テカテカの青スーツはズタボロに破け、自慢のオールバックは噴水の水と泥で悲惨なことになっている。

だが、リキ兄貴の絶妙な手加減により、命に別状はない。鮫島は痛む体を庇いながら、噴水の縁に手をかけてズルズルと這い上がった。

「クソッ……! 酷い目に遭った! こうなったら、一旦アジトに戻って体勢を立て直すしか……」

「お帰りなさいませ、お客様。深夜のご来店、誠にありがとうございます」

「――ヒッ!?」

突然、背後からかけられた完璧な『営業スマイルの挨拶』に、鮫島はビクッと肩を震わせて振り返った。

ポポロ村の広場は、いつの間にか松明と魔導サーチライトの強烈な光によって、真昼のように照らし出されていた。

そして、光の中心に立っているのは、純白のトレンチコートを着た美しい少女――百貨店シュクルのオーナー、コトネ・シュクル。

彼女の後ろには、村長であるキャルル、ゴルド商会のニャングル、そしてタローマンのジャージ姿でパイプ椅子を肩に担いだジークの姿があった。

だが、それだけではない。

「おとなしくしろ、詐欺師! 動けば即座にアグニ(パイルバンカー)で脳天をブチ抜くぞ!」

「チャキッ!」という無数の金属音と共に、広場を完全に包囲していたのは、重武装を施したポポロ村の自警団だった。

先頭に立つのは、ケンタウロス種の自警団リーダー・マンミア。彼女の左腕に装着された極太のパイルバンカー『アグニ』の照準が、鮫島の眉間をピタリと捉えている。さらに、周囲を取り囲む数十名の自警団員たちの魔導クロスボウも、一斉に彼に向けられていた。

「な、なんだよこれ……!? ど、どうして俺の逃げ先が……!」

鮫島は腰を抜かし、濡れた大理石の床を這って後ずさった。

「あら、ご自身の足跡(ログ)の消去がお粗末でしたわよ、サメジマさん」

私は冷ややかに見下ろした。

「あなたが隣町のキャバクラで豪遊しているという目撃情報は、すでにこちらに入っておりました。ジークさんのプロファイリング通りですわ。……それにしても、まさか夜空から直接(デリバリーで)ご来店いただけるとは思いませんでしたが」

「チッ、あいつ、キャバクラでボコられて飛ばされてきやがったのか。手間が省けて何よりだ」

ジークさんが呆れたようにポポロシガーの煙を吐き出す。

「ひぃぃっ……! ま、待ってくれ! これは誤解だ! 俺はただ、村の若者たちに新しい“ビジネススキーム”を提案しただけで……!」

「黙りなさい」

私の短い一言が、広場の空気をピシャリと凍りつかせた。

「実態のない情報商材で若者の不安を煽り、無価値な落書きを神話級だと偽装し、トイチのローンで借金漬けにする。……それがあなたの言うビジネススキームですか。お客様を騙し、職人の魂を愚弄するその手法、商人として断じて許すわけにはいきませんわ」

「せやな」

私の横から、ニャングルさんが翡翠の算盤を弾きながら進み出た。

「クーリングオフ期間の不履行、詐欺罪、精神的苦痛への損害賠償。それに、逃亡による遅延損害金……。諸々合わせて、金貨三万枚や。払えんのやったら、今すぐマグローザ漁船行き特急便のチケットを手配したるで」

「マ、マグローザ漁船!? あの生きて帰れないって噂の地獄の蟹工船か!?」

「当たり前や。お前みたいな悪党にはお似合いの再就職先やろ」

「い、いやだぁぁっ! 助けてくれぇっ!」

絶体絶命の包囲網。借金とマグローザ漁船という絶望のワードを前に、鮫島は狂ったように叫び声を上げた。

「俺には! 俺にはバックがついてるんだ! 【ナンバーズ】の幹部が俺のパトロンだぞ! スリー様! スリー様ァァッ! 助けてくださいィィッ!!」

鮫島が天を仰いで泣き叫んだ、その直後だった。

『……本当に、学習能力のない男だ。これだから三流のペテン師は使い道がない』

広場の空気がグニャリと歪んだ。

自警団の厳重な包囲網のど真ん中、鮫島のすぐ背後に、漆黒のコートを着た長身の男が『音もなく』出現したのだ。

犯罪組織ナンバーズの幹部、No.3 スリー。空間転移(テレポート)のスキルを持つ闇のブローカーである。

「ス、スリー様ッ! ああ、来てくださったんですね! さぁ、早く俺をここからテレポートで……!」

鮫島がすがりつこうと手を伸ばすが、スリーは表情一つ変えずに、革靴のつま先で鮫島の顔面を無造作に蹴り飛ばした。

「ガハッ!?」

「気安く触るな、泥にまみれた敗残兵が」

スリーは冷酷な爬虫類のような瞳で、地面に這いつくばる鮫島を見下ろした。

「お前には、ポポロ村の住民から“合法的に”資金を巻き上げる集金システム(サロン)を期待していたのだがな。たった数日でメッキが剥がれ、あまつさえキャバクラで無銭飲食騒ぎを起こして叩き出されるとは。……リスクとリターンが全く見合っていない」

「そ、そんな……! もう一度だけチャンスを! 俺の“マインドセット”をアップデートすれば、次は必ず結果(コミット)を出します!」

「ビジネス用語(横文字)で無能を誤魔化すのはやめろ。耳障りだ」

スリーの冷酷な言葉が、鮫島の心を完全にへし折った。

「火原の時と同じだ、サメジマ。お前は今日をもって組織から追放する。……完全なる『損切り』だ」

「そ、損切り……!?」

「ポポロ村への負債も、ナンバーズへの借金も、お前個人の責任で精算しろ。せいぜい、漁船の上で己のビジネスモデルを見直すことだな」

スリーはそう言い捨てると、懐から時計を取り出し、時間を確認した。

「……用件は以上だ。私は忙しいのでな。さらばだ、無能」

「ま、待ってくれスリー様ァァッ!!」

鮫島が手を伸ばすが、虚しく空を切る。スリーの体は蜃気楼のようにフッと空間に溶け込み、跡形もなく消え去ってしまった。

完全なる見捨てられ。

後を絶たれ、前にはアグニを構えた自警団と、怒りに燃えるデパートのオーナー。

「……さぁ、年貢の納め時よ、サメジマ。おとなしく縄に就きなさい」

キャルルさんがトンファーを構え、じりじりと距離を詰める。

「お、終わる……。俺の、俺の異世界サクセスストーリーが、こんな底辺の村で終わっちまうのか……!?」

鮫島はガタガタと震えながら、自身の青スーツの内ポケットを探った。

そこにあったのは、以前スリーから『万が一の護身用』として預かり、そのまま横領して隠し持っていた一個の禍々しい球体――アバロン魔皇国製の『魔獣カプセル』であった。

本来、これは強力な召喚スキルを持つ者や、魔族の幹部クラスしか扱えない代物だ。戦闘力皆無の鮫島が使えば、飛び出した魔獣に自分自身が真っ先に食い殺される危険性が極めて高い。

だが、極限の恐怖と絶望によって発狂寸前となった鮫島は、もはや正常な判断力を失っていた。

「こうなったら……こうなったら道連れだァァァッ! 俺の人生の“パラダイムシフト”を見せてやる!! これが俺の最強の“アセット”だァァァッ!!」

鮫島は狂ったように叫びながら、そのカプセルを大理石の地面に全力で叩きつけた。

パァァァァァァンッ!!

カプセルが砕け散り、中からおびただしい量の黒い瘴気が爆発的に噴出した。

「マズい! 全員下がれッ!」

ジークさんが叫び、私を庇うように前に出る。

ズゴォォォォォォォンッ!!

広場の中央で、瘴気が実体を結び、巨大な怪物の姿を形作っていく。

獅子の剛健な頭部と前脚。

背中からは、巨大な山羊の頭部が不気味に首をもたげ。

そして、太く長い尻尾の先端は、猛毒の牙を剥き出しにした巨大な毒蛇。

「グォォォォォォォォォォォッ!!!」

現れたのは、あらゆる生物の強靭な部分を継ぎ接ぎして生み出された、凶悪無比なるS級の合成魔獣――『キメラ』であった。

「ひぃぃぃっ! 出た! 出たぞォォッ! やれ! こいつらを全員皆殺しにして、俺の“ブルーオーシャン”を切り拓くんだァァッ!!」

鮫島が狂喜乱舞して叫ぶが、キメラの三つの頭は、真っ先に『一番近くにいる弱そうな肉』――すなわち、鮫島自身にその凶悪な眼光を向けた。

「……え?」

「シャァァァァァァッ!!」

毒蛇の尻尾が、弾かれたように鮫島の体をグルグル巻きに縛り上げ、そのまま宙吊りにした。

「ぎゃあああああっ!? ち、違う! 俺はご主人様だぞ! なんで俺を食おうとするんだァァァッ!?」

鮫島が空中でジタバタと暴れるが、キメラの山羊の頭が、鮫島の青スーツを美味しそうにムシャムシャと齧り始める。自業自得の極みである。

「コトネさん! あれはS級の合成魔獣です! このまま暴れさせたら、村の広場が壊滅しますわ!」

キャルルさんが焦燥の声を上げる。

「ええ、分かっていますわ! 皆様、迎撃態勢を――」

私が対空魔砲を召喚しようとした、まさにその時。

村長公邸の窓をブチ破って、二つの影が猛スピードで広場に飛び出してきた。

「許しませんわ! 許しませんわぁぁぁぁぁっ!!」

現れたのは、ボロボロの芋ジャージを着た、リーザとルチアナだった。

リーザの瞳は怒りと飢餓で真っ赤に血走り、その手には、奇妙な形をした『お賽銭箱型の掃除機』が握りしめられていた。

「私の……! 私の『もやし生活からの大逆転(不労所得)』の夢を弄んだ罪……! 万死に値しますわあああぁぁぁっ!!」

最強の貧乏神(アイドル)による、怒りの強制搾取が、今まさにS級魔獣に向かって火を吹こうとしていた。

読んでいただきありがとうございます。

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